コロナ禍によって企業の在り方や一人ひとりの働き方は大きく変わり、見直され始めた。

その中で、数年前から日本企業の間で経営上の課題としてよく聞くようになった「社員エンゲージメント」も、より一層重要視されている。

柴田彰氏は企業における社員エンゲージメント向上に欠かせないのは中間管理職の存在だとしながらも、これまでとは異なる管理職像の在り方が必要だと訴える。

本稿では、中間管理職が多様化する若い部下の一人ひとりに対していかにマネジメントスタイルを変えていくべきなのかについて考える(取材・構成:塚田有香)。

※本稿は月刊誌『THE21』2020年11月号より一部抜粋・編集したものです。

若手は何が不満で会社を辞めるのか?

社員エンゲージメント,柴田彰
(画像=THE21オンライン)

どうすれば社員エンゲージメントを高められるのか。

コーン・フェリーが2015~17年に、約30社の日本企業の社員約23万人を対象に行なった調査結果から、エンゲージメントの高低に影響するドライバー(因子)を解析した結果、最も相関が高かったのは、「顧客に提供する体験的価値への自信」でした。

「顧客が満足や感動を得られる製品やサービスを提供している」という自負があるかないかで、社員エンゲージメントが大きく左右されるということです。

次に相関が高いのは「成果創出に向けた効果的な組織体制」、3位に僅差で「自社におけるキャリア目標達成の見込み」と「生産性を高めるための環境整備」が続きます。

また、2年未満に辞めたいと答えた社員と、2年以上働きたいと答えた社員との間で、否定的な回答率の差が大きかった項目(=早く辞めたいと思っている若手社員が、そうでない社員よりも不満に感じていること)を調べたところ、1位は「キャリア目標達成の見込み」でした。

つまり、「自分が目標とするキャリアに向けて、会社は十分な成長機会を与えてくれていない」と不満に思っている若手が多いことを意味します。

自社での成長機会をしっかり明示する

これらの調査結果を踏まえ、社員エンゲージメントを高めるために会社としてやるべきことは、二つあると考えられます。

一つは、会社の存在意義を社員に伝えること。要するに「この会社は何のためにあるのか」を、言葉にして発信するということです。

すると、社員は自分がこの組織で働く意味を感じることができ、「顧客に提供する体験的価値への自信」につながります。

もう一つは、「この会社や組織でどのような成長ができるのか」を社員に示すこと。

社員エンゲージメントに影響するドライバーとして「自社におけるキャリア目標達成の見込み」が上位に入り、若手の多くがその点で不満を感じているというデータから、今の会社でどのような成長の機会があるのかを示すことが社員エンゲージメントを高めるうえで大事なのは間違いありません。

それでは、この二つを会社の誰がやるべきなのでしょうか。

私は、中間管理職が大きな役割を担うべきだと考えます。

会社の存在意義は企業の根幹に関わるものです。ビジョンや戦略として言葉にし、社員に発信することは、本来は経営者にしかできません。

しかし、経営者が直接社員にメッセージを伝える機会はごく限られていて、大半は各組織のトップや管理職を介して社員に届けられます。自社で実現できる社員の成長について、経営者が社員に語る機会も少ないでしょう。

ですから、ここからは現場のリーダーである管理職の出番です。

企業はピラミッド構造で、その頂上にいる経営者は現場の社員にとって遠すぎる存在です。大半の社員にとって、会社を代表する存在と言えば、自分が所属するチームや組織をマネジメントする部長や課長なのです。

ですから、管理職が会社の存在意義やキャリア目標の達成見込みについて社員たちに伝える役割を果たせば、社員エンゲージメントを高めるのに大きな効力を発揮します。

ピラミッドの裾野の部分を握っている管理職は、組織改革において最も重要なカギを握っているのです。