米国労働市場
(画像=PIXTA)

米国内の新型コロナ感染者数の増加や、外出制限などの感染対策に伴い、労働市場は20年3月以降、急激に悪化した。失業率は新型コロナ感染拡大前の20年2月におよそ50年ぶりの水準となる3.5%まで低下していたが、4月は金融危機時の最高であった10%を大幅に上回る14.7%となり、1948年の統計開始以来最高となった(図表1)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

非農業部門雇用者数(前月比)も新型コロナ流行前は10年10月から20年2月まで1939年の統計開始以来最長となる113ヵ月連続で雇用が増加していたが、外出制限などで大きな影響を受けた娯楽・宿泊業をはじめサービス業を中心に3月には▲137万人減少し、金融危機時の最大の落ち込み幅であった09年3月の▲80万人を大幅に上回った。さらに、4月は統計開始以来最大の落ち込み幅となる▲2,079万人の減少となった。この結果、3月から4月の僅か2ヵ月間の雇用減少幅は▲2,216万人となった。

一方、4月下旬以降に経済活動が段階的に再開されたことから、労働市場は5月には早くも回復に転じた。失業率は4月にピークをつけた後、10月には6.9%まで低下した。また、雇用者数も5月に+273万人の増加に転じた後、10月の+64万人まで6ヵ月連続で増加した。もっとも、労働市場の回復基調は持続しているものの、新型コロナ流行前の水準に比べて回復は緩やかに留まっている。

実際に、失業者数は4月から減少しているものの、失業保険の継続受給者数は従前からの失業保険が10月17日の週に744万人と、統計開始以来最大となった5月4日の週の2,273万人からは大幅に減少したものの、依然として新型コロナ流行前の200万人台からは高止まりしている(図表2)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

さらに、新型コロナ対策として、通常は失業保険給付の対象とならない自営業者や所謂「ギグワーカー」まで支給対象を拡大して4月に新設されたパンデミック失業支援(PUA)が10月17日の週で933万人となったほか、通常の失業保険の受給期間が終了した受給者に対して新たに13週の失業保険を給付するパンデミック緊急失業補償(PEUC)が396万人となっており、これらのすべてのプログラムを合計した受給者数は2,151万人と米国の労働力人口(1億6千万人)の13%強に上っている。

また、6ヵ月間の雇用増加幅と雇用減少幅を比較すると、非農業部門の雇用増加幅が+1,207万人と前述の減少幅の5割強を戻しているに過ぎないことが分かる(図表3)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

業種によって回復にバラつきがあるものの、小売業では▲238万人の雇用減少に対して+189万人と雇用減少分の8割程度戻している一方、最も影響を受けた娯楽・宿泊業では▲832万人の雇用減少に対して483 万人と全体の6割弱に留まっているほか、専門・事業サービスでは▲230万人の減少に対して、雇用増加が115万人と半分だ。

今後、10月の雇用増加ペースを維持した場合でも、雇用減少分を取り戻すにはさらに16ヵ月が必要となるため雇用回復の道のりは遠いとみられているが、足元では回復がさらに遅れる可能性が高まっている。米国では11月に入って新型コロナ感染の再拡大がみられており、再び経済活動が制限される可能性が指摘されている。また、景気回復の足取りを確かなものにするために期待された追加経済対策も経済規模などで与野党合意が不透明となっており、追加対策実施の目途が立っていない。このため、緩やかなペースに留まっている労働市場に対して回復持続性への懸念が高まっている。

窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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