日本企業にとって海外進出は、新たな市場を開拓できるビジネスチャンスとなり得る。しかし、海外は国内とは事情が大きく異なるため、最終的に失敗してしまう国内企業も数多く存在する。そこで今回は、海外進出に潜む課題と解決策を徹底的に解説していこう。

海外進出が注目される理由や背景とは?

海外進出
(画像=PIXTA)

日本企業の海外進出は、1983年頃から増減を繰り返している。その目的は「新規市場の開拓」や「販路拡大」などであり、最近では短期間での成長を目指して海外進出を狙う中小企業も珍しくない。

なかでも注目されているエリアは、世界最大の人口を誇る中国だ。中国ではすでに「Made in Japan(日本製)」がひとつのブランドとして確立されており、さまざまな日本製品に人気が集まっている。多くの労働力を確保しやすい点も、中国に進出する日本企業が多い一因となっているだろう。

東南アジアへの進出にも注目

そのほか、シンガポールやベトナムをはじめとした東南アジアも、いまでは市場拡大の影響で大きな注目を浴びている。中国に比べると距離は遠いが、現代ではインターネットなどのインフラが広い範囲で整備されたため、低コストでの海外進出が可能になった。

しかし、本記事でも詳しく解説していく通り、海外進出を成功させることは容易ではない。海外にはさまざまなリスクが潜んでいるため、進出を計画している経営者はこれを機に十分な情報と知識を身につけておこう。

海外進出において、日本企業が直面する5つの課題

では、海外進出を目指している日本企業は、具体的にどのような課題に直面するのだろうか。以下で解説する課題は「深刻なリスク」にもつながるため、ひとつずつ丁寧に確認していく。

1.言語の違い

スマートフォンなどの翻訳機が発達してきたとは言え、「言語の違い」は海外進出の大きな壁だ。日本語でコミュニケーションをとれる国はゼロに等しいため、海外進出を目指すのであれば現地の言語を習得する必要がある。

また、現地の言語を学ばなければ、さまざまな手続きや書類作成に手間取るため、そもそも法人を設立できないケースも考えられる。仮に現地で従業員を雇う場合であっても、その従業員とコミュニケーションをとるために最低限のスキルは求められるだろう。

2.法律や商習慣、文化の違い

日本と海外とでは、「法律・商習慣・文化」の3つが異なる点にも注意しておきたい。会社設立の要件はもちろん、顧客対応や商談、各種手続きの流れなども異なるので、海外進出では「現地のルール」を十分に理解しておくことが必須だ。

また、日本と文化が大きく異なる国では、従業員や消費者との正しい接し方も変わってくる。

3.現地の情報不足

進出をする地域によっては、日本と同じ要領で情報を収集することが難しい。もし情報不足に陥ると、現地の市場特性をつかめないばかりか、場合によっては法律に抵触してしまう恐れもあるので、情報不足は死活問題にもつながりかねない課題だ。

必要な情報をスムーズに収集できるよう、事前に情報網を張り巡らせておく必要があるだろう。

4.販売ルートの確保

販売ルートの確保は、海外進出において最優先するべき課題と言える。日本国内に比べると、海外は販売ルートを確保するハードルが非常に高いためだ。

良質な製品を作っても、取引先や顧客がいなければその事業の採算はとれない。また、現地で原料などを調達する場合には、仕入先もしっかりと確保しておく必要がある。

5.良好な経営状態の維持

海外進出では採算のとれる経営状態を1度築いても、それが長く続くとは限らない。特に法律や規制、税制が頻繁に変わるような地域では、短期間で状況が一変することもあるため、日本と同じ方法では経営状態を維持することが難しいだろう。

なかでも発展途上国に進出するケースでは、災害や治安の悪化なども注意しておきたいリスクとなる。

海外で直面する課題の解決策

海外進出のリスクを抑えるには、上記で解説した課題に対する「解決策」を用意しておくことが必要だ。では、具体的にどのような解決策が考えられるのか、以下でいくつか例を紹介していこう。

1.経営コンサルティング会社に相談をする

言語や文化の違いについては、現地に派遣する従業員を教育すればある程度は解決できる。ただし、販売ルートを確保することまでは難しいので、現地の情報や人脈が乏しい場合には、経営コンサルタント会社などの専門家に頼ることが必須だ。

ただし、すべての業者が海外進出に詳しいとは限らないため、進出するエリアに関する実績や経験が豊富なコンサルタント会社を選ぶ必要がある。相談先によっては、ほかにもさまざまな面でサポートしてくれる可能性があるため、各業者のサービス内容はしっかりと比較しておこう。

2.国際的な知識に長けた弁護士・税理士に相談する

現地での書類作成や手続きについては、弁護士や税理士に相談しておくと安心だ。ただし、上記のコンサルタント会社と同じように、弁護士・税理士についても海外実績が豊富な相談先を探しておきたい。

なかには、書類作成や手続きを代行してくれる専門家も見受けられるので、手間を削減したい経営者はそのような相談先を探しておこう。

3.現地のビジネスパートナーを探しておく

海外進出において、現地のビジネスパートナーは必須とも言える存在だ。協力的なパートナーを見つけられれば、有益な情報をいち早く共有してもらえる。

そのほか、販売ルートや仕入先、人脈などを紹介してもらえる点も非常に大きい。ただし、地域によっては悪徳業者が潜んでいる恐れもあるため、各専門家と同じくビジネスパートナーも慎重に選ぶようにしよう。

4.Eコマースを導入する

Eコマースとは、ネットショップやネット通販をはじめとした「電子商取引」のこと。Eコマースでは、不特定多数の消費者に対して自社や商品をアピールできるので、海外における販促活動の効率をぐっと高められる。

そのため、近年では海外進出とEコマースの導入をセットで検討する企業も見受けられるが、実はEコマースが不発に終わるケースも珍しくはない。特にEコマースと基幹系システムの連携が不足していると、コストの無駄遣いに終わってしまう可能性が高いので、Eコマースの導入前には十分な分析や検討をしておくことが必要だ。

海外進出における課題を解決した事例

課題に対する解決策をもう少し把握するために、次は実際に課題を解決した事例をチェックしていこう。

1.海外向けECサイトの導入/株式会社ハシモト

海外工場の運営やおもちゃのOEMなどを幅広く手掛ける「株式会社ハシモト」は、海外進出の戦略としてECサイトの導入を検討していた。そこで、海外出身のメンバーを中心に構成されているマーケティング支援会社「LIFE PEPPER」に対して、海外向けECサイトの設計と導入を依頼。

この依頼先の選び方が功を奏し、ハシモトはECサイトの設計・構築に加えて、課題の洗い出しや翻訳業務などさまざまなサポートを受けることに成功する。なかでもECサイトの多言語化は、見事に海外消費者のニーズに応える形となった。

この事例のように、必要なサポートをしっかりと受けられる専門家や相談先を見つけられれば、海外進出が成功する可能性はぐっと高まるはずだ。

2.海外戦略の柔軟な修正/株式会社TTNコーポレーション

創業80年の老舗畳店である株式会社TTNコーポレーションは、海外進出のターゲットとしてアジア市場を検討していた。しかし、アジアでは製品に対する反応が薄かったため、ターゲットとなる地域をヨーロッパへと変更する。

ヨーロッパにおいても従来製品の評判はそこまで高くなかったが、現地向けに和とデザイン性を兼ね備えた製品を提供したことがきっかけとなり、同社の評判や注目度は急上昇。当初の予定からはズレが生じているものの、海外のニーズに合わせて柔軟に計画を修正したことが、この事例では成功へとつながっている。

海外市場の特性は日本とは大きく異なるケースが多いため、情報収集や分析によって「リスクが高いこと」が分かったら、早めに計画を見直すことも重要になるだろう。

海外進出にクロスボーダーM&Aは効果的?理解しておきたいポイントと注意点

近年では、クロスボーダーM&Aによって海外進出を果たす企業も増えてきている。クロスボーダーM&Aとは、海外の企業を対象として実施されるM&Aのことだ。

海外企業買収の利点と注意点

海外企業を買収すれば、現地の人材やノウハウ、設備をそのまま獲得できるため、よりスムーズに海外進出を実行できる。そのほか、クロスボーダーM&Aでは販売ルートや仕入先の確保、ネットワークの構築などもスピーディーに進められる。

ただし、クロスボーダーM&Aにおいても、「言語・法律・商習慣・文化」の違いは大きな障害となる。たとえば、現地の文化を理解せずに経営統合を進めた結果、優秀な人材が流出してしまうケースは決して珍しくない。

M&Aにおける経営統合は、国内企業同士でも難しいプロセスとされているため、やはり専門家の力を借りる必要があるだろう。

ほかにも海外進出には数多くのリスクがある

ここまで解説した以外にも、海外進出にはさまざまなリスクが潜んでいる。万全な対策を立てるためには、どのようなリスクが潜んでいるのかを十分に把握しておくことも必要だ。

そこで以下では、ここまで紹介した内容も含めて海外進出に潜んでいるリスクをジャンル別にまとめた。

リスクの種類具体的なリスク
コミュニケーションに関するリスク・現地法人とのコミュニケーション不足
・販売ルートや仕入先の確保のしづらさ
・情報収集の難しさ
人材に関するリスク・優秀な人材が見つからない可能性がある
・地域によっては、低コストで雇えるとは限らない
・文化の違いにより、従業員の扱いに悩まされることも
経営体制に関するリスク・現地法人の統制不足による、グループ全体の収益の悪化
・ECコマースなど、導入設備やシステムの不具合
・現地法人による不祥事
展開後に潜んでいるリスク・税制や法律の改正
・経済情勢の大きな変化
・治安の悪化
・仕入費や人件費の急騰

海外進出に潜んでいるリスクは、どの地域に進出するのかによって大きく異なる。たとえば、欧米のような先進国に進出する場合には、治安の悪化に敏感になり過ぎる必要はない。

したがって、海外進出の前には現地の情報をしっかりと収集し、その地域ならではのリスクをできる限り洗い出しておこう。

海外進出でM&Aを検討するならM&A仲介会社に相談も

海外進出には数多くのリスクが潜んでいるため、自社の力だけでスムーズに進出を果たすことは難しい。そこで積極的に考えておきたい選択肢が、海外実績の豊富な専門家を頼る方法だ。

専門家にもさまざまな種類があるが、日本企業の海外進出では「M&A仲介会社」が大きな助けになってくれる。たとえば、日本M&AセンターではクロスボーダーM&Aに関するさまざまなサービスが提供されており、デューデリジェンスをはじめとした買収監査も行っているので、海外進出のリスクをぐっと抑えられるはずだ。

海外進出を検討している経営者は、自社の選択肢を増やすためにも頼れる相談先をしっかりと探しておこう。

海外進出のリスクを抑えるには、万全の準備が必要になる

今回解説した通り、日本企業の海外進出にはさまざまな課題やリスクが潜んでいる。仮に市場が大きいからと言って安易に海外進出をすると、思わぬ損害を被る恐れがあるため要注意だ。

少しでもリスクを抑えたいのであれば、M&A仲介会社などの専門家の力を借りたうえで、万全の準備を整える必要がある。海外進出に興味を持っている経営者は、まずは本記事を参考にしながら十分な知識・情報を身につけるところから始めていこう。(提供:THE OWNER

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)