ドラッグストア業界では、二大企業であるマツモトキヨシHDとココカラファインが、2021年10月に経営統合が予定されている。他のドラッグストア大手も静観してはいないだろう。ドラッグストア業界はこれまでも再編を繰り返してきたが、今後どういった変貌を遂げていくのだろうか?

ドラッグストアはいつ頃から登場したのか?

ドラッグストア
(画像=naka/stock.adobe.com)

ドラッグストアとは、市販の医薬品をはじめとして、健康・美容関連商品や生鮮食料以外の食品、日用品などを幅広く取り扱う小売店のことを意味する。市販の医薬品だけを販売する薬局や、医療機関が処方した医薬品を取り扱う調剤薬局とは業態が異なる。

ルーツは米国

ドラッグストアのルーツは、1800年代の米国にあるとされている。営業時間を延長するとともに、品ぞろえを拡充する薬局(ファーマシー)が登場するようになり、日用品まで取り扱う現在のドラッグストアの販売スタイルへと進化していったようだ。

ドラッグストアの日本への上陸は意外と遅く、1970年代になってからだという。薬局経営者による団体組織として、1970年にオールジャパンドラッグ(AJD)と日本ドラッグチェーン会(NID)が設立され、小売業者が仕入れや物流を共同運営するチェーン化が始まった。

こうした流れの中で、1976年にハックイシダ(ウエルシア薬局に吸収合併されたCFSコーポレーションの前身)が横浜市に開業したハックファミリーセンター杉田店が、ドラッグストアの日本国内第1号だと言われている。そして、日本のあちこちでさまざまなドラッグストアが生まれ、店舗網を広げていった。

1990年代にドラッグストアブームが発生し競争も激化

1990年代に入ると、薬だけでなく生活用品も同時に購入できるという便利さから、女性を中心に高い支持を獲得してドラッグストアブームが訪れた。それ以降も、ドラッグストア業界への参入はさらに活発化し、2000年度に579社だった企業数は2004年度に671社まで増加している。

進む業界再編

だが、数が増えれば自ずと業界内の競争も熾烈になり、大手ドラッグストアであっても成長に陰りが生じ始めたことから、業界再編の動きが活発化し始めた。

2004年当時、売上高トップを誇っていたマツモトキヨシ(現マツモトキヨシホールディングス)は、長野県の健康家族や埼玉県のトウブドラッグをはじめとする地方の競合他社を、M&Aで次々と傘下に収めていった。

同様に、ツルハホールディングスやウエルシアホールディングスといった他の大手もM&A戦略を推進していった結果、ドラッグストアを手掛ける企業の数は2004年をピークに減少へと転じている。

なお、ドラッグストア業界再編の動きには、企業間の競争の熾烈化とともに薬剤師不足も関係している。以前、ドラッグストアで薬剤師不在のまま医薬品を販売している実態が問題視されたように、店舗数が増えすぎたために薬剤師の争奪戦も繰り広げられ、それに伴う人件費の拡大も経営を圧迫したのだ。

ドラッグストア業界の再編が進んで勢力図も1990年代とは様変わりした

ドラッグストア業界の再編に伴って、大手企業の勢力図にも変化が生じている。2019年度の売上高ランキングでは、国内トップが札幌に拠点を構えるツルハホールディングスであり、業界第2位はイオングループのウエルシアホールディングス、3位は九州が地盤のコスモス薬品であった。

業界4位以降は?

業界4位は、M&A戦略を積極的に展開してきたサンドラッグで、かつての最大手だった全国マツモトキヨシホールディングスは5位に転落している。6位は、東海地方が地盤のスギホールディングスで、7位がセイジョーやスズラン薬局、セガミなどを傘下に持つココカラファイン、その後には埼玉の富士薬品ドラッグストアグループ、神奈川のクリエイトSDホールディングス、栃木のカワチ薬品が続く。

経営統合による再編が進んだ結果、ドラッグストア業界のトップ10が前述のような顔ぶれになったことに加えて、規模の拡大による仕入れの効率化が価格競争力を高め、集客力もいっそう強化されている。

そもそも、ドラッグストアは日用品などのチラシ掲載商品(薄利多売品)で顧客を誘い、利益率の高い商品も「ついで買い」させるという戦略を得意としてきた。

経済産業省がまとめた「商業動態統計」によれば、2019年のドラッグストアの販売額は約6兆8,356億円に達し、百貨店の約6兆2,978億円を超えている。百貨店と比べて商品単価の平均値はかなり低いだけに、これは驚くべき逆転現象だと言えよう。

マツモトキヨシとココカラファインの経営統合でドラッグストアのシェア争いに決着

ドラッグストア業界では熾烈なシェア争いが行われてきたが、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインが2021年10月に経営統合を果たすと、売上高1兆円超、店舗網3,000店規模の圧倒的なトップに躍り出る。

経営統合後のビジョン

両社が次に目指すのは、「美と健康の分野でアジアナンバーワン」だ。また、国内では国策ともなっている「地域包括ケア」の基盤構築にも注力するという。

これらの目標は、裏を返せば、国内におけるドラッグストア事業では「もう勝負がついた」と両社が捉えているようにも受け止められる。確かに、ドラッグストア事業を手掛ける競合大手が、このタッグに太刀打ちするのは容易ではないと言えるだろう。

最終的にマツモトキヨシホールディングスと手を結ぶことを表明したココカラファインだが、実は水面下で巧妙な駆け引きを行っていた。マツモトキヨシホールディングスとの経営統合の協議を進めながらも、2019年4月にスギホールディングスとの経営統合についても検討すると発表したのである。

マツモトキヨシホールディングスだけでなく、密かにドラッグストア業界6位のスギホールディングスも、ココカラファインに経営統合を打診していたのだ。ココカラファインは2社を天秤にかけ、最終的にマツモトキヨシホールディングスを経営統合先として選んだ。

現時点では結果が判明しているのでドラッグストア業界も落ち着きを取り戻しているが、争奪戦が勃発した直後はココカラファインがどちらの提案を飲むのかが読めず、ドラッグストア業界全体が固唾を呑んでその行方を見守った。ココカラファインの判断次第で、オセロゲームのような大逆転劇が待ち受けているからだ。

その他のドラッグストア大手も売上高1超円超を前提とする経営統合を模索か?

マツモトキヨシホールディングスとココカラファイン連合の誕生が決定的となり、追いかける側のドラッグストア競合大手は、売上高1兆円超を実現する経営統合が大前提となってきた。ツルハホールディングスとウエルシアホールディングスが手を結べば容易に目標を達成できるが、経営統合によって互いに高いシナジー効果を得られることも重要だ。

ネット通販の拡大など環境変化を見据える

また、コスモス薬品やサンドラッグの思惑も気になるところであり、ココカラファインとの経営統合を逃してしまったスギホールディングスもこのまま引き下がりはしないだろう。M&Aを通じてアマゾン・ドット・コムが医薬品販売を本格化させている米国と比べて、日本の薬販売に関する法規制は厳しいが、それでも市販薬のネット通販は拡大しつつある。

このような環境変化も見据えれば、他のドラッグストア大手も攻めの一手を打たざるを得ず、既に我々が伺い知れないところで、具体的な協議が進められている可能性も十分に考えられる。

ドラッグストアだけでなく調剤薬局の事業再編も進む

ドラッグストアの大型経営統合などが進む一方で、調剤薬局の分野でも再編が加速している。調剤薬局の分野は「地域包括ケア」においても重要な役割を果たすことから、ドラッグストア大手の中から同方面との統合を模索するところが出てきても不思議はない。

既に2013年には、ドラッグストア大手の富士薬品が、北海道で調剤薬局を展開していたオストジャパングループをM&Aで傘下に収めている。また、ココカラファインとクオールというドラッグストアとの間で、調剤薬局の業務提携も行われている。

調剤薬局においても再編が進んでいるとはいえ、それでも大手調剤薬局の上位が獲得しているシェアは、医薬品販売業界全体の1割程度に過ぎない。大手ドラッグストア主導という形で、さらに大掛かりな再編が進むことも想定される。

大手ドラッグストアは近い将来に3社程度に集約されていく可能性もある

金融業界を振り返れば、かつて都市銀行と呼ばれていた時代に、大手銀行は10行超に達していたが、現存するメガバンクは3つだけである。また、コンビニ業界にも多数の企業が参入したものの、成長が鈍化するに従って再編が進み、同じく大手3社に集約されている。

米国のドラッグストア業界は日本よりもはるかに長い歴史を誇るが、ウォルグリーンと CVS の2社が圧倒的な強さを示している。ドラッグストア業界でも、他の業界と同様に、さらなる再編が繰り広げられる可能性が高そうだ。(提供:THE OWNER

文・大西洋平(ジャーナリスト)