75歳以上の後期高齢者の医療費負担について課題となっていましたが、2020年12月、年金収入200万円以上は2割負担にすることが与党内で合意されました。法案、実施時期は2022年後半の見込みですが、概要とその影響について整理・解説します。

後期高齢者医療制度の現況と医療制度全体との関係

75歳以上,医療費2割負担
(画像=khunatorn/stock.adobe.com)

厚生労働省が発表した「令和元年度 医療費の動向」によると、2019年の日本の医療費総額は43.6兆円でした。その内の17兆円が75歳以上の高齢者にかかる医療費で、総医療費に対する比率は39.0%になっています。総務省が発表した「人口推計 2019 年(令和元年)10 月1日現在」によると、2019年の75歳以上の人口構成比は14.7%であるため、人口構成比の倍以上の医療費が75歳以上の高齢者にかかっていることになります。

2022年は団塊世代が75歳後期高齢者になり始める時期であり、後期高齢者医療制度と医療制度全体の関係を最初に見てみましょう。

医療制度全体の状況と課題

日本は世界に誇る国民皆保険制度を確立していますが、それは「協会けんぽ(元の政府管掌健保)」「健保組合」「国民健康保健」「共済組合等」の4つの保険者と、「後期高齢者医療制度」を含めた5つの枠組みで構成されています。

最大の問題は、4つの保険者から後期高齢者医療制度への支援金が多額であり、かつ年々支援額が増えていくことにあります。厚生労働省が発表した「後期高齢者の窓口負担割合の在り方についての参考資料」によると、2008年の4.09兆円の支援額が2020年には6.84兆円に膨れ上がっています。

今後も高齢者の医療費の増加とともに後期高齢者医療制度への支援金は増大することが予想され、若い世代の保険料負担の増大につながるため、制度の是正が必要との背景があります。こうした背景がある中で、厚生労働省の同資料によると、後期高齢者医療制度への支援額は2022年には7.2兆円、2025年には8.2兆円に膨らむことが見込まれており、この是正は喫緊の課題と言える状況です。

後期高齢者医療制度の現況

75歳以上の後期高齢者医療制度は、保険料と自己負担が少ない中での運営が前提であるため、もともと他の4保険者からの支援を受けることで設計されていました。しかし、現役世代の人口構成が減る一方で、75歳以上高齢者の全体での構成比は増え、さらに医療費が想定を超えて増えた結果、支援額の増大が大きな問題となってきました。

現在の後期高齢者医療制度の窓口負担は、1割負担が約1,685万人の約93%に対して、現役並みの所得高齢者の3割負担は約130万人の約7%です。1割負担の約1,700万人のうち、何割かに窓口負担の上積みを求めることが、解決策して具体化してきました。

では、問題の1割負担者の収入状況のグループ分けと合意した内容を見ていきましょう。

合意した75歳以上の年金収入

1割負担の高齢者は約1,685万人ですが、そのうちの低所得者を除いた約945万人のどこで線引きするかが検討課題でしたが、次の5段階の区分が設定されました。

検討案の年金収入額と対象人数

収入基準後期高齢者に
占める割合
対象者数
1本人収入240万円以上上位20%約200万人
2本人収入220万円以上上位25%約285万人
3本人収入200万円以上上位30%約370万人
4本人収入170万円以上上位38%約520万人
5本人収入155万円以上上位44%約605万人

資料:厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の在り方について」P4に基づき編集部作成

厚生労働省の5案の中で、支援金の減少効果がある程度見込める、本人収入170万円以上を2割負担とする方針で臨む、との政府の方針が出されていました。

これに対して連立与党の公明党は、240万円以上を2割負担の対象にするとの意見でしたが、最終的に菅首相と公明党の山口委員長の党首会談によって、中間の本人収入200万円以上で決定をみて、政府原案になりました。

それでは今回の合意はどのような意味をもつのでしょうか。

合意した年金収入額の意味

今回の本人収入200万円以上の370万人について本人負担を2割にすることによる財政効果は、2022年度においては合計で2,220億円ですが、問題の4保険者への支援金の削減は740億円とされています(内訳は協会健保250億円、健保組合250億円、共済組合等80億円、国民健康保険160億円)。

この額は、2022年度の4保健者から後期高齢者保健への支援金予定額7.2兆円の1.03%に過ぎず、現役世代の保健者団体から支援是正は、ほんのささやかな額に留まったと言えます。しかし、現役並み所得者の3割負担の施行(2006年)以来の負担率の改定であり、前進と受けとめる向きもあるようです。

合意案による高齢者、医療制度、その他の保険制度への影響

この合意案が実施された場合、高齢者、4つの保険者、医療機関にどのような影響が出てくるかを見てみましょう。

本人収入200万円以上の高齢者世帯に対する影響

現在、1割負担になっている200万円以上の収入の高齢者370万人の負担が2割になると、単純に考えると負担額は2倍になります。ただし、2018年の医療給付実態調査によると、1割負担者の外来負担額は年間4.6万円ですが、2割負担者は年間7.6万円になっており、年間負担額の差は3万円になっています。

入院受診の場合は、1割負担者の入院負担は年間3.5万円に対して3.9万円で、年間負担額の差は0.4万円で外来と比べて少なくなっています。外来・入院の合計では年間3.4万円の負担額の差(増)になります。

2割負担による負担増が起きるのは、ほとんど外来受診によるものであり、外来受診に際して急激な負担額の増加を抑える配慮措置が取られることが考えられています。

高齢者に対する影響を緩和する配慮措置

配慮措置の具体的な内容は、外来の2割負担になる人の負担額の増加分を最大月3,000円に収まるようにすることです。例えば5万円の医療費の場合は、従来は5,000円であったものが、2割負担になると1万円になるところを8,000円(5,000円+3,000円)に軽減するというものです。

この配慮措置をした後に、2割負担になる負担増分は年間2.6万円になるとされており、配慮措置前の3.4万円から年間8,000円減となっています。本人収入200万円世帯においては負担可能と判断したということでしょう。

1人当たりの窓口負担の変化を表で見てみましょう。

現行
(1割負担)
2割負担配慮措置後の
2割負担
外来4.6万円7.6万円
(+3.1万円)
6.8万円
(+2.2万円)
入院3.5万円3.9万円
(+0.4万)
3.9万円
(+0.4万)
8.1万円11.5万円
(+3.4万円)
10.7万円
(+2.6万円)

資料:厚労省「後期高齢者の窓口負担の在り方にについて」P8に基づき編集部作成

配慮措置の期間は施行後3年間で、該当者は外来患者の80%が該当するとされています。

保険者(組合健保、協会健保、共済等、国保)への影響

元々、今回の見直しは後期高齢者保健への支援の累増への対応が発端であり、2022年度において4保険者合計で740億円の負担増が配分されます。2025年には740億円が840億円に増えることが見込まれています。

しかし、実際には従来からの基準で2022年度は単年度で2,500億円の支援金が増える見込みになっており、その中から740億円が減るに過ぎません。“いくらかの歯止めがかかったというレベル”と言えるでしょう。

医療機関への影響

医療機関への影響としては、高齢者医療の1人あたりの月間受診日数を時系列で見てみると、介護保険導入前の1999年が5.8回だったものが、以後継続的に減少し、2019年では3.9回になっています。

その間に、現役並み所得者の3割負担、後期高齢者医療制度の施行や高額療養費の見直しなどの制度改革が行われた節目毎に、一人当たりの月間受診日数は減少しており、今回の負担増も同様な動きが見込まれる可能性も想定されます。

一人当たりの月間受診回数は減少しても、医療費の総額は増え続けており、医療機関の経営には影響はないと考えられています。

今後の施行の時期見通し

世代間の利益の相反は年金制度で大きな問題となっていますが、この健康保険の問題でも支援金という形で現役世代と高齢者世代の利益の相反がはっきりと見えてきています。現役世代を納得させられるような、この制度の背景、現況、方向性を丁寧に説明することが求められているのではないでしょうか。

今回の政府・与党合意案を元に法案が策定され、次期通常国会に提出されるとのことであり、2022年度後半に施行される見通しです。(提供:Incomepress


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