Go To Travel、Go To Eatなどは、コロナ下における需要喚起策として政府が実施中のキャンペーンだが、良い点と悪い点が存在する。利用者が増えれば観光業界や飲食業界での消費が活発化するが、感染拡大リスクは少なからず高まる。この記事ではGo Toの「功罪」を改めて考える。
Go Toキャンペーンのおさらい
政府はGo Toキャンペーンについて「官民一体型の消費喚起キャンペーン」と銘打ち、4種類の取り組みを進めることを発表した。すでに実行段階に入っていることは、周知の通りだ。4種類の取り組みは以下の通りである。
・Go To Travelキャンペーン
・Go To Eatキャンペーン
・Go To Eventキャンペーン
・Go To 商店街キャンペーン
まずGo To Travelについて改めておさらいすると、旅行代金の35%を割引し、15%相当分のクーポンを付与するというものだ。旅行代金の割引が先行して行われたが、すでに15%相当分のクーポンの配布も始まっている。
続いて、Go To Eatの取り組みは2つに分類される。ホットペッパーや食べログなどのオンライン飲食予約サイトで対象店を予約・来店した場合のポイント付与と、登録飲食店で使用できるプレミアム付食事券の発行だ。すでにポイント付与は終了したが、食事券の発行は現在行われている。
Go To Eventキャンペーンは、イベントやエンタメのチケット購入者に対して、代金の2割相当分の割引・クーポンを付与するものだ。すでに取り組みがスタートしており、大阪市にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)なども割引価格で利用可能である。
最後のGo To 商店街キャンペーンは、耳にしたことがない人も多いかもしれない。簡単に言えば、商店街の集客を国が支援するものだ。
Go Toキャンペーンの功罪
政府は税金を投入し、業界にとっても消費者にとってもメリットがあるキャンペーンを設計・実施したわけだが、このGo Toキャンペーンには「功」(良い点)と「罪」(悪い点)がある。
Go Toの「功」:観光・飲食・航空・交通などの業界に恩恵
コロナ禍による外出自粛措置などによって、観光業界や飲食業界は多大なダメージを受けた。そのような状況下で実施されたGo Toキャンペーンによって、ホテルやレストランからは「前年並みに予約が戻った」「減少が1桁台に収まった」といった声も聞こえてきた。
新型コロナウイルスの影響で航空各社や鉄道各社の決算が、軒並み赤字となる中、航空業界や交通事業者にとってもGo Toキャンペーンは追い風となった。人の移動が増える分、チケット料金や運賃などの売上が伸びたわけだ。
そして、このようにして企業の売上が良くなると、結果として雇用が守られることにつながる。
Go Toの「罪」:人々の移動に伴い感染拡大リスクが高まる
では、一方でGo Toの「罪」とは何であろうか。人が外出して移動をするとなると、新型コロナウイルスの感染拡大リスクは否応なしに高まってしまう。全ての宿泊施設やレストラン、そして全ての宿泊者や来店客が、完璧な感染防止対策に取り組めているわけではない。
現在日本では、感染拡大の「第3波」と呼べる状況になっている。Go Toキャンペーンがこの第3波の原因にどれだけなっているかは不確かではあるが、前述の理由でGo Toが感染の拡大リスクを高めていることはほぼ間違いないだろう。
イギリスでは、日本のGo To Eatのような飲食業支援策「Eat Out Help Out」(外食して支援しよう)が実施されたが、このキャンペーンが新型コロナウイルスの感染拡大の要因になったという考えをボリス・ジョンソン首相が示したことは、記憶に新しい。
あなたが首相ならGo Toを継続する?中止する?
このように、Go Toキャンペーンは「功」と「罪」が表裏一体となっている。では、もしあなたが日本の首相であれば、Go Toキャンペーンを継続するだろうか、中止するだろうか。
もちろん「100%継続」「100%中止」というゼロか百かというのではなく、一部継続や一部中止という選択肢もある。現に第3波を受けて大阪市と札幌市がGo To Travelから除外されることが決まった。しかし、日本中でさらに感染が広がれば、いずれ「一時的に完全停止」といった措置を検討することもやむを得ない。そのとき、時の首相は決断を迫られる。
首相や知事が難しい舵取りを迫られる状況は続く
感染拡大の抑制と経済を回すこと、この2つはともに重要なことだ。Go Toキャンペーンは、後者に重きを置いた施策といえる。新型コロナウイルスの感染者が増えたとしても企業の倒産や失業による自殺者の数を抑えられるならば、実施を続けるべきだという声も多い。
新型コロナウイルスに関して、まだしばらく首相や都道府県の知事は難しい舵取りを迫られる。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)