高度経済成長期~バブルの時期、日本製の製品は品質の良さを理由に世界中で高い評価を得ていた。その品質の良さを担っていたのが1960年代以降日本で導入されてきた「TQC」という考え方だ。今回の記事では、日本の経済成長を支えたTQCの意味や効果について現在主流となっているTQMと対比しつつ紹介する。

TQC(Total Quality Control)とは

TQCは日本経済を支えた?現在主流のTQMとの違いも解説
(画像=stanciuc/stock.adobe.com)

はじめにTQCに関して押さえておきたい4つの事項(意味、変遷、特徴、効果)を分かりやすく解説する。

TQCの意味

TQC(Total Quality Control)とは、全社的な品質管理の略称である。JISC(日本産業標準調査会)の「関係用語と略語集」では、TQCを以下のように定義している。

「品質管理に関するさまざまな手法を総合的かつ全社的に展開して適用し従業員の総力を結集してその企業の実力向上を目指すもの」
出典:JISC(日本産業標準調査会)

つまりTQCとは、部門の垣根を超えて会社全体で品質管理に取り組むことを意味する。

TQC活動の変遷

TQC活動は、1950年代にアメリカ内の企業において品質管理を行っていたファイゲンバウム氏によって提唱されたものである。ファイゲンバウム氏は、TQC活動を「顧客を十分に満足させる製品を生産するために企業の各部門による品質開発や維持・改良の努力を総合的に調整すること」と定義。一方で日本では、1960年ごろにTQC活動が導入されはじめた。

終戦後しばらくして日本の製造業においても品質管理の手法は実践されていたものの「あくまで生産の各プロセス内での適用に留まっていた」と言われている。しかしTQCが導入されて以降、日本でも全プロセスを通じて現場のメンバーが一丸となって品質管理に取り組むようになった。現場を中心に会社全体で品質管理に取り組むようになった結果、高度経済成長期~バブル経済の時期において日本の製造業は他国に対して圧倒的な競争優位性を確立することに成功したのだ。

日本版TQC活動が持つ特徴

実は、アメリカ国内で生まれたTQCと日本で実践されたTQCでは、根本的に趣旨が異なると言われている。アメリカでのTQCは、顧客にとって満足できる品質を実現するために「各部門が行う品質管理の努力を統合すること」と考えられていた。一方で日本版TQC活動は「全社一丸となって行う品質管理の活動」となっている。このような趣旨の違いから日本版TQC活動には主に以下の2つの特徴があった。

・現場の作業者が主体的に品質管理に携わっていた
日本版TQC活動では、QCサークルという小集団の中で現場の作業員一人ひとりが「QC7つ道具」「QCストーリー」などの手法を積極的に用いて品質管理を遂行していた。

・継続的な改善を重視していた
継続的に品質管理方法の改善を行ったことで品質やコスト面のパフォーマンス向上につながっただけでなく作業者の自己実現欲求の向上や士気の高揚にもつながったと言われている。

TQCに取り組む効果2つ

TQCへの取り組みで得られるのは、単なる品質向上やコスト削減の効果だけではない。それ以外にも主に以下2つの効果を得ることが可能である。

  • 社員全体が自己の能力を高め続ける習慣やノウハウを身に付けることが可能
  • 顧客視点に立って商品やサービスの生産・改良を行う組織体制ができあがる

つまりTQC活動は、社員および会社全体の能力を底上げし結果として長期的な競争優位性の確立につながるわけだ。

TQCの考え方を発展させた「TQM」とは

現在では、TQCの考え方をさらに発展させた「TQM」という考え方が製造現場における主流となっている。この章では、TQCからTQMに変化した背景やTQMとTQCの違いなどを解説していく。

TQMの概要

TQM(Total Quality Management)とは、総合的品質管理の略称である。日本品質管理学会が公表している「品質管理用語」では、TQMの定義や目的を以下のように表現している。

・TQMの定義
「プロセスおよびシステムの維持向上、改善、革新を全社的に行うことで、経営環境の変化に適した効果的かつ効率的な組織運営を実現する活動」

・TQMの目的
「顧客および社会のニーズを満たす製品・サービスの提供と働く人々の満足を通した組織の長期的な成功」
出典:社団法人日本品質管理学会

一方前述したJISCでは、TQMを「TQCを発展させた業務および経営全体での品質向上管理」と定義している。以上2つの定義をまとめるとTQMとは業務のみならず経営全体で品質を管理し顧客ニーズへの適応や組織の長期的な成功を目指す活動と言えるだろう。

TQCとの違い

TQCとTQMでは、品質管理の主体に大きな違いがある。TQCは、主に現場の従業員一人ひとりが主体的に品質管理を行う活動だ。一方でTQMは「組織運営を実現する活動」「経営全体での」という表現が示すように経営陣がトップダウンの形で品質管理を行うものである。つまりTQCの考え方を経営陣の業務にまで拡大したものが「TQM」と言えるだろう。

TQCからTQMに変化した背景

TQCからTQMにメインストリームが移った背景には、1990年代ごろから経営環境が急激に変化しTQC活動に限界が露呈したことにある。具体的には、以下に挙げた点がTQCの課題として露呈した。

  • 国民全体で個性を重視するようになったことで全員参加のスローガンが受け入れられにくくなった
  • 現場での小さな改善が顧客にとってはささいなものであった
  • 固有の技術が確立されていない分野では、TQCの効果が薄い
  • デミング賞の獲得や社内での事例発表が目的となり、TQC活動が持つ本来の目的が見失われた

こうした課題があったためにバブル崩壊を境にTQC活動の効果は薄れつつあった。そこで注目されたのが日本版TQCの発展形とも言える「TQM」である。アメリカで提唱されたTQMは、日本企業の成功事例を基に新しい経営のモデルとして作られた。TQMのおかげで1980年代まで衰えていたアメリカ経済は華々しい復活を遂げたと言われている。

アメリカでの成功にならって現在日本でもTQMの考え方に基づいて品質管理が行われているわけだ。

TQM活動の原則

TQM活動を行う際に役立つ原則は、「目的」「手段」「組織運営」という3つのカテゴリーに大別される。目的に関する原則とは、TQM活動によって何を目指すべきかを表したものであり、以下の3つが該当する。

  • マーケットイン(顧客視点)
  • 品質第一
  • 後工程は顧客

手段に関する原則とは、どのようにTQM活動を実践すべきかを表したものであり、以下10項目が該当する。

  • プロセス重視
  • 標準化
  • 源流管理
  • QCD結果に基づく管理
  • 事実に基づく管理
  • 重点指向
  • PDCAのサイクル
  • 未然防止
  • 再発防止
  • 潜在的なトラブルの顕在化

組織運営に関する原則とは、TQM活動を実践する組織をどのように運営すべきかを表したものであり、以下の4つが該当する。

  • 全員参加
  • リーダーシップの発揮
  • 人間性の尊重
  • 教育および訓練の重視

TQCおよびTQMを実践する方法

TQCやTQMの活動について厳密に決まった実践方法は存在しない。この章では、一般的なTQC・TQMの実践方法を紹介する。TQCおよびTQMの活動は、基本的に以下の3つの手順で進めていく。

手順1:方針および実施体制を作る

まずは、経営陣が主体となってTQM・TQC活動の方針と実施体制を作ることからはじめる。方針に関しては「品質管理活動により何を達成したいのか」を明確化することが重要だ。一方で実施体制については、TQC・TQM活動に全責任と権限を持つ委員会を設置しスケジュールや各委員の役割を明確化するのが一般的である。

また現場での品質管理活動を想定して数名からなる「QCサークル」と呼ばれる小集団を作っておくことも不可欠だ。人員配置や役割の明確化を行うにあたっては、それぞれの得意分野や社内での立ち位置を考慮して最もTQCやTQM活動が円滑に進むようにすることが重要である。

手順2:役員や管理職に対するTQC・TQMの重要性を認識させる

方針や実施体制ができたら次に役員や管理職に対してTQC(またはTQM)の重要性を認識させなくてはならない。具体的には「TQC・TQMへの理解を図る研修会を開催する」「メンバー同士で会合を開く」などが効果的である。こうした活動を事前に行っておけば品質管理の活動が顧客満足度や自社の業績を高めるうえで不可欠である旨を理解してもらえるわけだ。

手順3:QCサークル活動の実施と改善

経営陣や管理職の間でTQC・TQMに関する準備が整ったあとは、現場での品質管理を徹底するだけだ。前述したように実際のTQC・TQM活動はQCサークルと呼ばれる数人規模の集団で行われる。QCサークル活動を実施するにあたっては、各部署によって体質や業務プロセスが違う点を意識することが重要。また問題点を常に改善し品質管理の効果を高めていくことも忘れてはならない。

TQCやTQMが持つ課題

TQCやTQMには「真の意味で顧客視点に立っていない」という課題がある。たしかにTQMはTQCと比べると顧客の視点に立って品質管理に努めていると言えるだろう。ただしあくまでTQCやTQMは社内での活動に過ぎず顧客からは「どのような形で品質管理が行われているか」は理解しにくい。言い換えるとTQCやTQMが目指す顧客指向は、あくまで企業における主観に過ぎないわけだ。

この課題を解決するには、より客観的な視点で顧客指向を目指さなくてはならない。そのうえで有効となるのが品質管理の国際規格である「ISO9000シリーズ」を活用する施策だ。国際的に認められている規格のため、ISO9000を取得すれば顧客から見ても一目で品質管理の質が分かるようになる。このように品質管理のメリットを高めたい企業は、TQCやTQMの活動を行うと同時にISO9000の規格を取得し顧客に対して対外的に品質管理の成果を示すようにすることも重要だ。

TQC・TQMに取り組んでみよう

今回紹介した通りTQCやTQMによる全社的な品質管理は、日本やアメリカの製造業が世界的に成功してきた要因の一つだ。TQC・TQM活動では、単に品質の向上を実現できるだけでなく顧客のニーズに沿った商品やサービスの影響や社員のモチベーション向上といったメリットも期待できる。この記事を読んでいる経営者もぜひTQC・TQMの活動に取り組んでみてはいかがだろうか?(提供:THE OWNER

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)