2017年に採択された「働き方改革実行計画」により、会社員に副業が普及しつつある日本。はじめはお小遣い稼ぎ程度の副業も、いずれは大きな収入源となるまでに成長させたいと考える人は多いでしょう。

もし副業をさらに成長させたいのなら、新規開業やM&Aによる“法人化”が有効に働くかもしれません。その際、開業資金や買収資金の調達方法は、その後の経営を左右するほどの重要な要素となります。

この記事では法人化のメリットをはじめ、資金調達時に活用できる補助金制度、設立時の注意点を解説していきます。

目次

  1. 副業の法人化。メリットとデメリットを確認する
    1. 法人化の代表的なメリット:実効税率の低さ、所得控除の範囲拡大による「節税効果」
    2. 法人化の代表的なデメリット:固定費の増加、事業の自由度低下
  2. 法人化の2つの方法「新規開業」「M&A」、どちらを選択すべきか?
  3. 新規開業を選ぶなら「地域創造的起業補助金」
  4. M&Aを選ぶなら「事業承継補助金」
  5. 株式会社?持分会社?開業時は会社形態の選択に注意
    1. 株式会社:高い社会的信用が魅力
    2. 持分会社:シンプルな設立手続、費用に魅力
  6. 事業安定のためには融資の活用がポイント
  7. 節税目的なら合同会社、成長を求めるなら株式会社

副業の法人化。メリットとデメリットを確認する

開業資金,優遇制度
(画像=sb/stock.adobe.com)

所得税などの納税額は、本業の給与所得と副業の事業所得などの総合課税の所得を合算し、課税所得額を算出します。この課税所得額に一定の税率を乗じて納税額を算出するのですが、所得税の税率は所得に応じて負担額が大きくなる累進課税が採用されています。

このため、副業を法人化し、本業の給与所得と副業の給与所得を分散することで課税所得額を圧縮でき、節税メリットを得ることができます。

ただし、法人化にはメリット・デメリットがあります。それらを理解しないまま、事業成長が不十分であったり、売上の少ない状態で開業してしまうと、金額的な負担だけが大きくなってしまう恐れがあります。

一方で法人化には、金額では測りにくい「信用力の強化」や「事業継続性の向上」といったメリットがあるのも事実です。必要であれば税理士に相談しながら、総合的に、法人化すべきかを判断することが大切です。

法人設立に必要な「資金調達」を考える前に、まずは法人化のメリット・デメリットをおさらいしましょう。

法人化の代表的なメリット:実効税率の低さ、所得控除の範囲拡大による「節税効果」

個人の場合、所得が高いほど高い税率が課される累進課税が適用され、その最高税率は45%にも達し、個人住民税の所得割の税率10%と合わせると実に55%もの税負担が生じます。

法人の場合は法人税の最高税率が個人の場合に比べて低く設定されており、法人の所得に対する税負担を表す法人実効税率は29.74%(2020年1月現在)となっているため、所得が多いほど節税効果が高まります。

この個人の所得税などの税負担と、法人実効税率の差が法人化による節税メリットの原動力となります。

個人の税負担は課税所得額が695万円以上に達した場合、33%(所得税率23%+住民税の所得割10%)となり、が法人実効税率29.74%を若干上回り始めます。

しかし、法人化には固定費が必要となるため、節税効果がわずかに上回る段階では時期尚早といえます。

法人化による確実な節税メリットを得るのであれば、副業と本業の所得割合にもよりますが、もう1つうえの課税区分で、税負担が43%に達する課税所得額900万円以上を目途とするとよいでしょう。

また、個人の場合は事業所得や雑所得に区分されていた副業による収入を、法人化により役員報酬として受け取ることもできるため、給与所得控除の適用も受けることができます。

このほか、年間の保険料が30万円以下などの一定の条件を満たす生命保険などの保険料も損金に算入することができるようになります。

法人化の代表的なデメリット:固定費の増加、事業の自由度低下

法人化のデメリットとして、事業所得が赤字となった場合でも、法人住民税の均等割の負担が生じてしまうほか、法人の確定申告に伴い税理士の関与が必要となるなど、固定的な支出が増加することになります。

また個人でビジネスを行う場合に比べ、法人は自由に事業内容を決めることはできず、新たな事業を行う場合は会社のルールである定款の変更が必要となるなど制約が強まります。

法人化の2つの方法「新規開業」「M&A」、どちらを選択すべきか?

メリット・デメリットを理解したうえで法人化を検討するなら、その方法についても熟考する必要があります。

まず、法人化には主に「新規開業」と「M&A」の2つの方法がありますが、それぞれによって受け取れる補助金などにも違いがあります。したがって資金調達を見据えた、最適な法人化の方法を選択すること理想的だといえます。

特に後者の「M&A」に関しては、目まぐるしく変化する外部環境にも目を向けることが肝要です。

たとえば、中小企業の経営者の高齢化が深刻化し、後継者不在による廃業が急増すると予想されています。中小企業庁の試算では、後継者不足によって2025年までに650万人の雇用と約22兆円ものGDPが消失する可能性があると推測されています。

そこで大量廃業を避けるための手段として、政府は第三者のM&Aを推進しており、会社員などでも数百万円程度の資金があれば既存の法人を買収できるようになってきました。

一方の「新規開業」の場合は、M&Aに比べると自由に事業内容を定めることができるといったメリットがあるのですが、経営ノウハウや顧客との信用関係などをゼロから構築していく必要があります。

その点、M&Aで既存の法人を購入する場合は、営業のノウハウや事業に必要な設備什器一式をまとめて取得できるため事業開始が容易となります。

またM&Aには、それぞれ得意分野の異なる法人と合併することにより長所が強化される“シナジー効果”も期待できます。ただしM&Aはその法人の負債も同時に引き継ぐことになるため、財務面に課題を抱えた法人を買収する場合は注意が必要です。

新規開業を選ぶなら「地域創造的起業補助金」

新たな需要や雇用創出を促して経済を活性化させることを目的に、新規開業者に対して創業経費の一部を助成する、「地域創造的起業補助金」という制度があります。

産業競争力強化法に基づく認定市区町村における創業で、申請した事業のために従業員を新たに1名以上雇い入れることなどが要件となっており、従業員の人件費などの対象経費の2分の1以内の金額が補助されます。

補助金の上限額は、起業にあたり金融機関による外部資金調達を行っているかによって変化します。具体的には、外部からの資金調達をしていない場合は100万円、資金調達をしている場合は200万円が上限となります。

M&Aを選ぶなら「事業承継補助金」

M&Aを選択する場合は、「事業承継補助金」の最新情報を調べ、活用を検討してみるとよいでしょう。

2020年の申請期間は終了していますが、この補助金は経営者の交代やM&Aによる事業再編を機に経営革新を行う場合に生じる人件費や設備費、マーケティング調査費などの経費に対して補助を受けることができるものです。

M&Aを対象とした「II型」の経費補助率は原則2分の1以内、補助上限額は450万円までで、事業再編により解体・処分費などの費用が生じた場合は、補助額がさらに450万円上乗せされます。

注意点としては、M&Aにかかわる補助金は申請期限が限られていることです。事業承継補助金についても先述のとおり2020年分は申請が終了しています。

しかし、2021年の概算要求にも中小企業対策費1,420億円のうち、事業承継・再編支援の予算として517億円が要求されています。制度概要が変更となる可能性もありますが、今後も継続して補助制度が施行されていくと見込まれます。

M&Aに際して補助金の利用を見込む場合は、制度の動向をチェックし、申請時期を逃さないように準備を進めていきましょう。

株式会社?持分会社?開業時は会社形態の選択に注意

2020年現在、新規開業時に選択できる法人形態は、「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4つです。株式会社を除いた3つの法人形態(合同会社・合名会社・合資会社)は「持分会社」と総称され、株式会社とは会社の“所有と経営”の考え方が大きく異なります。

株式会社では会社の所有と経営を分離することができます。オーナーは出資を通じて会社を所有し、経営は経営のプロが行うといった体制づくりが可能です。

株式会社:高い社会的信用が魅力

株式会社の特徴として、社会的信用力が高く、金融機関からの融資などによる資金調達が比較的容易になるうえ、万が一倒産した場合でも自分が出資した以上の金額の弁済責任を負わない“有限責任”とすることができます。

一方で、設立手続が複雑で費用も持分会社よりも多く必要となるほか、決算公告の義務があるなど法律面での制約も大きくなっています。また会社の所有者と経営者は必ずしも一致しないため、意思決定などに時間がかかる場合もあります。

持分会社:シンプルな設立手続、費用に魅力

持分会社は所有と経営が一体となっており、組織構造がシンプルです。そのため意思決定が早く、設立費用などが比較的安価で済むといった特徴があります。

また、合同会社では株式会社と同じく倒産した場合でも出資金以上の責任を負わない有限責任となることや、決算公告の義務がないため法律面の規制も弱くなっています。

合資会社・合名会社は合同会社よりもさらにシンプルに開業することができますが、責任範囲が無限責任となり、倒産時などは出資金以上の弁済を行う必要があります。

事業安定のためには融資の活用がポイント

法人設立時には、新規開業では「設備投資」が、M&Aでは「買収費用」が必要となるため多額の資金が必要となるもの。その後の経営を見据えて、この設立資金のうちどれくらいを融資で、どれくらいを自己資金で賄うのかはよく検討する必要があります。

特に自己資金は事業を安定化させる重要な資産となります。会社の存続に問題が生じた際に、自己資金が減少した状態では融資元を探すのも難しくなってしまいます。つまり、設立資金を捻出する際に融資を避け、自己資金を多く充ててしまうと、その後の経営に支障がでてしまう恐れがあるのです。

安定した会社経営を行うためにも、設立時から融資と自己資金のバランスを意識することが重要です。

節税目的なら合同会社、成長を求めるなら株式会社

副業によって収入が増加した場合や、さらなる成長を求める場合は法人化が有効となる可能性がありますが、法人化の目的によって適した会社形態や設立方法が異なります。

節税を目的とするならば設立費用や維持コストが安く、組織構造がシンプルな合同会社を新規開業することで必要資金を抑えることができるでしょう。

副業をさらに成長させることを考えるのであれば、社会的信用力が高く資金調達の選択肢も広い株式会社の設立や、既存の法人を買収・合併するM&Aを検討するとよいでしょう。

また、法人化の際は助成金や補助金などの優遇制度が利用できる場合があります。会社を経営していくにあたり、自己資金は経営安定化の大切な原資となりますので、優遇制度をフル活用してできるだけ多くの自己資金を確保できるようにしましょう。(提供:JPRIME

執筆:菊原浩司
保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士、一種証券外務員資格、管理業務主任者。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを重視し、主にマイホーム・投資用などの不動産取得や資産運用や生命・損害保険のコンサルタントなどを行っています。


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