コンジョイント分析は、マーケティング分野において重要な分析手法である。近年では、ビジネスだけではなく地域行政や教育機関などの分野でも活かされており、その可能性が広がっている。商品開発の戦略を立案するために、その支援としてコンジョイント分析を役立てることも多い。

今回は、コンジョイント分析のメリット・デメリット、経営への活かし方について紹介する。

コンジョイント分析とは

コンジョイント分析が近年のトレンド?経営への活かし方とは
(画像=takasu/stock.adobe.com)

商品・サービスのコンセプトを最適化するための手法が、コンジョイント分析である。おもにマーケティング分野で利用される。

コンジョイント分析の意味

コンジョイント分析は、英語で「conjoint analysis」と表記する。コンジョイントには「連合した」「連帯の」「結合した」という意味がある。

すなわち商品・サービスを構成する要素において、どのような組み合わせが妥当なのかを探るための分析手法だ。

1960年代、数理心理学者と統計学者の理論構築からコンジョイント分析の研究が始まった。1980年代のアメリカで大きく発展を遂げて、現在では多くの企業で活用されている。

データ解析をする方法としては、代表的な多変量解析を用いる。多変量解析とは対象となる変数(属性や項目、次元数)が複数ある場合、そのデータをもとに変数間における相互連関性を分析する統計的な技法である。

商品開発においては、個々の変数が、消費者の購入に影響する度合いを商品全体の評価をすることで算出する。このような分析によって、どの変数をどの程度変えれば、顧客が気に入るのかが予測できる。

コンジョイント分析の目的

コンジョイント分析は、顧客の消費構造を的確に把握するために実施される。このような情報を事前に把握することで、市場で需要のある商品・サービスを創出することができる。いわゆるマーケット予測である。

商品の構成要素は、要因という変数に分解することができる。ノートパソコンを事例に考えたい。ノートパソコンは機能や性能、デザイン、アフターサービス、価格などの要因から成り立っている。消費者は、ノートパソコンを購入する際、どの要因を重視しているのか、それぞれの基準を持っている。

この要因は、属性と呼ばれており、具体的に設定されたものを水準という。ノートパソコンにおけるCPUやOS、メモリー容量、スマイレージ、バッテリ駆動時間などが水準に該当する。

コンジョイント分析では、さまざまな属性・水準を組み合わせた商品例を複数提示して、アンケートを実施する。アンケート被験者が、商品に対する評価をすることで、妥当な価格帯や求められているスペックが明らかになる。

このような結果から、企業にもたらされる恩恵は以下の通りだ。

・優先すべき属性・水準が明確になる
・スペックだけではなくコンセプトを定めるためにも有効である
・新商品や仕様変更した商品を市場に投入する際、マーケットシェアが予測しやすくなる
・エンドユーザーの潜在的なニーズが把握できる
・「価格が高すぎる」「性能が低すぎる」といった不適切なスペック・価格がわかる

このような目的を実現するために、企業はコンジョイント分析を活用している。

コンジョイント分析のやり方

コンジョイント分析には、複数の商品プロファイル(コンセプト開発シート)を用いる。商品プロファイルには、効果を測定したい属性および水準を選定して、評価を付けたい組み合わせを設定していく。

ここで注意しなければならないのは、組み合わせを最小限に抑えることだ。項目が多くなると、アンケート被験者が回答しづらくなるためである。

ノートパソコンを例にすれば、以下のような商品プロファイルが作成できる。

【ノートパソコンA】
CPU:core i7
OS:Windows10 home64bit
メモリー容量:8GB
スマイレージ:HDD:500GB
バッテリ駆動時間:6時間
価格:12万6,000円

【ノートパソコンB】
CPU:core i5
OS:Mac OS
メモリー容量:8GB
スマイレージ:SSD:256GB
バッテリ駆動時間:10時間
価格:121.800円

【ノートパソコンC】
CPU:core i5
OS:Windows10 home64bit
メモリー容量:4GB
スマイレージ:SSD:240GB
バッテリ駆動時間:3.5時間
価格:65.000円

【ノートパソコンD】
CPU:core ⅿ3
OS:Mac OS
メモリー容量:8GB
スマイレージ:SSD:256GB
バッテリ駆動時間:6時間
価格:99.400円

このような組み合わせを、アンケート被験者に評価をしてもらう。回答データをもとに、属性・水準ごとに、どの程度の効用値が与えられているのかを数値化していく。

この手法でとりわけ難しいのが、属性・水準の組み合わせを設定することである。そこで用いられているのが直交表だ。

直交表について

直交表は、統計学の応用分野である実験計画法で用いられる配列表のことである。任意の2列おいて、その水準のすべての組み合わせが同数回ずつ現れるという性質を持つ。実験の効率を上げるための割り付け表であると考えてよい。

直交表には、2水準系直交表や3水準系直交表など、いくつかの種類がある。よく使われているのが、混合系直交表に属するL18(2137)直交表だ。

この方法では、

・2水準の属性が1つ
・3水準の属性が最大7つ

まで割り付けられる。

このパターンを掛け合わせると、4374通りという膨大な組み合わせになる。しかし18回の実験だけで調査することが可能だ。この理由について説明をする。

L18(2137)直交表にすると、以下の通りである。8つの属性をA~H、組み合わせパターンをNo1~18としている。

NoABCDEFGH
111111111
211222222
312333333
412112333
512223211
613331122
713121323
813232131
911313212
1021133221
1121211332
1222322113
1322123112
1422231223
1523312311
1623132312
1723213123
1823321231

各水準が同じ回数ずつ現れているため、18回の検証ですべての属性を網羅できるのだ。

回答方法

対象者に回答してもらうために、商品プロファイルごとのカードを用意する。たとえば、L18(2137)直交表であれば、18枚のカードが必要となる。

カードを順位付けするための方法としては、点数による評価(評価法)が最適だ。「購入する:10点」「わからない:5点」「購入しない:0点」という3段階で、点数を付けてもらう。

点数による評価以外には、欲しい順番に並べてもらう手法(順位法)もある。順位付けされたデータにまとめることで、分析が可能だ。また5段階評価によってアンケートを行う方法(評定尺度法)もある。

回答データを収集することで、どの属性・水準を重視しているのかが明らかになる。これは効用値という数値で算出可能だ。効用値とは、属性・水準に対する寄与率のことである。

分析手法

効用値を算出するためには、重回帰分析が有効である。重回帰分析とは、ある目的変数を、複数の説明変数で予測できる統計手法だ。

この方法によって、どの変数が、どれくらい結果を左右しているのかが関数で数値化できる。さらには、それぞれの変数の関係性を表して、将来的な見通しを立てられる。

重回帰分析は、Microsoft Excelで実行可能だ。「分析ツール」というアドインが組み込まれていれば,「データ」メニューの一覧に「重回帰分析」という項目がある。これを実行すれば、回帰係数が抽出される。この回帰係数の高い水準を組み合わせたものが、組み合わせとして最適ということになる。

重回帰分析以外にも、市販されている統計解析用パッケージソフトを使用することがある。

コンジョイント分析のメリット・デメリット

コンジョイント分析は、商品開発や市場予測において有効な手段である。しかし、やり方によっては不利益を被るようなことがある。

ここではコンジョイント分析においてメリットとデメリットをそれぞれ紹介したい。

メリット

最大のメリットは先述した通り、膨大な組み合わせでも最小限の回数で実験できる点だ。

一般的なアンケート調査には、非効率な側面や超えられない限界点がある。たとえば、「購入をする際、重視する項目に○を付けてください」というシンプルなアンケートがあるとする。

回答者には価格や機能、デザインを選んでもらうのだが、このような内容だけでは不十分で、消費者の消費構造を把握することはできない。商品を購買する際、その行動を決定する要因は1つではなく、トレードオフの関係になっているからだ。

したがって、より多数の要因を調査しなければならないが、大がかりで複雑な作業となる。このような課題をコンジョイント分析は克服する。

また投資判断にも役立つことを伝えておきたい。現在、技術的には難しいスペックの商品や、サンプル段階の商品でも、今後開発に注力すべきかどうかを見極められるようになる。

言い換えれば、市場への不参加や撤退を早期に表明できるということだ。無駄な投資コストを抑えたり、長期的な損失を回避したりすることができる。

デメリット

デメリットとしては、正確な順位付けができないリスクを考えなければならない。それは過度に属性・水準を多く設定するようなケースである。アンケート被験者が順位付けをする際、どの要因が好ましいのか選択に迷いが生じてしまう。

このような状況で、正しい情報や有益なデータを収集するのは極めて困難である。商品開発が進展しないだころか、マーケット予測も誤ることになるだろう。

ビジネスの現場でも、このデメリットは指摘されており珍しいことではない。

コンジョイント分析の活用シーン

コンジョイント分析は、あらゆるビジネスシーンで活用できる。アパレルや旅行、ホテル、飲食業界、製造業など、商品・サービスの購入における影響度を分析する必要がある場合、その企業課題を解決に導く。

たとえばツーリズム関係の企業では、旅行者が訪れたくなる観光地の要因を探ったり、自動車メーカーでは、電気自動車(EV)の新モデルを発売した場合の販売台数を予測したりできる。

たとえば、居酒屋を新規開業するケースを挙げて考えてみたい。以下では効用値から、最適な組み合わせをみる。

属性には看板食材・主力ドリンク・席タイプを設定する。属性の要素である水準ごとに、効用値を仮に算出してみた。

属性水準効用値
看板食材無農薬野菜+20
国産和牛+15
新鮮な海の幸+2
主力ドリンククラフトビール-40
ハイボール+20
日本酒+140
席タイプ掘りごたつ+130
テーブル+60
カウンター-40

これらのスコアを合計して、好結果が得られた組み合わせを、以下で比較してみたい。

属性A案B案
看板食材無農薬野菜国産和牛
主力ドリンクハイボール日本酒
席タイプテーブルカウンター
効用値合計+100+115

この場合、A案よりも効用値が大きいB案の方が、集客できる確率が高いと判断できる。

また居酒屋ではなく他ジャンル(焼肉店やレストラン)で出店した場合や、顧客単価を上げた場合などでもシミュレーションが可能だ。同地域でのライバル店とシェアの奪い合いが起こらないかという予測もできる。

調査結果の操作を招かないためにも

コンジョイント分析は、肝となるのは組み合わせの設定方法である。何度も繰り返すが、どの属性・水準を設定するのかは慎重に準備しなければならい。

嗜好が偏るような設定をすれば、正しいデータが得られないどころか、調査結果の操作にもつながりかねない。調査を開始してから属性・水準を変更することは困難である。したがって準備や計画段階における調査設計に、もっとも注意を払わなければならない。(提供:THE OWNER

文・吉田一政(ダリコーポレーション ライター)