化粧品大手の資生堂が「TSUBAKI」などのパーソナルケア事業を売却するとの報道が、このほどあった。資生堂は、「決定した事実はない」と一度は反論したものの、その後、譲渡の決定について発表した。事業譲渡の決定の裏には、どういう背景があるのか。

パーソナルケア事業の売却を決定した資生堂

資生堂「TSUBAKI」売却は攻めの好手?看板商品の「TSUBAKI」を手放す理由
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最初にパーソナルケア事業の売却について報じたのは、米ブルームバーグ通信だ。2021年1月22日、「資生堂、TSUBAKIなどの日用品事業を1,500億円超で売却へ」とのタイトルで、投資ファンドに売却する方向で最終調整に入ったと伝えた。

資生堂は同日すぐ、決定の事実はないことをプレスリリースで明らかにしたが、その12日後の2月3日、CVC Capital Partnersが助言するファンド出資のOriental Beauty Holdingにパーソナルケア事業を譲渡することを決定したと発表した。

資生堂はパーソナルケア事業をOriental Beauty Holdingに売却後、同事業の運営会社に株主として参画し、対象事業を合弁事業化してさらなる成長と発展に協力していくという。

なぜ看板商品の「TSUBAKI」などを手放してしまうのか?

資生堂はパーソナルケア事業として、ドラッグストアや量販店で低価格帯のスキンケア商品やヘアケア商品、ボディケア商品を販売しており、「TSUBAKI」や「専科(SENKA)」もこの中に含まれる。

特に「TSUBAKI」は、資生堂の看板商品の1つだと言えるが、なぜこれらの看板商品を含むパーソナル事業の売却を決定したのだろうか。その理由は明快だ。資生堂はいま、「選択と集中」を進めているからだ。

資生堂は現在、プレミアム領域を中心とする「高付加価値スキンビューティーカンパニー」を目指し、高級化粧品などの高価格帯のブランドを強化する方針を掲げている。マス向けのドラッグストア事業や低価格帯のスキンケア製品などは、この方針と合致しない。

また、パーソナルケア事業の売却検討の背景には、ドラッグストア事業や低価格帯製品などは市場競争が非常に激しいこともある。そのため、資生堂としては、他社よりも競争力がある付加価値の高い高価格帯化粧品で勝負しようという狙いもあるわけだ。

ちなみに、資生堂が今回売却を決定したパーソナルケア事業の売上高は、同社全体の売上高においては9%(2019年度)にとどまり、高価格帯化粧品などのプレステージ事業の46%と比べると構成比がかなり低い。

コロナ禍による業績悪化で「選択と集中」が加速!?

高付加価値スキンビューティーカンパニーを目指す資生堂は、これまでも宿泊施設やフィットネスジム向けの業務用化粧品事業から撤退するなどしており、パーソナルケア事業の譲渡は既定路線であると言える。

ただし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で業績が急速に落ち込んでいることから、おそらく資生堂はパーソナルケア事業を早期に売却し、一刻も早く稼ぎ頭である高価格帯の商品に経営資源を集中させたい意向だったと考えられる。

資生堂が2020年11月に発表した2020年12月期第3四半期の連結業績(2020年1月1日~2020年9月30日)では、売上高が前年同期比22.8%減の6,536億7,500万円まで落ち込んだ。緊急事態宣言による小売店の臨時休業や時短営業などによって、来店客が減少したことが響いた。

営業利益と経常利益の落ち込みも顕著だ。営業利益は前年同期比91.4%減の89億600万円、経常利益は同94.5%減の55億6,800万円で、最終損益は前年同期の724億5,800万円の黒字から136億6,800万円の赤字に転落した。

今期の通期決算の見通しでは、赤字額が300億円まで膨らむと予想しており、急いで業績回復へのルートを設定したいところであろう。

プレステージ事業とEコマース事業の強化で資生堂が進化

資生堂は「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーへ」というキャッチフレーズを掲げ、2023年には現在の業績悪化から完全復活することを目指している。そしてその核になるのが前述の通り、付加価値の高い高価格帯化粧品を扱うプレステージ事業などだ。

特に、プレステージ事業は海外での事業拡大も大いに見込め、例えば今回のコロナ禍においては、中国市場で同事業が全体の売上高の回復を牽引している。さらに、資生堂はEコマース事業にも力を入れており、決算発表資料によれば、Eコマース部門は日本市場で2桁成長を維持している。

このような理由から、資生堂のパーソナルケア事業の譲渡を弱気な動きとみるのは誤りだ。資生堂は断固たる決意の下で選択と集中を進め、事業回復とさらなる成長を目指している。プレステージ事業とEコマース事業の強化で、これから資生堂がどのように進化していくのか注目だ。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)