副総理兼財務大臣である麻生太郎氏が、コロナ禍における支援策として国が実施した一律10万円の「特別定額給付金」について、失敗だったという趣旨の発言をしている。少なからず国民の生活の下支えにつながった施策のはずだが、なぜ麻生氏はこのような発言をしたのか。その背景には、麻生氏の「給付金トラウマ説」があると指摘する声もある。

副総理兼財務相の麻生氏はどのような発言をしたのか?

トラウマ
(画像=hikrcn/stock.adobe.com)

麻生氏のこの発言について振り返ってみよう。麻生氏が特別定額給付金について言及したのは2020年10月24日のことだ。自身の政治資金パーティーにおいて、以下のような発言をした。

「現金がなくなって大変だというのでこの夏、1人10万というのがコロナ対策の一環としてなされた」
「当然、貯金が減るのかと思ったらとんでもない。その分だけ貯金が増えました」
「カネに困っている方の数は少ない。ゼロじゃありませんよ。困っておられる方もいらっしゃいますから。しかし、預金・貯金は増えた」

簡単に言えば、特別定額給付金は消費を喚起することにはあまりつながらず、結果として国民の貯蓄を増やすことにつながったことを強調した形だ。このような発言を受けて多くの報道機関が、麻生氏が特別定額給付金の効果を疑問視したと報道し、波紋を広げた。

一律10万円の特別定額給付金制度について振り返る

では、特別定額給付金は失敗だったのか。改めて今回実施された特別定額給付金制度について振り返ってみよう。

特別定額給付金制度は、4月20日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の趣旨に基づき実施されたもので、目的としては「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う」ことが掲げられた。

総事業費は約12兆8,802億円で、基準日(2020年4月27日)において住民基本台帳に記録されている人を対象に、一律で10万円が配布された。オンライン申請で自治体側が混乱する場面もあったが、すでに配布が無事終了している。

確かに約12兆円超という予算は膨大な金額であり、財務大臣である麻生氏がその効果について振り返るというのは、大臣としては正しい姿勢であると言える。しかし、麻生氏はこの特別定額給付金制度は「消費」の観点からは、成功であったとは判断はしていないようだ。

本当に特別定額給付金制度は失敗だったのか?

麻生氏は特別定額給付金について否定的だが、実際には一律10万円が給付されたあとに「Go Toトラベル」キャンペーンや「Go Toイート」キャンペーンが実施され、10万円給付が結果としてこれらのキャンペーンにおける消費につながった側面があることは確かだ。

内閣府が11月16日に発表した2020年7~9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は、前期比で年率21.4%増と大幅な伸びとなり、52年ぶりの高水準となった。このような結果となったのには、特別定額給付金を含む政府の新型コロナウイルス関連施策の効果が出たからだとみられている。

それにも関わらず、麻生氏が特別定額給付金に否定的なのには、記事の冒頭でも触れたが、「給付金トラウマ説」が背景にあるのかもしれない。この「給付金トラウマ説」とはどのような説なのか。簡単に言えば次のようなものだ。

麻生氏はリーマン・ショックによる世界金融危機が起きた当時、総理大臣だった。その際に緊急経済対策の一環として、給付対象者1人につき1万2,000円を配布した。2009年のことだ。しかし当時、メディア側が給付金の効果が限定的だと麻生氏を叩き、これにより麻生氏が給付金にトラウマを持った…という具合だ。

もちろん、麻生氏自身にこの「給付金トラウマ説」が本当に当てはまるのかは分からないが、苦い記憶があることは間違いない。このような点に加え、現在は財務大臣という政府の財布を管理する立場である麻生氏だけに、今回の発言につながったのかもしれない。

「見えざる敵」との戦いの中で実施された特別定額給付金

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本にとっても他の国にとっても、「見えざる敵」との戦いとなっている。ウイルスの突然変異の可能性もあり、収束時期が見通しにくい中でどのように自国民の生活を支えていくか、各国の政府が模索している。

そのような状況で、各国では国民に対する支援策がすでに実施されつつある。しかし、限られた時間の中で検討・実施された施策であるだけに、結果として効果が限定的だったと数年後には分析されるものも出てくるだろう。つまり時間が経つにつれて、今回の麻生氏の発言・分析が正しいのかそうでないのか、答えも出てくることになりそうだ。

いずれにしても、施策の効果を実施後に振り返っておくことは非常に重要だ。それは、将来において類似の事態が起きた際、大きな教訓となるからだ。新型コロナウイルスが収束した後、政府がコロナ関連施策をどのように反省・総括するのか、注目が集まる。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)