正規雇用の増加幅が大きく縮小

経済見通し
(画像=PIXTA)

総務省が12月1日に公表した労働力調査によると、20年10月の完全失業率は前月から0.1ポイント上昇の3.1%(QUICK集計・事前予想:3.1%、当社予想は3.0%)となった。労働力人口が前月から13万人増加する中、就業者数が3万人の増加にとどまったため、失業者数は前月から8万人増の214万人(いずれも季節調整値)となった。緊急事態宣言が発令された4月に非労働力化した人が労働市場に戻る動きが続いている一方、就業者数の増加が小幅にとどまっていることが失業者の増加につながっている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

就業者数は前年差▲93万人の減少(9月は同▲79万人)となった。産業別には、生産活動の持ち直しが続く製造業が前年差5万人増(9月は同▲39万人減)と9ヵ月ぶりの増加となったが、新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けている宿泊・飲食サービスが前年差▲43万人減(9月:同▲48万人減)と大幅な減少が続いた。

雇用者数(役員を除く)は前年に比べ▲76万人の減少(9月は前年差▲75万人)となった。雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員数は前年差▲85万人減と9月の同▲123万人減から減少幅が縮小したが、正規の職員・従業員数が前年差9万人増(9月:同48万人増)と増加幅が大きく縮小した。単月の動きだけでは判断できないが、非正規が中心となっていた雇用調整が正規雇用に波及し始めた可能性がある。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

休業者数は平常時の水準まで減少

緊急事態宣言が発令された20年4月に597万人(前年差420万人増)と過去最多となった休業者数は、10月には170万人(前年差12万人増)となり、ほぼ平常時(19年平均は176万人)の水準まで減少した。労働力調査のフローデータ(1)を用いて、9月に休業していた者が10月にどの就業状態に移行したかをみると、9月に休業者であった176万人のうち、10月も引き続き休業者が103万人(58.5%)、従業者に移行が48万人(27.3%)、失業者に移行が5万人(2.8%)、非労働力人口に移行が20万人(11.4%)となった(括弧内は割合)。非労働力化する人の割合が高まっていることは気になるが、失業者になる人の割合は引き続き低水準にとどまっている。

現時点では雇用調整助成金の拡充が失業者の増加に歯止めをかける役割を果たしているとの評価が可能だろう。ただし、経済活動の水準が元に戻らない中で無理に雇用を維持し続けることは、新規雇用、特に新卒採用の抑制につながる恐れがある。景気はすでに底打ちしているものの、もともと失業率は景気の遅行指標であるうえ、雇用調整助成金の拡充を背景とした企業内の雇用保蔵が将来の雇用創出を妨げ、雇用情勢の改善を遅らせる可能性がある。失業率は当面上昇傾向が続き、最悪期を脱した後も、改善ペースは緩やかなものにとどまることが予想される。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)労働力調査のフローデータは、ストックデータの2分の1の調査世帯を集計対象としていること、総数に転出者、転入者を含むことなどから、ストックの増減とフローの値は一致しない

有効求人倍率は1年6ヵ月ぶりの上昇

厚生労働省が12月1日に公表した一般職業紹介状況によると、20年10月の有効求人倍率は前月から0.01ポイント上昇の1.04倍(QUICK集計・事前予想:1.03倍、当社予想も1.03倍)となった。失業者の増加を受けて有効求職者数が前月比1.1%(9月:同0.8%)と6ヵ月連続で増加したが、有効求人数が前月比2.2%(9月:同▲0.1%)とそれを上回る伸びとなった。

有効求人倍率の先行指標である新規求人倍率は前月から0.20ポイント低下の1.82倍となった。新規求職申込件数が前月比4.4%(9月:同▲5.4%)の増加となる一方、新規求人数が前月比▲5.8%(9月:同4.9%)の減少となった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

有効求人倍率は19年4月以来、1年6ヵ月ぶりの上昇となったが、新規求人数が大幅に減少するなど企業の採用意欲が依然として弱いこと、失業者の増加を受けて先行きも求職者数の増加が見込まれることから、有効求人倍率の改善傾向が明確になるまでには時間を要するだろう。


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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長

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