「SPC(特別目的会社)」をご存じだろうか?サブプライム・ローンでSPCを活用した住宅ローンの証券化手法が問題視され、悪いイメージがあるSPCだが、さまざまなケースで有効利用されている。今回は、SPCの基本やメリット・デメリット、SPCの活用法について説明する。
SPCとは?
SPCとは「特別目的会社」のことであり、英語表記である「Special Purpose Company」の頭文字をとった略称である。SPCは、資産の流動化・証券化という特別の目的のために機能する「器」、あるいは「箱」としての組織形態をいう。
このうち、「資産の流動化に関する法律(以下「SPC法」)」によって資産の流動化を目的として設立される会社を、「特定目的会社(以下「TMK」)」ということがあり、SPCとTMKは区分して説明していく。
SPCは、資金調達の手段としての利用側面が大きい。すなわち、一般的に企業の資金調達は、金融機関からの借入れや株式発行によることになるが、これらは企業自体の信用力に基づいて実施される資金調達方法である。
一方、SPCを利用した資金調達では、保有している特定の資産を分離させ、これらを基にして金融機関から融資を受けることによって資金を調達するのである。
SPCのメリットとデメリット
次にSPCのメリットとデメリットを見ていきたい。
SPCのメリット
・メリット1. 資産の継続的保有
SPCは、資産を保有すること自体を役割としているため、不動産などの資産を、事業体の影響を受けずに保持できるという点がメリットの一つとして挙げられる。すなわち、仮に本体の事業体である会社が倒産するような状況が発生したとしても、SPCが保有している資産には影響が及ばないため、結果として資産を保全できる。
・メリット2. 資産の資金化
特定の資産をSPCへ売却することで、一部の資産についての資金化が可能というメリットもある。一般的に、土地などの不動産は高額であり、頻繁に売買される対象とはならないため、事業資金の一部が回収されずに、いわば埋蔵金として半永久的に事業資金を寝かせている状態に等しいといえる。
このような状況において、さらに事業上の資金調達が必要な場面では、SPCを利用して眠っている資金を回収すべく、不動産を売却する手法が活用されることになる。
・メリット3. 少額な手元資金でM&Aが実行可能
M&Aで企業を買収するには一般的に多額の資金が必要だが、SPCを設立し、対象会社の資産等を担保に金融機関から借入を行うなどのスキーム(レバレッジド・バイアウト)を利用すると、少額の資金で大規模なM&Aを実施することが可能となる。
そのため、M&Aを検討する投資企業にとっては魅力的な手段であるし、原則としてSPC自体が倒産しないことや、SPCが保有する資産のみを考慮して融資判断をすればよいので、融資を行う銀行などの金融機関にとっては利用しやすい側面もある。
SPCによるデメリット
次にSPCのデメリットを見ていこう。
・デメリット1. SPCの設立や運用にコストがかかる
SPCのデメリットの一つは、一般の株式会社に比べて、設立や運用のコストが高いということである。
SPCは特殊な目的で設立されるため、スキーム全体の制度設計を、事前に緻密に考案しておかなければならない。さらに、弁護士などの専門家とSPCスキームの法律面の検討もしなければならず、手間と費用がかかることになる。また、SPC法による特別目的会社の設立では、内閣総理大臣への届出、資産流動化計画および業務開始届出の提出等が必要にもなる。
SPCでは、将来的に資産から得た利益を投資家の出資割合に応じて分配することになるため、分配に関わる計算や事務の手間も別途発生する他、公認会計士等の監査が必要となる場合は、監査報酬などもSPCの運用コストとして発生する。
・デメリット2. 会計不正への利用
SPCの利用により、特定の資産を会社本体から切り離すことになるため、含み損がある資産をSPCへ移動させることによって、本来発生する損失を回避するという会計不正に利用される可能性がある。
・デメリット3. 借入の返済不能リスク
SPCを利用したM&Aの手法の一つである、レバレッジド・バイアウトを活用した場合には、買収される対象企業に新たな借入等が発生するため、当初予定していたキャッシュ・フローが得られないなどの理由から、借入額を返済できなくなるリスクを負うというデメリットもある。
SPCが活用されるケース
続いてSPCが活用されるケースについて確認していこう。
SPCの活用ケース1:不動産の流動化を目的とした資金調達
通常、事業で利用している土地などの不動産は売却が困難であるが、資金調達手段の一つとしてSPCに対して資産を売却する一方で、売却した資産をその後も利用できるという、いわゆる不動産の流動化スキームを活用できる。
以下では、不動産の流動化スキームとして、「SPC法に基づくスキーム」と「合同会社-匿名組合スキーム」を取り上げて説明する。
1.SPC法に基づく不動産証券化スキーム
SPC法に基づいて「特定目的会社(以下、「TMK」)」を設立し、金融機関からの特定借入や特定社債及び投資家からの優先出資により、不動産または不動産信託受益権を取得・運用するスキームである。
TMKは、通常の会社とは違って財務省の管轄となるため、事業活動において利益を追求できない。なお、TMKは資産保有が主たる役割なので、資金調達に関する実務は親会社などの設立会社が行うことが一般的である。
また、TMKは、税法上の一定要件を満たせば、配当金の損金算入が認められるため、いわゆる二重課税を回避することが可能となる。一方で、資産流動化計画等の作成や届出などに時間がかかるなど、事務手続きが煩雑というデメリットもある。
SPC法に基づく不動産証券化スキームを図にすると、以下のようになる。
原資産保有者が、TMKへ特定資産を売却することで資金化が可能となる他、資産に対応する証券を発行することで、TMKが特定資産を取得するための資金調達を行うことになる。
2. 不動産の証券化(合同会社-匿名組合スキーム)
SPCとして「合同会社(以下、「GK」)」を設立し、投資家から「匿名組合(以下、「TK」)」出資を受けたり、金融機関から借入を行って、不動産信託受益権を取得して運用するスキームである。ここで、不動産信託受益権とは、不動産を信託銀行等に信託し、賃料収入や売却益などの利益を受け取る権利の事である。
SPCであるGKの保有資産が、実物の資産ではなく不動産信託受益権としているのは、不動産特定共同事業法に抵触する可能性を排除し、投資設計上の自由度を高められることや、不動産取得税の免除など、不動産流通税の特例の適用を受けられるというメリットがあるためである。
なお、SPCの「器」あるいは「箱」として合同会社が利用されるのは、合同会社には会社更生法の適用がないことや、合同会社への出資者の全員が有限責任社員であることから、会社機関の設置が不要で簡易な運用が可能であることなど、他の会社に比べても設立及び運用に係るコスト面で株式会社を利用するよりもメリットが大きいことがあげられる。
原資産保有者が特定資産を信託し、その信託受益権をSPCであるGKへ売却するという点が、先のTMKスキームと異なる。
さらに、資金調達先の特徴として、一般社団法人を利用している。これは、一般社団法人を介在させることで、原資産保有者の事業の影響を受けないように、倒産隔離を目的としているからである。
また、TK出資を行うことで、GKの所得計算の中のTK出資者への配当については、損金算入できるというメリットがあるため、SPCをGKとする場合には一緒に利用されることが多い。
SPCの活用ケース2:M&A時の資金調達
M&AにおいてSPCが利用される「レバレッジド・バイアアウト(以下、「LBO」)」を活用したケースについて説明する。
LBOは、融資の担保として譲渡企業の資産やキャッシュ・フローを用いることが一般的である。つまり、譲受企業がローンの返済をするのではなく、買収対象企業の持つ資産や将来の収益を返済の原資とすることで、自己資金を小額に抑えて買収資金を確保できる手法として、実務上も利用されることが多い。
M&Aにおいて、買収対象企業の株式を取得する際にLOBを活用した事例を紹介する。
まず、スポンサーとなる取得企業が出資を行い、SPCを設立する。そのSPCは、金融機関からローンにより資金調達を行う。その後、SPCが調達した資金を基に既存株主から対象企業の株式を取得することで、M&Aが概ね終了することになる。
通常は、この後にSPCと対象企業との合併を行い、SPCが負担しているローンは対象企業側に引き継がせるという流れになる。合併前までを図にすると以下のようになる。
最後に
さまざまな場面で活用されているSPCを見てきたが、SPCという「器」あるいは「箱」が、TMKであったりGKであったりと、一見複雑に思えるが、企業の資金調達に一役買っている存在だということを理解していただければ十分である。
また、よく知られているような大規模ショッピングモールや六本木などにある大規模開発型のオフィスビルなどは、SPCスキームを利用しながら資金調達を行っている。まさに、典型的なSPCの事例でもある。これからショッピングに出かける機会があった時には、そのモールやビルがどのような資金調達手法を選択したかに思いを馳せてはいかがだろうか。(提供:THE OWNER)
文・風間啓哉(公認会計士・税理士)