本記事は、小島拓氏の著書『「タワマン」ブランドの崩壊: 価格暴落とゴーストタウン化が始まる!』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています
新型コロナ感染拡大による経済ショック
帝国データバンクの2020年6月報によれば、倒産件数は806件で2ヵ月ぶりの前年同月比増加、同年最多となりました。負債総額は1264億3800万円で、こちらも2ヵ月ぶりの前年同月比増加です。
負債トップは、旅行業者としては過去最大の倒産となったホワイト・ベアーファミリー(大阪府、民事再生)の負債額約278億円。新型コロナウイルス関連倒産で負債額トップのてるみくらぶを超えて旅行業者で過去最大の倒産です(6月末時点)。
その他、飲食業や旅館業、アパレルなどダメージを受けている業種は多く、とくに大手飲食チェーンなどが店舗の大量閉店を決定したり、倒産や廃業に追い込まれる中小の飲食事業者が続出するなど、深刻な影響が表面化しています。
6月の発表後も倒産件数は増え続け、10月末の段階でようやく天井が見えたか、というところです。
同じく帝国データバンクによる「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」(2020年6月)をご紹介します。調査期間は2020年6月17日〜30日、調査対象は全国2万3681社で、有効回答企業数は1万1275社(回答率47.6%)。なお、新型コロナウイルス感染症に関する調査は、2020年2月から毎月実施され、これは5回目の調査となります。
新型コロナウイルス感染症により自社の業績にどのような影響があるか尋ねたところ、「マイナスの影響がある」(「既にマイナスの影響がある」と「今後マイナスの影響がある」の合計)と見込む企業は84.5%となり、5月(86.1%)から1.6ポイント減となり、2ヵ月連続で減少しています。
内訳を見ると「既にマイナスの影響がある」が66.6%(2020年5月、62.8%)となり、5月に引き続き6割超で過去最高を更新。一方で、「今後マイナスの影響がある」が17.9%(同23.3%)で5月より5.4ポイントの減少が見られ、先行きに対する不透明感がやや和らいだ様子がうかがえます。
他方、「影響はない」とする企業は8.2%(同6.5%)だったほか、「プラスの影響がある」(「既にプラスの影響がある」と「今後プラスの影響がある」の合計)と見込む企業は3.0%(同2.8%)となり、わずかながらも増加傾向にあります。
「マイナスの影響がある」と見込む企業を業界別に見ると、「運輸・倉庫」が90.6%でトップとなり、他業界と比較して高水準での推移が続いています。以下、「製造」(87.0%)、「卸売」(86.3%)、「不動産」(86.2%)、「農・林・水産」(85.5%)が続いています。とくに、「運輸・倉庫」や「不動産」などの業界では、既に7割超の企業でマイナスの影響を受けているのです。
企業からも「無利子の借り入れは出来たが、荷主からの輸送量が増えないと厳しい状況は続く」(一般貨物自動車運送、山形県)や「これまでに経験のない売り上げ・利益の減少を受けており、最低でも今後1年間は、もとに戻らないことを覚悟している」(水産練製品製造、北海道)といった声があげられています。
こうした新型コロナウイルスによる影響は、日本だけではありません。これから、世界的な不況がやってくると言われています。
世界銀行より発表された「世界経済見通し(GEP)2020年6月版」によると、2020年の世界経済成長率は5.2%減になるとの予測を公表しました。これは第2次世界大戦以来最悪の景気後退であり、1870年以降、もっとも多くの国で1人当たり生産量が減少することになります。
先進国では、国内の需給、貿易、金融が大きく混乱したことにより、2020年の経済活動は7%縮小すると見られています。新興国・途上国でも、経済活動は2.5%縮小する見込みとなり、新興国・途上国の経済成長率が低下するのは、少なくとも過去60年間では初となります。国民1人当たり所得は3.6%減少し、2020年に数百万人が極度の貧困に陥ると見られています。
もっとも深刻な打撃を受けるのは、新型コロナウイルス感染症の被害が大きかった国、そして国際貿易や観光、一次産品輸出、国外からの資金調達への依存度が高い国です。
混乱の程度は地域によって異なりますが、すべての新興国・途上国で外的ショックに対する脆弱性が高まると見られています。また、学校教育やプライマリ・ヘルスケアへのアクセスが一時的に絶たれることで、人的資本の発展にも長期にわたる影響が生じる可能性が高いと言われています。
つまり、私たちはこれまで経験したことのない規模での不況に見舞われる可能性があります。これからまた多くの企業の倒産、リストラや減給などが起こり、ことの重大性を理解していくことになるでしょう。
2020年度の冬は、街に失業者が目立ち始め、次年度の大学生の就職活動が氷河期並みに厳しくなることが予測されます。
不動産業界にも大きな影響が
資産家・富裕層が多い不動産オーナー・不動産投資家への影響はどうでしょうか。
新型コロナウイルス蔓延に伴う緊急事態宣言下の外出自粛要請などにより、売り上げ低迷に苦しむテナントが続出しました。その結果、家賃の減額請求や家賃滞納が増えており、テナントオーナーは「家賃を下げなければ撤退され、下げれば収入が減ってしまう」「家賃滞納されてローンが払えない」という苦境に立たされています。
政府はテナントに対する「家賃支援給付金」を行っていますが、オーナーに対する支援は薄く、不動産取得時の債務を抱えるオーナーの多くが不安に陥っているのです。
この事業用不動産から顕在化した家賃支払いへの影響は、アパート・マンションなどの住居用不動産の賃貸物件にも広がってきています。勤め先の業績不振による減収や失職を理由とした家賃滞納は、今後まだまだ増えていくことが予想されます。
政府は「住居確保給付金」などをはじめ、生活困窮者に対する家賃補助を打ち出していますが、それだけで滞納や貸し倒れが防ぎきれる状況ではないでしょう。こうなると、テナントビル同様に賃貸不動産のオーナーが苦境に立たされます。
さらに、家賃保証会社の倒産も危ぶまれます。2008年、リーマンショックの影響を受けて、業界最大手の家賃保証会社リプラスが約325億円の負債を抱えて倒産しました。このような状況が起きないとは言えなくなってきています。
また、今後はリモートワーク(テレワーク)の広がりによって、オフィス需要の減少が予測されます。
日本総合研究所が2020年5月に発表した新型コロナに関連したレポートによれば、「近年、増加基調にあったオフィス需要は、新型コロナの影響で今後、大幅に下振れる見込み」とされています。その要因としては「固定費削減のための事業所縮小など、景気の急速な悪化に連動した循環的な需要の減少」に加えて「新型コロナの流行で急拡大しているテレワークもオフィス需要を押し下げ」るとされています。
これまでは企業内の制度の未整備などを理由にテレワークの利用が進まなかったものの、外出自粛要請を受けて企業が環境整備を進めた結果、テレワーカーが急増しているということです。
「実際、東京都を対象にした調査では、2020年4月のテレワーク実施率は5割程度と、新型コロナ流行前と比べて急上昇。今後も、企業が働き方改革を一層推進していくなかで、新型コロナの収束後もテレワークは定着していく公算大」とも報告されています。
「テレワークが定着すれば、その分のオフィススペースが不要に。仮に、全就業者の1割がテレワークを続けた場合、オフィス空室率は15%近くまで上昇する見込み。これによってオフィス賃料も2割下がり、リーマンショック後の水準まで落ち込む可能性がある」と言われています。つまり、新型コロナウイルス問題が収束しても、オフィスがコロナ以前の状況に戻ることはないということです。
もちろん、影響を受けるのは不動産オーナー・不動産投資家などを含む不動産業界だけではありません。
IT化、デジタル化で他国に後れを取っている日本は、それを取り戻す機会にもなっています。リモートワークが拡大すれば、人の移動を減らすことにもつながります。通勤や出張が減ることで、鉄道、バス、航空機などの公共交通機関、タクシーの利用が減り、それらのビジネスは縮小していくとも予測されます。
こうした問題をタワーマンションの所有者に置き換えてみれば、一部上場企業や外資系企業など、高報酬を得られる職種であっても影響を受ける可能性があり、今の生活レベルが維持できるとは限りません。
そうなるとタワマン所有者にも影響があるでしょう。マイホームとして住んでいるとなれば、住宅ローンは破綻。投資家であれば、入居者の退去や家賃滞納の懸念など、対岸の火事だと言える状況では決してないのです。
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