「技術力」という用語は、製造やITをはじめ、さまざまな業界で用いられている用語だが、業界や人によって意味することが異なっている。多くの人が技術力を重要と考えているが「技術力」の正しい定義を認識している人は少ないのではないだろうか?そこで今回は、技術力の定義や技術力を高める方法・メリットを詳しく解説する。

技術力とは

技術力
(画像=vegefox.com/stock.adobe.com)

はじめに「技術力」がどのような定義を持つ用語かを簡単に解説していく。

「技術」とは

精通版日本国語大辞典によると「技術」という用語には以下の2つの定義がある。

  • ものを取り扱ったり、物事を処理したりする方法や手段
  • 科学の理論を応用し、人間生活に役立つように自然を利用する手段

例えば、料理人にとっては「食材を調理する方法や手段」が、技術に該当する。また、ソーラーパネルを用いて太陽光を発電する方法も、人間生活に役立つように自然を利用する点で技術に該当すると言える。

技術力の辞書的な定義

実用日本語表現辞典によると、技術力を「手段や手法などを用いて物事をなしとげる能力」と定義している。技術力の定義で重要なのは「能力」という用語が含まれている点だ。能力とは、一般的に何かを行うために必要な力を意味する。つまり技術力とは「技術(方法や手段)を使って何かを達成するうえで必要な力」となる。

料理人に例えると「食材を調理する方法や手段(=技術)を使って料理を作ることや料理を顧客に提供して収益を得ること」が技術力である。

業界や人によって異なる「技術力」に対する3つの考え方

技術力の辞書的な定義は、前述した通りだ。しかし、「具体的に技術力をどのようなものと捉えているか」は、業界や人によって異なる。この章では、技術力に対する主な考え方を3つご紹介する。

1.技術力を「応用力」や「何かを生み出す力」と捉える考え方

最も定義に近い考え方が、技術力を「応用力」や「何かを生み出す力」と捉える考え方である。例えばIT業界の場合、プログラミングに関する知識(コードの書き方など)を知っていても、知識を活用して商品・サービスを作れなければ「技術力はない」と考える。つまり技術は持っているもののそれを応用する力はないということになる。

一方、過去の経験や持っている知識、技術を用いてこれまでにない新しい商品やサービスを作り出せる力がある場合は、「応用が利く」という点で技術力があると言えるだろう。企業が長期的に成長を続けるうえでは、他社の模倣や同じ商品・サービスを売り続けるのではなく、革新的な商品・サービスを生み出すことも重要だ。

技術力を強みとする人材や企業は、既存の商品・サービスを作る能力だけではない。その過程で得られた知識や経験を使って新たなものを生み出す応用力も身につけるべきである。

2.技術力を「知識量」と捉える考え方

「ものの取り扱いや物事を処理する方法や手段をどのくらい知っているか」という観点から技術力の高さを判断する人や業界も少なくない。例えば、IT業界は技術がたえず変化している。そのため、過去に習得した一つの技術(プログラミング言語やフレームワークなど)に固執しているエンジニアよりも、常に最新の情報をキャッチアップしているエンジニアの方が、技術力が高いと判断される傾向にある。

また、重要な知識をその都度習得しているエンジニアのほうが「技術力があり優秀」とみなされるケースが多い。ただし、どれほど使える知識を豊富に持っていても、技術を使って商品・サービスを作りだす力がないと、長期的には通用しない可能性が高いだろう。利益を得るには、商品・サービスを作りだす技術力が必要だ。習得した知識は、実務で生かせるようにしなくてはならない。

3.技術力を「低コスト・短納期でものを作る力」と捉える考え方

製造やITといった分野では、顧客が求める品質の製品を低コスト・短納期で作る力を技術力と捉えることもある。なぜならより少ないコスト・短い納期で商品を作り出せるほど自社が得られる利益を増やせるからだ。例えば、少ないコストで製造できれば、競合他社よりも安い値段で商品を販売して顧客の購買意欲を喚起したり、他社と同じ値段で販売して利益率を高めたりすることができる。

また、短い納期で製造できれば「すぐに納品して欲しい」という顧客のニーズに応えられるうえ、人件費などのコストカットも実現できるだろう。つまり、低コスト・短納期でものを作る力は、企業にとって利益を生み出す源泉と言える。企業が事業を継続・成長させるうえで利益の獲得は欠かせない。「低コスト・短納期で物を作る力」は応用力や知識量と同じくらい重要な力である。

企業が技術力を高めるメリット3つ

業界に関係なく技術力は重要と言われているが、その背景には以下の3つのメリットがあるからだ。

1.より多くの利益を生み出せる

技術力を高める最大のメリットは、より多くの利益を生み出せる点だ。例えば、競合他社よりも質の高い商品を作ることができれば、質の高い商品を求める顧客を獲得し、利益を増やせる可能性がある。また、競合他社よりも低コスト・短納期で製品を作れば、多くの新規顧客獲得につながり、利益率を高めることが期待できるだろう。

2.長期的な競争優位性につながる

長期的な視点で、競争優位性の確立につながる点も、技術力を高めるメリットである。競争優位性とは、競合他社に打ち勝てる自社の強みのことだ。競争優位性を確立できれば、「他の企業が販売していない優れた商品を購入できる」「より安い値段で商品を購入できる」など、消費者から見て自社商品・サービスを選ぶメリットが明確となる。

たとえ価格競争などが激化しても、顧客を他社に奪われたり、利益率が低下したりする事態を回避でき、結果的に長期的な事業の継続・成長につながる。

3.新しいビジネスチャンスを生み出せる

過去の経験や知識を応用できる技術力があれば、新しいビジネスチャンスを生み出すことができる。

例えば、特定の市場で多くの消費者が既存の商品に不満を持っていたとする。その不満を解消できる商品を作りだす技術力は競合他社にないとしよう。しかし、自社の技術力を高め、過去の経験や知識を活用すれば、消費者が持つ不満を解消できるような新たな商品・サービスを生み出せることもある。

また、既存市場で培った技術を応用し、関連する市場への進出(多角化)も実現可能となる。多角化の成功により、既存事業とは別に新しい収入源を確保し、万が一既存事業の収益性が悪化しても、会社全体での損失を最小限に抑えることができるだろう。

技術力を高める3つの方法

最後に技術力を高める方法を3つ紹介する。技術力の向上により事業を成長させたい人は、押さえておこう。

1.実戦で技術を使う回数を増やす

最も手軽で効果的なのは、実戦で技術を使う回数を増やす方法である。先述した通り、どれほど知識や技術を持っていても、知識を使って商品・サービスを生み出し、収益を得られなければ事業にとっては意味がない。そのため、新しく技術を覚えたら、実際に仕事でその技術を使うことが重要である。

最初はうまく使いこなせないかもしれない。しかし、使う回数を増やし続けることで、だんだんと上手に使いこなせるようになることが期待できる。技術力を高めたいならば、技術のインプットと同時にそれ以上のアウトプットを意識するとよい。そうすれば才能や適性による差はあるものの、遅かれ早かれ技術力は向上するだろう。

2.社外のセミナーや書籍を活用する

ひたすら実戦で技術を使う方法は有効だ。しかしそれは、あくまでもすでに知っている技術に限った話である。会社自体に蓄積されていない最新技術の場合、そもそも技術に関する知識がないため、技術を実戦で活用することはできない。技術は絶えず進歩しており、顧客の複雑なニーズに対応するには、古い技術では通用しなくなるケースが多い。

そのため、その技術自体が古ければ、たとえ技術力が高くても利益を得ること自体が困難となる可能性がある。会社に蓄積されている既存技術の実践と同時に、最新の技術や未知の技術をインプットすることも重要だ。

最新技術や未知の技術を習得するうえで有効な手段となるのが、社外セミナーや書籍の活用である。社外のセミナーや書籍を活用すれば専門家の視点による、分かりやすい解説で自社が持っていない技術を体系的に習得することが可能だ。「自社の既存技術が通用しなくなりつつある」と実感している企業であれば、ぜひこの方法を試していただきたい。

3.技術者の処遇や職場環境を改善する

会社全体で技術力を高めるには、技術者の処遇や職場環境を改善することも重要である。なぜなら、優秀な技術者がいても給与が低く、職場環境が劣悪であると、技術者の技術力の向上に対するモチベーションが低下する可能性があるからだ。技術者が主体的に技術力の向上を目指せるよう、実力や努力に応じた給与を支給したり、心地よく働けるような環境を整備したりすることが会社には求められる。

また、新人の技術者に対しては「まずは特定の技術習得に集中させ、自信をつけさせる」といった対策も効果的だろう。

技術力向上には、知識のインプット、技術のアウトプットを

あらゆる考え方をまとめると、技術力とは「技術を使いこなし低コスト・短納期の実現や商品・サービス、果てはビジネスチャンスを生み出す力」だと言える。技術力の向上は、企業の利益や長期的な競争優位性を生み出すうえで不可欠だ。そのため、常に「新しい知識のインプット」と「習得した技術のアウトプット」を行う環境を整備し、全社一丸となって技術力の向上に注力することが重要である。(提供:THE OWNER

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)