人生の「ミッション」を見つける「三つの問い」

では、自律的なキャリア構築には何が必要でしょうか。 するべきことは二つあります。

一つ目は「ミッション」を持つこと。自分の人生において成し遂げたい目標を設定することです。

ちなみに私のミッションは、「女性が生きやすい、働きやすい社会を作る」ことです。その原点は、女性の置かれた理不尽な状況に対する怒りでした。

私が20代の頃、女性は結婚して家庭に入るのが当たり前でした。やる気があっても、優秀でも、女性だというだけで就職では圧倒的に不利。この状況を変えたいという思いからマスコミを志望し、女性の生き方や社会問題を正面から取り上げる雑誌を作っていた日経BP社の門を叩きました。その雑誌が、のちの『日経ウーマン』です。

働く女性に役立つ情報を届ける仕事に就き、50代まで一貫してミッションの実現に取り組むことができました。

「私はミッションなど持って来なかったし、今もない」という人も多いでしょう。しかし、ミッションを持つのは、今からでも決して遅くありません。自分の中にある思いと、能力や適性を徹底的に自問することで、ミッションを探り出すことができます。

その際には、キャリア学で言うところの「三つの問い」が有効です。

まず、(1)「自分には何ができるか」という問い。私の場合なら、「記事を書ける」といった答えになるでしょう。

次に、(2)「その能力を使って何がしたいか」という問い。記事を書いて広く読んでもらいたい、といった答えが出てきます。

そして、(3)「自分は何に価値を感じているか」という問い。私の場合なら、読者が力づけられ、より良い社会になることです。

このように自分に問いかけることで、ミッションが見えてきます。もちろん、最初からスラスラと出てくることはないでしょう。自分が何に喜びを感じるのか。何をしているときが幸せか。なぜ幸せを感じるのか。プライベートも含めた自分の生活全体を見直しながら、深く掘り下げていくことが大事です。

「会社に頼らない」ための学び直しを

キャリア自律のためにすべき、もう一つのことは、「学び直し」です。

私は50歳のとき、「会社の看板ナシでミッションを実現するには何が必要か?」と自問してみました。そして出た答えが、学び直しでした。これまでたくさんの女性や企業を取材し、自分自身にも豊富な経験はあるものの、理論と体系的な知識を持ってはいない、と気づいたのです。

そこで、夜間大学院に入学。研究テーマを決めて修士論文を書き、学会で発表し、学術誌に投稿、掲載される――その実績が大いに自信になりました。同級生との出会いも素晴らしい経験でした。仕事でも家庭でもない「第3の場所」で出会う利害関係のない仲間とのネットワークは今でも財産です。

その後、私は日経BP社を退職し、今は秋田に住みつつ、依頼を受けて本を書いたりもしています。会社の看板ナシで働けているのは、学び直しをしたからこそです。

54歳からは新たに福祉を学び、社会福祉士の国家資格を取って、福祉業界で働くという新しい扉を開くこともできました。

このように、学びは50代以降の可能性を広げます。時間と財力に合わせて、選択肢は色々あります。大学院やビジネススクールの授業をリモートで科目履修することもできますし、勉強会に参加するという方法もあるでしょう。

さらに簡単にできるのは異業種交流。ビジネスチャンスをつかむといった損得勘定ではなく、「違う立場の人と接する」ことが学びの機会になるのです。

その意味では、地域のコミュニティに参画するのが一番。町内会で何か役割を持たせてもらうのもいいでしょう。様々な年齢やキャリアの、異なる環境に生きる人たちと出会えて、大きく視野が広がります。

会社の外側に人脈を作ることを、ぜひ始めてみてください。

「オバサン」軽視の男性陣は猛省を!

50代女性が活躍するには、男性の意識改革も必要です。残念なことに、職場でも家庭でも、男性は女性に関心が「なさすぎる」のが現状です。

これは、女性が気の毒というより、むしろ男性にとって「マズい」状況です。妻に関心を持たずにいる夫の皆さん、このままでは、定年後は熟年離婚かもしれませんよ。

家庭では家事や介護に参画して妻の負担を減らすこと。そして、職場では女性部下を尊重する姿勢を、ぜひ持ってください。特にパートや嘱託も含めた50代の女性たちを「オバサン」や「お局さん」と軽視しているなら、とんだ宝の持ち腐れです。

50代女性の多くは、育児がひと段落して、介護がまだ発生していない環境にいます。時間の自由が効き、家庭に気がかりもないので、仕事のモチベーションが上がりやすく、しかも経験豊富。つまるところ、素晴らしい戦力になり得るのです。彼女たちの能力に期待し、その期待を本人に示しましょう。

一番良いのは、相談を持ちかけることです。

例えば、「もっと活気のある職場にしたいのだけど、何をしたらいいと思いますか?」と聞けば、年齢を重ねた女性は細かいところまで目が行き届いているものですから、きっと良いアイデアが出てきます。

相談を受けた女性の側は、女性軽視を改めて相談を持ちかけてきた男性の「改心」に対して、スネた態度を取らないこと。長らく理不尽な目に遭ってきた人は、つい、「何よ今さら」とすげない態度を取ってしまいがちですが、それではチャンスを棒に振ります。戦力として期待されていることを素直に喜びましょう。

アイデアを述べる際のコツは、感情を入れず、ファクトベースで語ること。今の問題点、原因、対策を簡潔に、理路整然と述べましょう。

「○○さんのせいで」などの悪口や、「この職場、本当にダメダメですよね」などのグチは、何の生産性もないので慎むべきです。