本記事は、太田久也氏の著書『事業承継の羅針盤 あの優良企業はなぜ対策を誤ったのか?』(サンライズパブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
株主総会で起こった会社乗っ取り
創業70年を超える優良未上場企業で、毎年恒例の株主総会が開催された。
今年もいつもと同じように社長から決算内容の説明があり、今回も平穏無事に終了するかと思いきや、突然株主が手を挙げ、緊急動議が提出された。
動議の内容は
『社長を取締役として再任せず、別の候補者を取締役として選任する』というものであった。
社長としても突然のことで対応の仕方もわからず、株主の言うままに総会が進行され、株主の提案内容がそのまま承認されてしまった。
社長としても突然のことでわけがわからなかったが、何を言ったところで後の祭りである。
株主総会の進行には何の違法性もなく、法律どおりに手続きは進められた。
社長は事実上の解任、つまり、会社を追い出され、乗っ取られたのである。
後でわかったことだが、すべて裏で仕組まれたものであった。
何でこんなことが起こったのか?
社長は五代目であり、創業者の直系である。
会社の業績は創業以来素晴らしく、財務内容も健全で、自己資本も超優良の会社であった。
その結果、株価が高く、相続の都度、多額の相続税がかかり、社長の父である四代目も相続で大変な苦労をした。
それゆえ相続税で苦労をしないように、たくさんの人に株をばらまいたのである。
社長の持株比率は10%程度であった。
相続税が大変だということで株を分散すれば、確かに相続税は安くなる。
しかし、その結果、会社を追われ、乗っ取られるようなことになれば、何のための対策だったのかわからない。全くの本末転倒である。
先祖代々心血を注ぎ作り上げてきた会社を、一瞬にしてなくしてしまった事例である。
【サポート解説】会社は誰のものか
何が大事かを誤って、事業承継を相続税の問題と思って対処し、結果、相続税が安くなった代わりに、会社を失ってしまったケースです。
会社は誰のものか、ということを痛感させられる事例です。
会社は社長のものではなく、株主のものです。
創業家だからとか、利益に一番貢献しているから、ということは関係ありません。
会社あっての売上であり、利益であり、税金であり、会社そのものを失ってしまっては元も子もありません。
会社運営、会社防衛の観点から、そして、後継者が安定して会社を運営できるように、支配権の承継を第一に考え、事業承継対策を行うことが重要です。