(本記事は、野村 絵理奈氏の著書『オンラインで伝える力』の中から一部を抜粋・編集しています)

プレゼンでは視覚的要素と聴覚的要素の相乗効果を狙う

オンラインで伝える力
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

アナウンサーはテレビで何かを伝える際に、視覚的要素をいつも意識しています。例えばニュース映像の上に音声をのせるとき、どんなタイミングでコメントすると映像が活きるかを考えたり、フリップや画面を手で指し示す時に、どの文字をどんなスピードで指し示すのが効果的かを考えています。バラエティ番組などでは、カメラが今誰を、どこを映しているのか常に意識しながら、次の進行を考えていたりします。

なぜなら、アナウンサーには自分の話は主役ではなく、あくまで映像を補うものであるという意識があるからです。例えば、テレビの映像だけでは伝わらない味や香り、手触りといったことをコメントで補ったり、映像がより魅力的に見えるようなコメントをのせたりするのも同じ理由からで、視覚と聴覚の与える効果を相乗的に利用しているのです。

ところが、企業のプレゼンや商談では、そういったことがあまり意識されていません。長い文章が羅列されているだけのスライドを延々と読み上げたり、逆に写真だけのスライドや短い言葉だけが書かれたスライドを投影して、それなりにインパクトを与えているにもかかわらず、それを活かす言葉がのせられずに、効果が半減しているケースも見られます。つまり、視覚や聴覚が聞き手に与える影響をうまく活用できていないのです。

オンラインでのプレゼンや商談は、画面上での資料の共有が必須となるため、どれだけ魅力的な資料(視覚的要素)を作成できるか、また、そこに足りない情報を補完する音声情報(コメント)を加えられるかが、成功のカギになります。

画面の向こうのクライアントに、ハワイにある不動産の購入を勧めているという場面を例に考えてみましょう。

よくあるのが、字がぎっしり書かれた資料を画面上で共有し、その内容を上から順に読んでいく、というパターンです。

これだと、画面の向こうのクライアントは、文字を読むことに集中してしまうか、場合によっては読むことすら諦めてしまいます。

もちろん充実した資料によって、商品やサービスの概要を相手に理解させることも一つの手ではありますが、せっかくオンラインでつながっているのですから、後で送付すればわかるような情報をそのまま読み上げるよりは、聞き手に興味をもってもらい、さらに詳細な資料を読んでみたいと思わせるやり取りをするほうが商談を成功に導く可能性は高いでしょう。

営業やプレゼンのゴールは商品やサービスの情報を理解させることではありません。あくまで、買ってもらうことです。このプレゼンの場合も、重要なのは、ハワイの魅力を伝えること自体ではなく、その魅力を印象づけ、不動産を手に入れたいと思わせることなのです。

「買ってもらう」というゴールを目指すのであれば、資料には、聞き手が読み取れるだけの情報量しか掲載してはいけません。

例えば、テレビ番組の映像にのせる字幕スーパーは、表示する時間内で最低でも3回読める文章量が基準だと言われています。最近は、演出上、バラエティ番組など特に字幕スーパーの量が増えている傾向にあり、そのルールに必ずしも当てはまらなくなっていますが、基本的には、文字量が多すぎると視聴者は情報を読み取れません。

であれば、読み取ってもらえない文字を表示するのは無意味ですし、むしろ「文字が多いなあ」と思わせるだけ逆効果だとも言えます。

プレゼンなどの資料の場合もこれと同じで、聞き手が文字を読むことに必死になってしまうと、最も効果的に情報を伝える視覚的要素を見る余裕がなくなります。つまり、映像や画像から何かを感じることができなくなってしまうのです。聞き手の心を動かすようなプレゼンを目指すのであれば文字量は最低限に抑え、無理なく読んでもらえる量にすることが肝要です。

オンラインで伝える力
野村絵理奈(のむら・えりな)
株式会社KEE’S代表取締役社長。兵庫県出身、同志社大学法学部卒。NHKキャスター、気象予報士を経て、2005年に株式会社KEE’S設立。主な著書に『世界一の美女になる話し方』 『5000人を変えた!話し方の新・習慣77』『ビジネスは話し方が9割』『世界のエリートが実践! 革命的話し方メソッド』『THE SPEECH 人を動かす話し方』(すべてポプラ社)などがある。

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