本記事は、小島拓氏の著書『「タワマン」ブランドの崩壊: 価格暴落とゴーストタウン化が始まる!』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています

【業界の闇】新型コロナウイルスが不動産業界に与えた影響

コロナ,経済
(画像=PIXTA)

新型コロナウイルスによって、不動産業界にはどのような影響が出たのでしょうか。よく言われているのが「土地の価格については地方は下がっているが、都心部は下がっていない」ということです。

また、賃貸物件では、「オフィスや店舗などテナントには影響が出ているが、レジデンス(住居系)には影響は出ていない」とも言われています。

飲食店を中心とするテナント契約については、基本的に退去する半年前に通知を出さなければなりません。緊急事態宣言の発令した春から夏にかけて撤退・廃業を決めていれば、2020年10月以降が閉店時期になります。

したがって店舗、あるいはインバウンドを客層とする企業のオフィス物件に投資をしていた人へのダメージが本格化するのは、これからだと思います。

また、不動産仲介会社に賃料の減額を交渉するテナントや企業も増えていると聞きます。「コロナショックによって下がった収益に見合う賃料ではない」というわけですが、今後はその交渉に応じなければならないビルオーナーも増えてくるのではないでしょうか。

また事業者に対して公的資金を投入した、給付金や補助金も増えていますが、手続きの煩雑さやスピードの遅さも指摘されています。

とくに問題とされているのは、オフィスや店舗を借りている人たちに支給される「家賃支援給付金」で、実施直後は「手続きが難しくてもらえない(受理されない)」「手続き書類を何度送っても不備があるようで返される」といった声をよく耳にしました。

この状況が長く続けば、大規模なオフィスや商業地の店舗だけでなく、小規模オフィスの不動産市場も大きなダメージを受けることになるでしょう。

かねてからテレワークの促進による都心のオフィスビルのニーズ減少が懸念されていますが、問題はそれだけではないということです。

それと同時に、大きなオフィスがなくても業務に支障が出ないことがわかった企業は多くあります。在宅をベースにサテライトオフィスを設ける企業が増えると私は予想しています。

●インバウンドニーズ減少による大手民泊運営会社の破綻

最近、関西にある大手民泊運営会社の事実上の事業停止が問題視されています。この会社は約600戸の物件を取り扱っており、民泊業者の最大手と言われていました。「節税商品」を謳い文句にして医師や経営者などに営業し、300万〜500万円程度で民泊物件を売っていたようです。

購入している人は富裕層が多く、物件価格も高くないのでスルガショックのような騒ぎにはなっていませんが、同社が破綻したことで被害者の会もできています。

この業者が取り扱っていたのは大阪市内の民泊です。この地域は特区民泊(正式名称、国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)となり、東京をはじめとする観光地で取得する旅館業の営業許可に比べて、認定制ということもありハードルが低いため、関西のインバウンド需要に応える形で、この数年で物件数を伸ばしました。

民泊といっても、まともな事業や投資としてではなく、マンション投資のように節税商品という売り方をされていたのが今回のケースです。かつて法人向けの保険で、「全損」といって全額損金扱いできる商品がありました。この民泊も同様で、保険のように現金で購入し、経費として年で割ることもできるし一括償却もできるため、利益を得ることよりも節税対策できるメリットが強調されていました。

しかし、内情をいえば“ぼったくり”です。例えば、相場5万円のマンションを転貸業者がオーナーから6万円で借りて、それをまた民泊業者が10万円で借りて、そこから個人に民泊として貸すというイメージです。100万円で民泊に仕上げている物件を300万円で販売するようなものです。

ただ、オーナー側も投資目的ではなく節税目的なので、事業の収支にはあまり関心がなく、価格がどこまで水増しされているかわかっていません。単純に「経費化できたうえで、利益が入ってラッキー」と思っているケースが大半です。そのため、民泊運営会社としては、エンド客(個人投資家)に出す金額から逆算して商品をつくればいいのです。

その最大手が事実上の事業停止に陥りました。もともと大阪の特区民泊は規制が緩すぎて供給過多になっており、あまり人気がなく一般人が買わないエリアが残っていました。ホテルの条例が厳しい東京と違って物件を次々と建てることができましたし、既存のオーナーたちから借り上げることもできたので、供給過剰になってしまったのです。

ただ、以前は中国人や韓国人を筆頭に外国人が訪日していたので、豊富な民泊需要もありました。しかし、2019年あたりから韓国との関係に亀裂が入り、2020年になって新型コロナウイルスの影響を受けて外国人訪日客の動きが止まりました。もともと関西空港はアジアからの人の出入りが多かったので、とくにダメージは大きかったといえます。

●投資用新築マンションのデベロッパーの高額買収から想定される終わりの始まり

ここでは不動産業界に対する新型コロナウイルスの影響や、最近の市況をお伝えしていますが、最後に紹介するのは投資用新築マンション業界の今後の動きです。

テレビCMでよく見かける、ある大手アパートメーカーがあります。

この会社が最近、投資用新築マンションのデベロッパーを買収しました。おそらく今後はこの大手アパートメーカーも新築ワンルームの世界に入ってくると思われます。

一般に投資用不動産業界のオーナー社長は、物件を販売する圧倒的な営業力のみを武器に成功を収めた方々が、それなりの数いらっしゃいます。大きな社会貢献などの野心はない方が大半で、かつ流行りのSNSマーケティングは効果の薄い業界のため、それらの方々の名前はあまり世間的に出ません(飲み屋街などではけっこう有名人だったりする人が多いです)。そんな方々が自分の会社を、巨大な組織に、それなりの金額で売却できるとすれば夢があり、この流れは業界で流行っていくと予想しています。

執筆時点ではオフィシャルではありませんが、他にも、同じくテレビCMで見かける会社も、投資用新築マンションのデベロッパーを買収する計画だと聞きますし、この流れは加速しそうです。

しかしながら、投資用新築マンション業界は特異な世界であり、いわゆるこの世界のビジネスノウハウは、業界に新人営業マンとして入社して叩き上げ、自分で会社を興した人間にしか根本的には知りえないものです。

したがって、売却に成功したオーナー社長は多額のキャッシュを手にアーリーリタイアできるものの、経営者を失いノウハウのなくなった箱(会社)を手にした買収企業側は、失敗するか、得意先になるサラリーマン大家をさらなる窮地に追い込む結果になる──そんな未来が見えます。

オーナー社長のバイアウトが流行し、叩き上げの経営者を失い、大手、中堅の不動産会社にぶら下がるだけの投資用新築マンションデベロッパーが増えると、投資用不動産業界もいよいよ衰退に向かうかもしれません。

私がこういった話をするのも、業界を少しでも良くしたいという信念や思いがあるからです。

買収をした企業様や今後検討している企業様は個人的にご連絡いただければ喜んでご相談に応じさせていただきます。

「タワマン」ブランドの崩壊: 価格暴落とゴーストタウン化が始まる!
小島拓(こじま・たく)
1983年、東京都生まれ、埼玉県出身。大学卒業後、不動産投資会社勤務を経て、2012年に独立し起業。悪意ある業者や無知な個人投資家によって不動産投資が不正のオンパレードになり業界全体のイメージが悪化していることに問題意識を感じ、著書やウェブによって舌鋒鋭い情報発信を行っている。著書に『不動産会社が書けない「有名大家」の裏話』『融資地獄』(いずれも幻冬舎)。近年はタワーマンションオーナーの多くが物件購入後に後悔している現状を憂い、豊富な物件取引実績に基づいた知見から、購入していい物件の見分け方や賃貸経営のコツ、今後の市場推測を踏まえた売り抜けのノウハウを指南している。
著者への問い合わせ先 kojimansion@gmail.com

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