本記事は、太田久也氏の著書『事業承継の羅針盤 あの優良企業はなぜ対策を誤ったのか?』(サンライズパブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
兄弟ゲンカにより社長解任
創業百年を超える老舗の優良企業で先般オーナーがお亡くなりになられた。
オーナーは社長職を15年前に長男に譲り、自分は相談役として第一線からは完全に退いていた。
長男は社長として非常に優秀で、社長になった15年の間に、売上、利益とも15年前とは比べものにならないほどに成長させて、借入金も全額返済し無借金経営となり、老舗企業から、老舗の超優良企業に会社を変貌させた。
社長交代は15年前に終わっており、会社の業績も絶好調だったので、オーナーの死去による会社への影響はほぼないであろうと思われていた。
ところがである。
臨時株主総会が開かれ突然社長が解任されてしまった。
いったい何が起こったのか?
オーナーには社長である長男をはじめ、全部で三人の息子がいた。
会社の株のほとんどはオーナーが持っていたが、遺言書もなかったため、株は法定相続どおり、子供三人に平等に相続された。
この15年の間に、会社は知る人ぞ知る会社から、誰もが知る立派で有名な会社に成長していたため、次男、三男は長男である社長に、会社でのそれなりの役職と報酬を要求してきた。
15年前には見向きもしなかった次男、三男が株を相続したことで、突然態度を急変させ、理不尽な要求をしてきたことに腹が立ち、長男は次男、三男の要求を完全に突っぱねた。
会社の株は相続により、長男が三割ちょっと、残りの七割弱は次男、三男が持っている。
次男、三男は株の力でもって臨時株主総会を開催し、長男である社長を解任した。
法律どおりである。
会社の成長も衰退も社長次第、とのごとく社長解任からほどなくして、会社の営業はストップしてしまった。
事業承継においてはもちろんであるが、そもそもの会社運営、会社存続のために、株式会社の根本原則である『会社は誰のものか』ということを痛烈に感じさせる事例である。
【サポート解説】二つのイスを引き継ぐ
よきにはからえ。
その結末は、兄弟ゲンカからの社長解任、いわゆるお家騒動であり、会社の衰退につながります。
子供をもめさせたい、会社を衰退させたい、と思っているオーナー様など一人もいません。
しかし、子供をもめさせ、会社を衰退させたのは、よきにはからえで何もしなかったことが原因です。
事業承継対策は個人の相続問題にとどまらず、会社の存続問題に直結します。
会社を継がせるのであれば、事業承継対策は自分が元気なうちに行っておかなければなりません。会社は社長のものではなく、法律的には株主のものです。
したがって、後継者には社長を継ぐだけでなく、支配権も引き継がなければなりません。