新年を迎え、新たに投資を始めたり、自分のポートフォリオを見直すという人も多いだろう。その時に、「ぜひ米国株を選択肢に入れてもらいたい」と語るのがマネックス証券チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティシニアフェローの岡元兵八郎氏だ。

昨年末に「今こそチャンス! 資産を増やす米国株投資入門」を上梓した岡元氏に、米国株の魅力を聞いた。(収録日:2020年12月17日)

米国株投資入門
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米国市場は「成長することが当たり前」のマーケット

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(画像=and4me/stock.adobe.com)

―岡元さんが、米国株への長期投資をおすすめする理由を教えてください。

一言でいうと、米国の株式市場は過去のパフォーマンスが優れており、これからも成長していくマーケットだからです。日本株は1990年初頭に「日経平均4万円を超えるだろう」と言われていた時期がピークでしたが、実際は2020年12月の時点で2万6000円前後で推移しています。

一方の米国市場は、まったく異なる道をたどりました。リーマンショックやITバブルの崩壊による暴落がありながらも右肩上がりの成長を続け、市場最高値を更新しています。こうした過去に加えて、最も大切なことは今後の動きです。私は長期的に考えて、米国株は上昇すると考えています。

その要因のひとつは人口です。人の多さは国力につながります。人口が増えてくる過程で消費者も増えます。米国はこれからも人口が増えていく試算が出ていますが、日本は人口増のピークはすでに過ぎ、10年先はさらに人口が減ると言われています。現在の日米の人口差は2.7倍ですが、2030年になると3倍に広がり、2050年には3.8倍になります。経済規模についても、現状で日米は3.7倍あり、2030年に4倍、2050年には4.6倍になるとされています。

もちろん、これらはあくまで予想であり、正確な数字は誰にもわかりません。しかし、日米の経済格差が開いていくというトレンドが続く可能性は高いと思います。経済規模が大きければ、それだけ消費のマーケットが大きくなります。米国人は買い物好きだと言われていますし、GDPの7割が消費ですから、マーケットが大きくたくさんのモノが売れます。日本も経済規模は世界第3位ですからそれなりの規模はあり、経済成長もしないわけではないですが、成長率でみると大きな差があるのです。

もうひとつの大きな違いとして、米国は現在でも「世界で一番行きたい場所」だと言われており、「アメリカンドリーム」という言葉も死んでいないということがあります。米国に行きたい移民も、留学に行きたい学生もたくさんいます。世界のトップ20の大学のうち、12が米国にあり、優秀な人たちが集まる傾向にあります。英語圏ですから、言葉のハンディもありません。様々な国から来て、いい大学を卒業した優秀な若者が、本国に戻る場合もありますが、米国に残って就職する場合も多数あります。そして、アマゾン、インテル、Google、マイクロソフトなど、グローバル企業に就職していくのです。

こうした環境は、人種差別などネガティブな側面もあるものの多様な国籍、宗教、価値観の人が集まることでイノベーションが生まれやすくなり、全体的にはポジティブな反応が起きやすくなっていると考えられるでしょう。

―人口や人材以外の要素には、どのようなものがあるでしょうか?

会社のマネジメント層の報酬が株価にリンクしている企業が多いこともポイントです。つまり、株主と企業の利害関係が一致しているのです。株価が上がったり、増配してインカムが入ってくれば株主はハッピーになります。同時に、経営者も自社株をたくさん保持しているため、増配すれば自分の懐も暖かくなります。このように経営者と株主の利害関係がマッチしているのです。米国には、「配当貴族」と呼ばれる人たちがいるように、積極的な増配や配当利益増が行われています。こうした背景からも、日本よりも米国の方が株価の上がりやすい国であると言えるでしょう。

これまで米国のマーケットは、歴史的に年6%程度の成長をしていきますから、2032年には現在の倍程度になると考えられます。株価指数が倍になれば、個別銘柄で見ればもっと成長するものもあるでしょう。最近の米国のIPOマーケットには様々な会社があり、中には突然数兆円規模に成長する企業もあります。これは米国のマーケットの醍醐味であり、明日のアマゾン、明日のアップルが出てくる土壌があることを意味します。もちろん私も日本人ですから、日本企業に期待していますし、有望な企業もあると思います。しかし、長期的な視点にたって考えるのであれば、ポートフォリオに米国株を入れた方がよいと思うのです

米国人の立場から見れば、米国の企業や株式市場が成長することは当たり前の話です。もっと正確に言うと、米国は決して「魅力的なマーケット」ではなく、「ごく普通のマーケット」であり、日本の株式市場がおかしいのです。

日本市場は、90年初頭に「日経平均が4万を超える」と言われながら、いまだに3万円も超えられていません。こうした市場環境にあるのは世界を探しても、日本くらいのものです。日本人投資家の多くは、そうした状況を「普通」だと思っているため、違和感がないのかもしれませんが、世界から見れば日本で起きていることは異常です。中央銀行がETFの半分以上を持っている状況は、決して「普通」ではないのです。

米国市場は「投資家にとってのディズニーランド」

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(画像=Patrick Poendl/Shutterstock.com)

―著書の中では、長期で投資に取り組むことの重要性を強調しています。

保有している株の価格が上昇あるいは下落すれば、「売ってしまいたい」と考えるのは、投資家ならば当たり前の欲求です。米国の投資家でも売ってしまうことはあるでしょう。

しかし、「資産を形成すること」を考えた場合、短期の売買で値動きを百発百中させるのは困難です。だからこそ、5〜10年後の国の情勢を考えて、自分なりに納得した国の企業へ長期的に投資する必要があるのです。

例えば、テスラの株価を見ていると、1年間で50%もの調整が入るということもあります。そのタイミングで売りたくなるのが人間の心理です。こうしたタイミングで長期投資できるか否かは、テスラの将来性を信じられるかどうかにかかっています。これは米国の将来性を信じられるかどうかと同じです。

先ほども指摘したように、投資先としてその国を信じられるか否かは、人口が増えるかどうかが判断材料のひとつになります。そして、経済成長率も日本より米国の方がはるかに高くなっています。人口と経済成長率という2つの側面で、米国はとてもポジティブな数字が出ているのです。

さらに米国は西側先進国であり、基本的には民主主義であるという点も日本人が安心して投資できる理由になります。企業の情報開示も世界でもっとも透明性があると言われています。こうした背景を踏まえれば、資産形成において、「米国市場に長期で投資する」という方法はリスクの低い方法の一つと考えることができるでしょう。

―初級者に対してはETFを推奨されていますね。

市場の動きと連動するETFであれば、リスクを抑えることができます。なので、少なくとも市場と同じ程度のリターンを得られるアセットを持った上で、「より多くのリターンを得たい」と考える人が、リスクをとって個別銘柄やIPO投資といった方法に挑戦すると良いと思います。

デジタル化の流れは今後も加速していくのでクラウドのセキュリティ関連のETFなどは長期的に面白いと思いますが、それ以外にも興味深いETFは数多くあります。たくさんありすぎて、一つ挙げるのが難しいぐらいです(笑)。

―書籍の中では、20程度の個別銘柄にも言及しています。アップルやアマゾンといったお馴染みの企業以外にも地味ながら興味深い企業も紹介しています。

例えば、プールコーポレーションという企業があります。日本にはプール付きの住宅などほとんどありませんから、こうした企業に注目するのは難しいかもしれません。しかし、米国にはプール付きの住宅がたくさんあり、そのメンテナンス用品を扱うプールコーポレーションも成長を続けているのです。

また、シンタスという企業向けにユニフォームを貸し出している企業も、この20年で素晴らしいパフォーマンスを残しています。私はこの会社を1999年代の中頃に知って、当時から気にはしていたのですが、しばらく忘れていたら2000年から現在までの間に株価は約800%の成長を遂げました。ハイテク企業ではないですが、今や時価総額は3兆8000億円を超えている企業です。

これらは、いわゆるGAFAとは対極にあるような地味な業界の企業ですが、その中にも珠玉の銘柄があるのが、米国市場の奥深さであり、それは国の経済成長とリンクしているというのがポイントです。この奥深さが、米国市場が「投資家にとってのディズニーランド」と言われる所以でしょう。

企業が掲げる「夢」に投資する

―2021年については、どのような見通しをお持ちでしょうか。

2022年の予想EPS(1株辺り利益)がだいたい200ドル程度と言われているので、その20倍を超えるPER(株価収益率)のレベル、つまり4,100ドル程度まで買われるのではないかとみています。20倍というと高めではありますが、低金利かつFRBが流動性を提供している環境なので、バリュエーションは高くなるのではないでしょうか。

一方でリスクとしては、高齢のバイデン大統領が何らかの理由で大統領を辞任するといったシナリオやコロナウイルスワクチンの副作用などが挙げられます。ワクチン開発とそれに付随した経済活性化が期待される中で、副作用を懸念するような声が大きくなれば、株式市場が揺れるリスクになります。とはいえ、長期的に見れば米国市場は右肩上がりで、来年も成長していく見通しは変わりません。

よく、「景気後退(リセッション)がやってくるのではないか」という話がでることがありますが、私はそうしたシチュエーションは長期投資をしている人にとっては最高の買い時だと思いますし、それは歴史が証明しています。景気後退をネガティブに捉えるよりも、買い時がきた際にどれだけキャッシュを蓄えておくか、という前向きな捉え方をした方が良いと思います。

―長らくレンジ相場にある日本市場的な発想に染まっているせいか、アップルやアマゾンといった著名な銘柄について「今が天井じゃないか」といった話を聞くことも多いです。

私は、この数年間、個人投資家の方に米国株の話をしていますが、「アマゾンが高い」「アップルが高い」という話題は必ず出ます。そして、そうした意見は、毎回間違っていました。

アップルも5年先、10年先を考えて経営しています。例えばNetflixなどのようなサブスクモデルを検討していますし、ウェアラブルやヘルスケア、自動運転といった成長分野への参入も進めています。

AmazonもECだけでなくクラウドサービスで大きな売り上げをあげており、そこで産まれたキャッシュを、翌日配送のためのインフラやドローンによる配達技術の開発に投資しています。

こうした企業の成長ストーリーを、投資家本人がきちんと見極めて、株を購入することが必要だと思います。それをせずに購入すると、株価が下がった時に理由がわからないし、不安になって売ってしまいます。株取引は夢を買うことと同じです。企業が掲げる夢を理解し、その夢に共感して投資をするのが、投資家としての矜持だと思いますね。

岡元兵八郎
岡元兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー。上智大学を卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)入社、東京、ニューヨーク本社勤務を含め26年間同社にて一貫して外国株式のマーケティング、外国株式関連商品業務に携わり、 外国株式部の上級管理職として機関投資家相手の外国株式ビジネスの拡大に努める。その後、SMBC日興証券株式会社で、エクイティ部、投資情報部にて米国株式市場・企業情報の情報収集、分析、顧客向け資料作成業務の責任者として、個人投資家向けに米国株式投資の啓蒙活動を行うなど米国株式仲介事業の拡大に貢献。 著書:『日本人が知らない海外投資の儲け方』(ダイヤモンド社) Twitter:@heihachiro888 note:https://note.com/heihachiro888