本記事は、小島拓氏の著書『「タワマン」ブランドの崩壊: 価格暴落とゴーストタウン化が始まる!』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています

2019年ごろから聞こえていた「タワマン暴落」の噂

タワマン
(画像=PIXTA)

2019年までの不動産業界は、東京オリンピックへの期待感から、バブル期並みの好況に沸いていました。少なくとも東京オリンピックが開催される2020年の7月まではこのブームは過熱していく──そんなふうに考えていた人も多いかもしれません。

そうした楽観論を打ち砕いたのは、新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大と、これに伴う社会活動の停滞ですが、それ以前から不動産バブル崩壊の予兆は指摘されていました。

実は2019年から既に、マンション販売の現場で働く営業マンから、都心部のマンションの一部で販売価格と成約価格の乖離幅が広がってきているという話が出始めていました。具体的には1億円で販売されているタワーマンションの実際の成約価格は8000万円だったというようなケースです。

ここ数年は不動産相場が勢いよく上昇していたため、多少高値をつけても成約できていましたが、2019年ごろから、売り主の希望価格では売れなくなっており、成約価格との差が徐々に広がっていったのです。

興味を持たれた方は、不動産情報サイトで「中古タワーマンション」と検索してみてください。それこそ数えきれないほどの売り物件があることに気付くはずです。タワーマンションによっては1棟のうち複数戸が売り出されている物件もあります。

私がこうした話をすると「それは首都圏郊外や地方の話ではないか?」と言う方もいますが、東京23区、とくに湾岸エリアに多いのです。湾岸エリアを具体的に言えば、中央区月島・勝どき、江東区豊洲・東雲・有明、港区台場などのエリアを指します。もとはと言えば埋め立て地で、十数年前までは工場や倉庫が多い地域でしたが、都市開発により街が大きく様変わりしました。

恵比寿、目黒、六本木、赤坂などと比べると人気が落ちますが、オフィスへのアクセスが良いため価格が上がってきた地域です。こうした地域では物件価格が既にピークを越えて、下降局面に入った可能性があるのです。

こうした状況には、2019年10月の消費税改正の影響もあります。税率8%から10%へと上がるにあたり、増税時には経過措置として半年前までに契約すれば、実際の引き渡しがそれ以降でも増税前の税率が適用されるということで、2019年3月末までに駆け込み需要がピークを迎えていたのです。

振り返れば2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられた際にも、住宅マーケットは大きく冷え込みました。

消費税改正による影響はタワーマンションに限った話ではありませんが、2019年から起こっている「中古タワーマンションが希望した販売価格で売れない。売るのに時間がかかる」といった理由のひとつであると考えられます。

そして、2020年の東京オリンピック・パラリンピック前後が、最後の「売り時」と言われていましたが、新型コロナウイルスによる開催延期が決定。タワマン暴落のシナリオがますます現実味を帯びてきました。

「爆買い」した中国人投資家が手放し始めている

ひところ騒がれていた中国人投資家が都心部のタワマン上層階を買い占める「タワマン投資ブーム」は既に終焉を迎えています。

そもそも、なぜ中国人が日本の不動産を買うのかと言えば、それは中国人が中国国内で不動産を資産として保有できないことが背景にあるからです。日本には外資による不動産取得の規制がないため、日本人が購入する場合とそれほど変わらず、簡単に不動産を購入できます。

さて、中国人投資家の間で東京の不動産人気が高まり、不動産の「爆買い」が始まったのは2012年ごろ。そして2013年に東京オリンピック・パラリンピックが決定すると、物件の値上がりを見据え、さらにタワマン投資ブームに火が付きました。

しかし新型コロナウイルスの影響を受けて、東京オリンピックは2021年に延期となりました。

加えて、日本では個人で購入した不動産の売却益に対して譲渡税が発生します。購入から5年以内にタワーマンションを売却して利益を得た場合は「短期譲渡所得」として税率が約40%かかります。5年以上所有した不動産を売却すれば「長期譲渡所得」として税率が約20%に下がるため、不動産の爆買いブームから5年以上が経過したことで、売却する動きが出ているのです。

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(画像=『「タワマン」ブランドの崩壊: 価格暴落とゴーストタウン化が始まる!』より)

中国の投資家たちが爆買いした東京の不動産を売却する理由には、譲渡税の税率に加えて、一時に比べて円高が進んだことがあります。また、少子高齢化による賃貸ニーズの減少、2018年に法整備された民泊に対する規制の厳しさなども、見切りをつけるきっかけになったようです。

このように中国人投資家にとって、タワーマンション投資は既に「終わったもの」になっており、むしろ売却のステージに入っています。

なお、世界で最初に新型コロナの感染が発生して拡大した反面、経済活動の再開も早かった彼ら中国人たちは、現在、タワマンを「卒業」して、新たに日本の観光地などの温泉街にある旅館・ホテルに目を向けています。

旅館を営業するための許認可や企業の代表者が取得できる「経営管理」ビザの獲得につながるのも買収の魅力となり、とくに価格が下がっている箱根や伊豆、熱海、富士山周辺に立地する和風旅館へ人気が集まっていると報じられています。

いずれにしても、不動産価格は需給が原因で大きく変化します。中国人投資家の所有するタワーマンションは上層階が多く、本来であれば価格の高い上層階が投げ売りされるようなことがあれば、そのマンション全体の相場が下がりかねません。

「タワマン」ブランドの崩壊: 価格暴落とゴーストタウン化が始まる!
小島拓(こじま・たく)
1983年、東京都生まれ、埼玉県出身。大学卒業後、不動産投資会社勤務を経て、2012年に独立し起業。悪意ある業者や無知な個人投資家によって不動産投資が不正のオンパレードになり業界全体のイメージが悪化していることに問題意識を感じ、著書やウェブによって舌鋒鋭い情報発信を行っている。著書に『不動産会社が書けない「有名大家」の裏話』『融資地獄』(いずれも幻冬舎)。近年はタワーマンションオーナーの多くが物件購入後に後悔している現状を憂い、豊富な物件取引実績に基づいた知見から、購入していい物件の見分け方や賃貸経営のコツ、今後の市場推測を踏まえた売り抜けのノウハウを指南している。
著者への問い合わせ先 kojimansion@gmail.com

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