業務効率化の観点から協働ロボットが注目されている。この記事では、協働ロボットと産業ロボットの違いを解説し、協働ロボットを導入するメリットや課題を説明する。具体的な事例やメーカーも紹介するので、協働ロボットの利用を検討している経営者はぜひ参考にしてほしい。

協働ロボットとは?産業ロボットとの違い

協働ロボット
(画像=Photocreo Bednarek/stock.adobe.com)

協働ロボットとは、人と協力しながら働くロボットだ。

従来の産業ロボットは、安全面から人間と違う場所で作業していた。仮に同じフロアだったとしても産業ロボットは柵で周囲を囲われ、人間が作業するスペースからは完全に隔離される。そのため、人間の手を介さない単純作業ばかりをこなしていた。

このような背景から産業ロボットは、スペースを確保できる製造ラインで単純作業の遂行を目的に使用されてきた。一方で、食品など取り扱いに繊細な作業を求められるラインや、大きなスペースを確保できない中小企業のラインでは、使用しづらいという課題があった。

一方、協働ロボットは、人間と一緒に働けるように設計され、単純作業だけでなく繊細で高度な作業を任せられる。産業ロボットと比べると小型で隔離する必要もなく、中小企業でも製造ラインに導入しやすいだろう。

協働ロボットが注目される理由2つ

協働ロボットが注目される理由は主に2つある。

理由1.人材確保の難しさと働き方の変化

日本の人口が減少に転じてから、多くの中小企業が働き手の確保に苦戦している。また、終身雇用制が崩壊し、数年で転職を選択する若者も増えてきた。せっかく採用・育成しても、一人前になったと思ったら転職してしまう。

働き手を確保できなければ、小人数で仕事を回さなければならない。しかし、働き方改革によって長時間労働にメスが入った今、現場では業務の改善と生産性の向上を迫られている。

その点、協働ロボットによって業務を効率化できれば、人材確保や働き方に関する悩みを大きく軽減できるだろう。

理由2.新型コロナウイルスの影響

2020年、新型コロナウイルスによって社会は大きく変動した。密集を避け、非接触を推進する動きが加速し、職場環境を見直す必要も生じている。

人間でなくてもできる作業を協働ロボットに委ねていくことが、新しい職場環境の整備につながっていくのは間違いない。

協働ロボットを導入するメリット3つ

続いては、協働ロボットを導入するメリットを経営者目線で3つ解説する。

メリット1.業務効率化

協働ロボットなら、人間の手作業よりも生産性を高められるメリットがある。業務の効率化を実現するには、自社の業務を分析し、適切な工程で協働ロボットを活用することが重要だろう。

メリット2.人件費削減

協働ロボットを活用して生産性を向上させれば、残業時間を削減して人件費を抑えられる。

また、人材の採用・育成にはコストが発生するが、協働ロボットであればそもそも採用・育成の必要がない。人の入れ替わりが激しい職場なら、協働ロボットのメリットはさらに大きいだろう。

メリット3.品質向上

協働ロボットを適切な工程で活用すれば、自社の商品・サービスをブラッシュアップし、欠陥品やクレームを防げる。

人間に得意分野があるように、協働ロボットにも得意分野がある。クリエイティブな仕事は人間にしかできなくても、正確さを求められる仕事なら協働ロボットに軍配が上がる。

協働ロボットを導入する課題3つ

協働ロボットの導入を検討する際には、メリットだけでなく課題にも目を向けなければならない。続いては、協働ロボットを導入する課題を3つ解説する。

課題1.人材育成

協働ロボットは、産業ロボットのように機器だけで作業が完結するわけではない。もともと、人間と協力して働くように設計されているため、協働ロボットをきちんと使いこなせる人材を育成する必要がある。

課題2.現場による反発

協働ロボットの導入に際して、場合によっては現場の反発が予想されるだろう。せっかく協働ロボットを導入しても、現場に受け入れられなければ意味がない。

協働ロボットの導入についてきちんと説明し、協働ロボットの必要性を理解してもらう必要もある。

課題3.システムトラブル

機械である以上、協働ロボットにもシステムトラブルがあり、動作を停止してしまったり、誤った動作をしてしまったりする。そうなると、商品・サービスにも悪影響をおよぼしかねない。

協働ロボットを活用するならシステムトラブルを念頭におき、あらかじめ対策しておくことが必要だろう。

協働ロボットを導入する4ステップ

協働ロボットのメリットを知り、導入してみたいと感じた方もいるのではないだろうか。参考に協働ロボットを導入する流れを紹介する。

ステップ1.仕事の工程を分析

まず、仕事の工程を洗い出し、協働ロボットに任せられる作業を整理していく。正確さが求められる仕事、人間がミスしやすい仕事、スタッフの負担になる仕事などを中心に、協働ロボットを導入するイメージをふくらませる。

ステップ2.協働ロボットのメーカーを選ぶ

協働ロボットを販売しているメーカーを比較検討し、依頼先を決定する。各メーカーが提供する協働ロボットの特徴や導入事例、支援体制などを確認する。担当者との相性を踏まえて決めることも大切だ。

ステップ3.協働ロボットの導入計画を立てる

現場の意見を吸い上げながら、協働ロボットの導入計画を立てる。計画にもとづいて専門メーカーが協働ロボットの設計を行う。同時に、協働ロボットを安全に稼働させるための安全対策も練る。

ステップ4.協働ロボットを導入する

協働ロボットを導入し、現場で実際に運用する。運用に問題がないことを確認できるよう、事前にチェック項目を決めておくことが大事だ。

運用後は客観的に成果をチェックし、問題なければ本格的な運用をスタートする。その後、協働ロボットの点検をしつつ管理・運用していく。

協働ロボットの導入事例2選

協働ロボットの活用方法は、会社の事業によって変わる。続いては、協働ロボットの導入事例をいくつか紹介する。用途や事例を知れば自社に協働ロボットを導入するイメージも湧きやすくなるだろう。

事例1.作業時間を一定にできる

作業者ごとに時間がばらつく工程があると、全体の作業時間に影響を与えてしまう。協働ロボットを導入すれば、一定時間で作業が完了するようになり、結果としてタクトタイムの安定にもつながる。

事例2.複雑な作業を一任できる

食品を扱うために繊細な設計が必要である場合、従来の産業ロボットの導入が難しいケースもある。工程を分析したうえで適切な設計の協働ロボットを導入すれば、料理を完成させるまでの複雑な工程について、味を落とさずに一任できる。

人気の協働ロボットメーカー3選

最後に、人気の協働ロボットメーカーを3つ紹介する。

メーカー1.安川電機「MOTOMAN-HCシリーズ」

1915年創立の安川電機は、MOTOMAN-HCシリーズという協働ロボットを販売している。MOTOMAN-HCシリーズは、手や指が挟まれにくい安全性重視の構造で、配置の自由度も高い。また、協働ロボットの操作に不慣れでも、ダイレクトティーチボタンで簡単に操作できる。

メーカー2.IDECファクトリーソリューションズ株式会社

1972年設立のIDECファクトリーソリューションズ株式会社は、協働ロボットを導入するためのアプリケーションパッケージを提供している。アプリケーションパッケージには、協働ロボットシステムの設計・プログラミング・立ち上げに関するサポートツールがセットになっている。

メーカー3.日本サポートシステム株式会社

1990年設立の日本サポートシステム株式会社は、ロボットの導入を数多く手掛けている。通常のロボットメーカーはシステムの構築まで対応できない場合がある一方、同社は現場の課題分析や設計、製造、メンテナンスまで依頼できるため、初めて協働ロボットを導入する場合にも相談しやすいだろう。

協働ロボットの活用を検討しよう

産業ロボットといえば、大企業が自動車製造ラインなどで利用するイメージが強かった。しかし今、協働ロボットの登場によって、食品や化粧品、医薬品などさまざまな分野でロボットの活用が広がっている。

省スペースで設置できる協働ロボットなら、中小企業が導入するハードルも低い。今後は機械の得意とする作業をロボットに委ねていく流れが加速するだろう。

人材不足解消の効果的な手段や、商品・サービスの品質を高める戦略として、協働ロボットの導入を積極的に検討していきたい。(提供:THE OWNER

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)