高みを目指すための3つの「コアバリュー」

――ライバーは、どのようにして集めたのですか?

【小野】当然、ゼロからの立ち上げだったので、ライバーを集めるのには苦労しましたね。当初は、オンラインか、ライブハウスなどのオフラインかを問わず、表現者として活動されている方々に地道に声をかけて、ライバー活動に参加してもらいました。

累計の契約ライバー数はまもなく2万5000人を突破しますが、既にYouTubeやTikTok、Instagramなどで自己表現している方は、自身の強みを知っているという意味で即戦力になると考えています。また、タレントの卵としてエージェントに所属しているものの活躍の場が限られているアーティストなどにも、スカウト活動を積極的に行なっています。

一般の方からも「17LIVE」でライブ配信を始めてみたいという問い合わせが多くあります。始めるきっかけは、こちらからのスカウトだけではありません。アプリさえダウンロードすれば、誰でもライブ配信を始めることができます。そこから契約に至るケースも少なくありません。

――ライバープロデューサーの体制も、当初は先行投資で整えなければならなかったと思います。

【小野】もちろん、当社が目指すべき未来を見据えると、ライバープロデューサーは非常に重要です。しかし、それだけでは経営はうまくいきません。マーケティングなど、ライバープロデューサー以外の社員も集めなければなりませんでした。ライブ配信の将来に期待してくれる人たちを、採用率が1%になるほどこだわって採用して、チームを作りました。

当社では、私が日本で最初に設定したコアバリュー(行動指針)をグローバルでも採用しています。メンバーが業務に当たるときに常に念頭に置いてほしいものですし、このコアバリューを理解し、共感して、同じ船に乗ることができる方にジョインしていただいています。

コアバリューは3つあって、最初に掲げているのが「Respect Everyone」です。これを最初に持ってきていることに大きな意味があります。台湾発祥のサービスである「17LIVE」は、台湾、日本、米国、中東など様々な地域の多くのメンバーで成り立っているサービスです。だからこそ、まずは「違う考え方があって当たり前」と認識することを重要視しているのです。

2つ目は「Focus On Goals」です。当社はNPOではなく、営利を求めて活動する企業です。当然、売上や利益といった数字的な結果は、絶対的に必要なゴールの1つ。「これは誰かの価値になる。意味がある」と思うことでも、それが売上や利益に結びつかなければなりません。そのフォーカスをずらさないことを重視しています。

3番目に掲げているのは「Break The Norm」。「Norm」はノーマルなもの・コトを指し、「ありきたりなもの」とか「今のままの」といった言い方もできます。当社では、常に現状を破り続けるということを求めています。変化の激しいインターネット業界において、「昨日まで正しかったことや常識だったものが、そのままであり続けることはない」という前提に立つという意味を込めています。

2020年は、世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大したことにより、これまでの常識が覆される様々な壁にぶつかった年です。「ニューノーマル」という言葉が一般的になりつつありますが、当社がコロナ禍においても成長を続けていられたのは、このコアバリューに向き合ってきたからだと感じています。

個人のキャリア、個人のマインドセットという意味でも、あるターゲットに達したら、それでよしとせずに、次なる高みを求めてほしいと思っています。

――大きく成長するきっかけになった出来事はありましたか?

【小野】事業というものは、何か1つの出来事をきっかけに成長するわけではなく、様々な要素が絡み合って成功に向かうものだと捉えています。

ただ、先ほどお話ししたように、ライバーがアプリの外で輝けるスキームを、他に先駆けて、しかも数多く企画し、支持をいただいた点は大きかったですね。

また、コンテンツとテクノロジーにおいてリードしているということもお話ししましたが、その点では、デジタルギフトのバラエティの豊富さ、エフェクトのクオリティの高さは、他のプラットフォームを圧倒していると思っています。

加えて、オフラインイベント(リアルイベント)が「17LIVE」ほど充実しているライブ配信アプリは少ないようなので、「あのオフイベに出たい」というモチベーションで「17LIVE」に参加するライバーも少なくないようです。現在は、コロナの影響によりオフラインイベントを「ライブオンライン」という形で実施していますが、オフラインイベントを上回る参加ライバー数、収益を残しています。

――今夏にはGlobal CEOにも就任されました。グローバルでは、日本と台湾の他、香港、マレーシア、シンガポール、米国にも拠点を置いていて、ユーザー数は4500万人超(2020年3月時点)だということですが、他の国・地域と日本で違いはありますか?

【小野】コンテンツについて言えば、日本は他の国・地域に比べて多岐にわたっています。ユーザーの国・地域による違いは、実はそれほど如実にはないと思っています。海外旅行や英会話教室などで日本人が外国人と接すると、「日本人はシャイだね」と言われることが多いと思いますが、ライブ配信は非接触ということもあり、コメントもしやすい。「お気に入りのライバーを見つけて応援したい」と思う気持ちは万国共通です。

日本で開発した機能も多くあり、その中には、台湾をはじめ、他の国・地域でも展開しているものもあります。その最も象徴的な例が「エール」機能です。配信を5分視聴するごとに「エール」をライバーに贈ることができ、エールが一定数溜まったライバーは配信ルームのスコアを上げることができるという、オーディエンスの「視聴」という行為と「インラクティブなアクション」を組み合わせた機能で、無料で利用できます。

エール機能は実装直後からグローバルでの使用率が高く、ユーザーアンケートの結果を見ても満足度の高い機能です。オーディエンスとライバーをエンタテインさせた重要な要素だと言えると思います。