本記事は、小島拓氏の著書『「タワマン」ブランドの崩壊: 価格暴落とゴーストタウン化が始まる!』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています
(ケース1)所有するタワマンが天災被害で悲惨な状況へ
Aさんは40代前半で大手総合商社に勤めており、同年代の奥様は元CAで現在はSNSを使ったオンラインマナー教室を開催して、ちょっとした小遣い稼ぎをしているそうです。世帯年収は1800万円少しで、ご夫婦に子どもはないため趣味にもお金を使う余裕のある暮らしを送っていました。
「マイホームとして、近年の再開発で人気の集まっていた地域のタワーマンションを購入したのは今から5年ほど前です。高額でしたが、私の年収であれば十分支払えるため、躊躇なく高層階の購入を決めました。建物は新しく豪華で朝のエレベーター渋滞には辟易したものの、総じて不満もなく暮らしていました」と、Aさん。
状況が一変したのは、突如として襲ってきたある天災です。Aさんの住む地域では住宅半壊や床上浸水、床下浸水という大きな被害が出ました。
「あとから聞いたのですが、この天災によって近辺の川の水位は過去最高を更新し、浸水の深さは最大1.3mに達したそうです。私の住むタワーマンションでは地下の電気系統の設備への浸水で停電と断水が発生して、トイレもエレベーターも使えなくなりました」
とAさんは続けます。とても住める状況ではないため、急遽、近隣の県にあるAさんの奥様の実家に避難。そこからの通勤を余儀なくされたそう。
「40階以上を階段で移動するというのは想像を絶することです。妻はもう2度とタワーマンションには住みたくないと言っており、現在は別の賃貸マンションに住んでいます。保有するタワーマンションは一刻も早く売りたいと思っているのですが、なかなか売れません。そうこうしているうちにコロナ禍となり、この先どうなるのか……途方に暮れています」
Aさんのマンションの場合、浸水被害のニュースが広く報道されてしまったことが価格暴落の懸念材料になっています。
(ケース2)タワマンの住環境の悪さでコロナ離婚に発展
夫婦ともに外資系IT企業で働く、30代半ばのBさん夫婦。世帯年収は2000万円を超えています。3年前、お子さんを授かったタイミングで出勤の利便を考えて都市部にタワーマンションを購入しました。共働きながら、保育園の送迎は夫婦で、ときにヘルパーさんの協力を得て、忙しいながらも充実した生活を送っていました。
「新型コロナウイルスの影響で夫婦ともに在宅ワークに切り替わったのですが、そもそも部屋がそこまで広くないため、私が寝室、夫がリビングといった生活スペースで仕事をしなくてはいけません。保育園にはできるだけ預けていましたが、保育士さんが新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者となったということで、園が一時期閉鎖していました」
とBさんの奥様。ただでさえ狭い居室に閉じこもることで、ストレスは蓄積していきます。さらに、お互いに気を使いながらの仕事をしている中、分別のつかない幼児がいれば、とても仕事になりません。
「どちらかにオンラインミーティングが入れば、手が空いているほうが子どもの世話をするという約束をしたのですが、夫は『俺は忙しい』と自分の都合ばかりを優先するのです。家事についても、通勤をしているときは私のほうが早く帰れることが多かったので、夕食は私がつくるという役割分担をしていましたが、どちらも家にいるならば、分担を半々にしたいと考えました。それを提案したら、夫が本気で怒りだしました」
と奥様は続けます。これまでは忙しさゆえにお互いを気遣い、フォローできていたところが、タワーマンションでの自粛生活から夫婦喧嘩が頻発するようになりました。
「夫の態度には腹が立ちますが、タワーマンションという住環境もイヤになりました。子どもを外遊びに連れていくために準備をして靴を履かせて1階に降りていくだけでも15分以上かかります。とくにエレベーターが混雑しており、密を避けたいのであれば階段を使うしかありません。
日中の長時間を家で過ごすようになって、タワマンは小さな子どもには不向きということを実感しました。ドアを開けたらすぐに外に出られるということが、本来なら当たり前の自然な暮らしだと思います」
こうした生活が夫婦のすれ違いの原因となり、コロナ離婚の危機に瀕しています。なお、このタワーマンションは夫婦の共有名義で購入したため、離婚に際してのネックにもなりえます。
というのも、離婚のほとんどが話し合いによる「協議離婚」となり、「子供の親権や養育費」「慰謝料の金額」「財産分与」などを協議することになります。「養育費」は子どもを育てるための費用、「慰謝料」は浮気などの有責行為をした側が配偶者に支払う損害賠償。「財産分与」は、離婚原因に関係なく結婚後につくった財産を公平に夫婦で分けます。
この財産分与の対象にはもちろん不動産も含まれます。離婚の際に一番もめるのが家を売却する場合で、共有名義の不動産は夫婦両方の承諾がないと売却することができません。
「私はタワーマンションを売却してすっきりと別れたいという気持ちです。しかし、夫は離婚にはしぶしぶ同意したものの、タワーマンションの売却には反対しています」
と奥様。Bさん夫妻のケースでは、売却したい奥様と、住み続けたい夫で意見が食い違い、話し合いは平行線をたどっています。
このようなトラブルは共働き世帯が一般化したことから増えています。夫婦合算の世帯年収で融資を通してマイホームを購入している人も多いからです。とくにタワーマンションは価格が高いので、夫婦でローンを組まないと希望する物件が買えないケースもあるでしょう。
とはいえ、共有名義で家を買ってしまうと、もし離婚することになった場合にトラブルに発展しやすいのです。「共有」というと「半分ずつ持っている」と誤解され、離婚して別れるなら「半分こ」して清算すればいいだけ、と安易に考えがちです。
しかし、共有は、「半分ずつ持っている」わけではなく、「自宅のトイレを家族で一緒に使っている」のと同様、「仲が良く、話も言葉も情緒も通じる相手と、一緒に持って、一緒に使っている」というイメージです。
「共有」とは要するに「仲良く一緒に暮らしている」という前提であれば機能する状態です。
ところが、この前提が崩れ、「両者が憎み合っていて、一方は使い続けるが、他方はとっとと金に変えたい」という場合、「共有」の解消をめぐって意見の隔たりが顕著になり、泥沼の戦いになりがちです。この事例のように夫は住み続けたいが、妻は売りたい(その逆もあり)という状況になる場合です。とはいえ、ひとりでローンを払うのは難しいですし、そこに養育費も加わったらなおさら調整は不可能となり、泥沼紛争が長期化します。
また、当然ですが離婚は市況に関係なく決断されます。つまり、タイミングを見ずに売らなければならず、最悪のケースとして借金だけが残って離婚した場合、離婚後もふたりで借金返済を行うハメになってしまう恐れもあります。これはタワマンに限った話ではありませんが、高額なマイホームはその分ローンの負担も大きいので、不幸に転落するリスクもその分大きいと考えるべきです。
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