コロナによる受診抑制問題が「適正な受診」を検証する契機に
(厚生労働省「医科・調剤医療費の動向調査」)
大和総研 政策調査部 / 石橋 未来
週刊金融財政事情 2021年1月4日号
今号から12回にわたって、新型コロナウイルスの感染拡大による医療機関への影響など、医療や社会保障の分野における最近の動向を分析していきたい。
今回は、新型コロナ感染拡大に伴う「受診抑制」の動向を見ていく。緊急事態宣言の発出や感染への恐れによる外出自粛から、外来を中心に医療機関への受診を控える人が増加した。受診抑制の動きは2020年5月をピークに緩和してきたが、9月時点の社会保険診療報酬支払基金のレセプト件数を見ると、入院が前年同期と同じ水準にまで回復したのに対し、外来は十分に戻っていない。11月以降の再流行によって、足元では再び受診抑制が広がっている可能性も大きい。
この間、受診抑制の動きは一律に見られたわけではない。図表は、19年1月から20年6月までの年齢層別レセプト件数である。新型コロナの感染者数が急増した20年3月以降、高齢者の受診抑制が一定程度にとどまったのと比べて、20歳未満の受診抑制が目立つ。なかでも、受診控えが顕著だったのは5歳未満である。外来について人口1人当たり受診回数を年齢別に計算すると、コロナ禍以前には「5歳未満」と「65~74歳の前期高齢者」はあまり変わらない水準だったが、コロナ禍の中では「5歳未満」が際立って減少している。感染を恐れる意識の違いが表れた可能性もある。
ただ、コロナ禍は「これまでの受診が過剰だった可能性」を考える契機である。諸外国と比較して日本の1人当たり外来受診回数は極めて多い。その背景には、医療に係るコストを意識しにくい構造があると考えられる。
医療費の窓口負担は一部の見直しが予定されているが、原則、75歳以上が1割、70~74歳が2割、それ以外は3割(未就学児は2割)と、高齢者が低く設定されている。だが子どもに関しても、各自治体は、子育て世帯の経済的負担の軽減や少子化対策などの目的から窓口負担を大幅に軽減している。すべての市区町村が5歳未満の未就学児を中心に医療費を助成しており、所得制限を付していなかったり、自己負担をゼロとしたりしている自治体も多い。
医療費問題は高齢者ばかりが注目されるが、手厚く助成されている子どもの医療についてもコスト意識が薄く、不要不急の受診が少なくなかった面があるのかもしれない。受診回数の多さは医療費を膨張させるだけでなく、医師の長時間労働問題を引き起こしたり、真にそれを必要とする患者に十分な医療を提供できない事態を招いたりしている可能性がある。他方、頻繁な受診や念のための受診は早期発見・早期治療につながりやすいため、必要な受診を控えないことはもちろん重要だ。コロナ禍を奇貨として、「適正な受診」についての検証が求められよう。
(提供:きんざいOnlineより)