景気の現状判断DIは6か月連続で改善、先行き判断DIも3か月連続で改善

景気ウォッチャー調査
(画像=PIXTA)

11月10日に内閣府が公表した2020年10月の景気ウォッチャー調査(調査期間:10月25日~31日)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は54.5と前月から5.2ポイント上昇した。また、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は49.1と前月から0.8ポイント上昇した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

今回の結果からは、緊急事態宣言の解除により、経済活動が再開され、景況感に持ち直しの動きが着実に継続していることが確認された。また、新型コロナウイルス感染症の感染状況について、このところ感染拡大の動きがみられるが、調査期間中(10月25日~31日)にはそれほど顕在化していなかったことなどから、先行きへの警戒感が強くなかったように思われる。現状判断DIは50を超え、先行き判断DIも50に一層近づく結果となった。

また、地域別でみると、現状判断DI(季節調整値)は全ての地域で前月よりも上昇する一方、先行き判断DI(季節調整値)は地域ごとのばらつきがみられた。ただし、北海道については、調査期間中に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の兆候がみられたことが先行き判断に影響を与えたように思われる。

なお、現状判断DIや先行き判断DIは、景気が変化する方向を示す指標であり、景気の方向感としては改善しているが、景気の水準自体に対する判断を示す現状水準判断DI(季節調整値)は39.3(前月差+6.9ポイント)であり、経済活動の水準自体は新型コロナウイルス感染症の感染拡大前と比べると依然として低い水準にとどまっていることに留意する必要がある。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

景気の現状判断DI(季節調整値):50を超え、2014年1月以来の高水準

現状判断DI(季節調整値)は、4月に7.9まで落ち込んだ後に5月から6か月連続で改善した。現状判断DI(季節調整値)は54.5となり、2014年1月以来の水準となった。50を超えたのは2018年1月以来である。景気の現状判断DIの回答者構成比をみても、改善と回答した割合(「良くなっている」と「やや良くなっている」の回答の合計)(9月:30.7%→10月:38.0%)は増加する一方で、悪化と回答した割合(「悪くなっている」と「やや悪くなっている」の回答の合計)(9月:28.8%→10月:21.5%)が減少していることから、景況感は着実に改善していることが伺える。

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差+4.8ポイント)、企業動向関連(同+5.6ポイント)、雇用関連(同+6.8ポイント)の全てで改善し、いずれも50を超えた。また、家計動向関連の内訳をみると、小売関連(前月差+6.1ポイント)、飲食関連(同+5.4ポイント)、サービス関連(同+4.0ポイント)は上昇し、50を超えている。他方、住宅関連は前月から4.2ポイント低下した。企業動向関連の内訳においても、製造業(前月差+4.0ポイント)、非製造業(同+6.9ポイント)の双方で改善し、50を超えた。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

回答者のコメントからは、Go To Travelキャンペーンなどの政策効果などが景況感に好影響を与えたことが伺われた。その他、10月のたばこ税や酒税の増税への言及も多々見られた。

<Go To Travelキャンペーンなどの政策効果に関する主なコメント>

  • Go Toキャンペーンなどの景気刺激策が過剰とも思えるぐらいあり、効果も例年を上回る動きとなっているが、個人客が中心である。(東北・観光型旅館)
  • 内需については、Go To Travelキャンペーンの効果が表れ、人の動きが活発になっている。高速道路、電車の利用者も以前に比べて増えている。それに比例して経済も動いている。(南関東・一般レストラン)
  • Go To TravelキャンペーンやGo To Eatキャンペーン等の消費促進策もあり、観光業や飲食業等では客足が戻りつつある。ソーシャルディスタンスの確保で間引いていることもあるかもしれないが、週末に郊外では、満席の飲食店もある。(九州・新聞社[求人広告])

<たばこ税や酒税の増税に関する主なコメント>

  • 新型コロナウイルス禍の影響で来店客数の減少が継続している。10月の酒税改正とたばこの増税が影響し、新ジャンルビール、ワイン、たばこの販売点数が前年を大きく割っている。(沖縄・スーパー)
  • キャッシュレス・消費者還元事業が終了し、たばこや酒類の増税前の駆け込み需要もなくなったことから、商材の動きが悪くなっている。これまで販売量が伸びていた商材であっても、前年割れするものがみられる。今後、こうした商品群が増加するとみられる。(北海道・コンビニ)

景気の先行き判断DI(季節調整値):50に近づく

2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は、7月には新型コロナウイルス感染症の感染者の増加に対する懸念から大きく落ち込んだが、8月から3か月連続で改善した。先行き判断DI(季節調整値)は49.1であり、2018年10月以来の水準となった。景気の先行き判断DIの回答者構成比をみると、改善と回答した割合(「良くなる」と「やや良くなる」の回答の合計)(9月:24.9%→10月:25.5%)が増加する一方で、悪化と回答した割合(「悪くなる」と「やや悪くなる」の回答の合計)(9月:27.9%→10月:25.6%)は減少しており、先行きの景況感への好感が示唆されている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差+0.6ポイント)、企業動向関連(同+0.9ポイント)、雇用関連(同+1.9ポイント)の全てで改善した。また、家計動向関連の内訳をみると、小売関連(前月差+1.0ポイント)と住宅関連(同+5.5ポイント)は改善したが、飲食関連(同▲2.5ポイント)、サービス関連(同▲0.5ポイント)は前月から悪化した。ただし、サービス関連のDIは50を超えている。企業動向関連の内訳においては、非製造業(同+2.8ポイント)で改善する一方で、製造業(前月差▲1.0ポイント)は悪化した。

回答者のコメントからは、Go To Travelキャンペーンの効果への期待や、新型コロナウイルス感染症の今後の感染動向への警戒感が伺われた。また、冬のボーナスの動向やクリスマス商戦、初売り、忘年会、新年会などの冬に特有のイベントに関するコメントも多々みられた。

<Go To Travelキャンペーンの効果に関する主なコメント>

  • 11~12月の予約状況は良く、今後もGo To Travelキャンペーン、Go To Eatキャンペーンの効果が見込めそうである。また、宴会や会議でも予約の問合せが増えており、感染対策を万全にして開催したいという予約が増えている。(近畿・都市型ホテル)
  • Go Toキャンペーンの追い風もあり、現在よりも良くなる。新型コロナウイルスの感染状況にもよるが、地域限定クーポン等も購買力につながっており、まだ良くなる状況が続くと判断する。(東海・観光型ホテル)

<新型コロナウイルス感染症の今後の感染拡大への警戒感に関する主なコメント>

  • 最近でも、各地で新型コロナウイルス感染者の増加が散見され、依然、生活者の先行きの消費行動が抑えられるのではないかという警戒感がある。今後、更に廃業者が増えるとみている。(北関東・経営コンサルタント)。
  • 新型コロナウイルスの感染者数が微増していることを考えると、すぐに景気は良くならないし、寒い時期に入って感染者数が増加することになれば状況が悪くなる可能性もある。(中国・百貨店)。

<冬のボーナスの動向や初売り、忘年会、新年会などに関する主なコメント>

  • 新型コロナウイルスによる業績の大幅な悪化で、ボーナス商戦は厳しいものになると予想される。また、例年は福袋でにぎわう初売りも、今回は密を避ける販売となりそうで、集客、売上共に前年比で減少すると予想される。(近畿・百貨店)
  • 冬のボーナスの支給が厳しいという報道もあり、人々の消費動向が危惧されるが、同様に忘年会等も自粛傾向にあるため、家庭での消費には余り影響は出ないと予想する。(四国・スーパー)
  • 例年であれば、年末年始は休暇、帰省、忘年会、新年会等で客単価が上昇するが、新型コロナウイルスやインフルエンザに対する懸念から、移動や外出の自粛が始まり、利用客は前年の70%台を割り込む可能性がある。ライフスタイルの変化や寒い季節の到来で、外食産業は厳しくなる。(中国・一般レストラン)

10月調査の結果は、Go To Travelキャンペーンなどの政策効果により、新型コロナウイルス感染症の感染者数の落ち着きなどから景況感が着実に改善していることを示すものであった。ただし、景気の水準自体は依然として低いことに留意する必要がある。今後の景況感については、政策効果の発現による下支えが期待されるものの、新型コロナウイルス感染症の感染が再拡大しつつある状況からは、感染動向に左右される可能性が高いように思われる。


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山下大輔(やました だいすけ)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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