中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

中小企業の経営者であれば、家や土地などの不動産や、会社の設備・備品等の償却資産を所有していることが少なくない。これらに課税される固定資産税について、詳細を知らない経営者も多い。今回は、固定資産税の特徴や納付時期、固定資産税の計算方法などについて解説していく。

固定資産税とは

固定資産税
(画像=jo-panuwat-d/stock.adobe.com)

固定資産税とは、個人や法人が所有する一定の固定資産に対して、市町村など自治体が課税する地方税である。

毎年1月1日時点の固定資産所有者に対し、その時点における固定資産の評価額から計算した税額が通知される。固定資産の所有者を対象とした税金であるため、賃貸物件ではオーナー側に課税される。

課税対象となる固定資産とは

固定資産税の課税対象となる固定資産は、以下の3つに分類される。(地方税法第341条)

・土地
 田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、その他の土地

・家屋
 住家、店舗・工場(発電所・変電所含む)、倉庫、その他の建物

・償却資産
 土地、家屋以外の事業用資産

固定資産税の税率

固定資産税の税率は、標準税率で1.4%とされている。(地方税法第350条第1項)

「標準」税率であるため、固定資産税として1.4%を適用している自治体が多いが、これを超える税率を自治体が条例によって定めて適用することも可能である。

固定資産税は、標準税率を使って計算されているが、詳しい計算方法については、後述する「固定資産税の計算方法」をご覧いただきたい。

固定資産税が土地や家屋に課税されるしくみ

固定資産税の納税義務がある土地や家屋の所有者については、登記所から自治体に情報が通知されている。

そのため、土地を購入したり家を建てれば、固定資産の調査担当職員がやって来て、翌年から課税がスタートするしくみだ。

固定資産税と一緒に課税される「都市計画税」とは

都市計画税は、都市計画事業・土地区画整理事業のために、原則、都市計画法の市街化区域内にある土地や家屋に課税される税金である。

固定資産税とは別の税金であるが、固定資産税と一緒に徴収されるため、納税者側で申告や計算をすることはない。市街化区域に該当するか否かは、役所の都市計画課などに問い合わせるか、インターネット等で用途地域を調べることで概ね把握できる。

都市計画税の税率は最大0.3%であるため、固定資産税に比べるとほとんど気にならないかも知れない。

償却資産税が課税されるしくみ

償却資産税とは、固定資産における償却資産に課税される税金である。償却資産とは、土地と家屋を除く事業用資産のことで、減価償却をしている建物以外(※)の有形固定資産(構築物、機械装置、器具備品など)と概ね一致する。

ただし、自動車税の対象となる車両や少額な減価償却資産など、課税対象にならないものもある。

償却資産には登記制度がないため、自治体は、所有者から「償却資産申告書」を毎年提出してもらい、固定資産税(償却資産税)を計算している。

(※)建物附属設備については、償却資産の対象になる場合がある。

償却資産は毎年申告が必要

償却資産にかかる固定資産税を計算するには、その取得価額や耐用年数などが必要となる。

そのため、償却資産を所有する法人や個人事業主は、自治体が正しく納税額を計算できるよう、毎年1月1日時点で保有している償却資産の種類や数量、取得時期、取得価額、耐用年数といった必要事項を「償却資産申告書」に記載し、1月31日までに提出しなければならない。

固定資産税の納付時期

固定資産税の納税額は、自治体から固定資産の所有者に対して4月~6月頃に通知される。

固定資産税の納期限は4回に分かれており、各納期限は自治体によって異なる。例えば、東京都特別区は6月末、9月末、12月末、2月末の年4回に設定されている。

固定資産税の計算方法

固定資産税の額は、土地や家屋、償却資産それぞれの「固定資産税評価額」から自治体が決定した「課税標準」に、税率(標準税率1.4%)を乗じて計算する。

<固定資産税の計算式>
課税標準 × 1.4%

固定資産税の課税標準とは

固定資産税の課税標準とは、自治体の固定資産課税台帳に登録されている、固定資産の「価格」のことである。(地方税法第349条第1項、349条の2)

「価格」とは「適正な時価」のことであり、自治体は、国の基準に基づいて計算された「固定資産税評価額」から、その価格を決定している。(地方税法第341条第5号、403条第1項)

なお、償却資産は毎年評価額が変わるのに対して、土地と家屋の価格は基本的に3年に1度の見直しであり、2年間は据え置きである。

ただし、課税標準は、その固定資産の用途や取引相場の変動など、政策的な配慮が求められるケースに対して特例で減額されることがある。

例えば、住宅用の土地には次のような特例が適用される。

住宅用地の課税標準の特例

住宅用地は、課税標準の特例によって課税標準が大幅に減額されている。(地方税法第349条の3の2)

【住宅用地の課税標準の特例】

・200平方メートル以下の部分:課税標準を6分の1とする
・200平方メートルを超える部分:課税標準を3分の1とする

この特例は、住まいに関する負担を減らすための政策的な配慮で、住宅用地である限り適用される。

逆に近年問題となっている空き家については、2015年度税制改正によって、特定空き家等として勧告がなされた場合の敷地に関し、この特例の適用がなくなった。これもまた、空き家の放置を少しでも減らすための政策的な配慮となる。

なお、新築家屋のうち一定の基準を満たすものは、一定の間、固定資産税額が2分の1となる措置がある。やや細かい話であるが、これは課税標準の特例ではなく固定資産税そのものを減額するものであり、土地とは違い、家屋によって3年度分・5年度分・7年度分と、適用期限が定められている。

よく「家は5年経つと固定資産税が高くなる」といわれるが、この新築住宅に係る税金減額制度の適用期限が終了するためである。

固定資産税の負担をできるだけ安く抑える方法

ここでは固定資産税を少しでも抑える方法について紹介する。

免税点以下とする

固定資産には、以下のように免税点が設定されている。(地方税法第351条)

・土地:30万
・家屋:20万
・償却資産:150万

いずれも個々の資産ごとではなく、所有者ごとの判定となる。

土地や家屋は金額が低いため、なかなか免税とはいかないが、償却資産は業種によってはクリアできる可能性がある。償却資産を取得するときは、次項のルールをうまく活用していただきたい。

課税対象とならない償却資産の取得方法を活用する

償却資産には、課税の対象にならないものも意外とたくさんある。

<課税対象とならない償却資産>

・鉱業権、漁業権、特許権などの無形固定資産
・自動車税、軽自動車税の対象となる車両
・取得価額が10万円未満で一時に損金算入する資産
・取得価額が20万円未満で一括償却資産として処理する資産
・取得価額が20万円未満のリース資産
(地方税法第341条第4号、同法施行令第49条)

まず、10万円未満の資産で一時に損金に算入したものは、帳簿上は固定資産に計上する必要はなく、償却資産にも該当しない。ただし、通常の減価償却を敢えて行う場合は、償却資産となるので注意が必要である。

判断が分かれるのは、10万円以上20万円未満の固定資産である。

これについては、処理方法が3つに分かれる。

1 通常どおり、耐用年数で減価償却をする
2 一括償却資産として3年で均等償却する
3 30万円未満の減価償却資産の特例ですべて損金に算入する。(中小企業等に限る)

最も早く損金に算入できるのは、3の方法である。しかし2を選択すれば、償却資産に該当しなくなる。

償却には3年かかるが、トータルで経費になる額は、1~3のどれも同じであることを考えると、敢えて2で処理することも検討する価値がある。

固定資産を1月2日以降に取得する

土地・家屋・償却資産のいずれも、1月1日時点で所有する固定資産が課税対象となるため、年末に購入した償却資産は、翌年1月31日までに提出する償却資産申告書に含めなければならないし、当然、その年の課税対象になる。

しかし、1月2日以降に取得すれば、その年は課税されない。年明けの購入でも問題ない資産であれば、取得日を遅らせる検討をする価値がある。

固定資産税の減免措置を利用する

建物の耐震化やバリアフリー化などの改修等を行うと、固定資産税の減免が受けられる場合がある。例えば、東京都の場合、耐震化のための建て替えについて一定の要件を満たせば、3年度分の固定資産税・都市計画税が全額免除となる。

ただし、これらの減免措置は、自治体が自動的に適用してくれるものではなく、申請をしなければ受けられない点に注意が必要だ。

減免を受けるための申請手続きや期限は、建て替えや改修の内容はもちろん、自治体によっても違いがあるため、予定がある場合は早めに手続きを確認していただきたい。

新型コロナウイルスによる固定資産税の減免について

新型コロナウイルス感染症の影響で事業収入が一定以上減少した中小企業等は、事業用の家屋や償却資産にかかる「2021年度」の固定資産税の減免を申請することができる。

利用する場合は、認定支援機関等に減免制度の対象であることの確認を受け、2021年1月以降~1月末日までに、納税先に申告が必要となる。

【対象となる事業】
2020年2月~10月の任意の連続する3ヵ月間の事業収入の合計が、前年同期比で30%以上減少している事業者(※)

【減免割合】

収入の減少割合減免割合
30%以上50%未満2分の1減額
50%以上全額免除

(※)資本金の額又は出資金の額が1億円以下(資本金等の額がなければ常時使用する従業員が1,000人以下)の事業者。大企業の子会社等は除かれる。

(参考)中小企業庁HP

減額できそうかどうか確認してみよう

固定資産税の特徴や、対象資産、納付時期、計算方法、節税のコツなどについて解説した。

固定資産税は、自ら計算して申告する法人税や所得税に比べて印象が薄く、納期も分割されているため、毎年いくら払っているか知らない経営者も多い。

ぜひ、今回の記事を参考にしていただき、今年からは固定資産税の金額を見て、減額できそうなものがないか検討して欲しい。(提供:THE OWNER

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)