世界銀行が「2021年までに極貧困層(1日1.90ドル/約202円以下で生活している層)が合計1億5,000万人に増える」との見通しを発表した。近年、紛争や気候変動の影響で貧困削減のペースが鈍化していたところにパンデミックが拍車をかけ、2020年は世界の極貧困層が20年以上ぶりに増加したという。一方、富裕層の資産はわずか9ヵ月間で3兆9,000億ドル(約414兆9,891億円)も増加した。
このような貧富二極化は貧しい国のみならず、日本を含む経済大国でも凄まじい勢いで進行している。
経済大国で加速する貧困の現状 欧州の「手厚い保障」のほつれ目
「保障が手厚い」とされる欧州においても、保障の対象にならない学生や一部の非正規雇用者、低所得層を中心に貧困が加速している。
新型コロナによる経済活動の低迷から、アルバイト時間を短縮されたあるいは失業した学生の中には、チャリティー団体などから支給される緊急食糧で食いつないでいる者もいる。国境封鎖や行動規制、渡航費の値上がりなどの理由で、実家に戻ることすらできない留学生において、この傾向はさらに強くなる。
社会保障を受ける資格がない学生に、救済の手を差し伸べる学校はごく一握りだ。アメリカ教育協会(ACE)が、2020年4月に大学の学長192人を対象に実施した調査では、86%が「秋期または夏期の入学者数」、64%が「長期的な財政的健全性」をコロナによる懸念事項の上位5つに挙げたのに対し、「学生の食料や住居に対する不安」を挙げたのはわずか14%だった。
保障を受けている低所得者間でも、1日1食しか食べられない人やフードバンクの利用者が爆発的に増えている。英国では、UNICEF(国連児童基金)が70年ぶりに、低所得層の子どもに食料品を提供するという異例の事態となった。慈善団体Food Foundation(フードファンデーション)の調査によると、同国では240万人の子どもが十分な食糧を買えない家庭環境で暮らしており、低所得世帯を対象とする無料の学校給食を申請した子どもの数は、2020年10月までに90万人に達した。
また、世界一の経済大国である米国で2020年に実施された複数の調査では、国民の12%に値する2,570万人が、「過去1週間に十分な食事ができなかった」と回答した。推定1,700万人の子どもたちが十分な食事をとることができなかったことなどを明らかにしている。
パンデミックで富裕層はより豊かに
貧困層の生活がさらに悪化したのとは対照的に、富裕層の生活はより豊かになっている。英非営利団体Oxfam(オックスファム)の調査によると、世界のビリオネア(純資産10億ドル/約1,064億3,342万円以上保有)の総資産は、2020年3月18日~12月31日までの間に3兆9,000億ドル増加し、11兆9,500億ドル(約1,271兆8,392億円)に達した。オックスファムの算出では、「G20国のコロナ救済支出金総額に匹敵する金額」というから驚きだ。
しかし、貧富格差はコロナ以前から加速傾向にあった事実を考えると、想定内の動きと言えないこともない。世界のビリオネアの数は、2008年の金融危機後の10年間でほぼ2倍に増え、2017~2018年にわたり、2日に1人のペースで新たなビリオネアが生まれていた。推定5億人以上が、1日5.50ドル(約583円)未満で生活している現状と照らし合わせると、その極端な格差に愕然とするばかりだ。
日本の相対的貧困率はG7国中2位
日本も決して他人事ではない。これまで日本の貧困は「絶対的貧困(生活維持が困難)」より、「相対的貧困(生活水準が平均以下)」がほとんどとされてきたが、コロナが雇用市場に深刻な影響を及ぼしている今、絶対的貧困の割合が増加するのももっともだ。
日本における2018年の相対的貧困率は42ヵ国中15位(15.70%)、子どもの貧困率は18位と、G7加盟国の中では米国に次いで高かったことが、OECD(経済協力開発機構)のデータから明らかになっている。2017年の一人親世帯の貧困率は世界4位だった。また、家計の所得格差の指標として用いられることの多いジニ係数が、1980年代以降緩やかに上昇していることから、日本社会でも年々所得格差が拡大していることが分かる。
厚生労働省のデータによると、2017年の時点で非正規雇用者の割合が全雇用者の4割を超えていたにも関わらず、2020年の非正規雇用者人口は性別・年齢を問わず前年から減少した。コロナの打撃を大きく受けたサービス産業で、非正規雇用者の解雇が増えているものと推測される。このような背景から、「日本は第2次世界大戦以来の富裕・貧困の二極化に直面している」との意見もある。
経済的な支援だけでは貧困問題は解決しない?
そもそも、格差が生じるのはなぜか?国により原因や状況は異なるものの、経済大国では都市への多極集中化による地域経済格差、非正規雇用者の増加による所得格差が主な原因とされている。長引く住宅価格の高騰が、深刻な家計圧迫を引き起こしている英国のような国もある。
深刻化する貧富格差の対応策として、一部の国ではベーシックインカム(最低限所得保障)や、高所得者の税負担を増やす「富裕層税」導入の可能性が議論されているが、実現への道のりは遠く、これらが絶対的な解決策になるという保証もない。
教育無償化や所得・家賃補助金など、政府の手厚い支援が所得格差解決のカギとなるとの意見もある。しかし、これらの制度が定着している欧州でも貧困層は年々増加傾向にあるという現状を踏まえると、やはり経済的な支援だけでは貧困問題の解決は難しいのではないか?という印象を受ける。単に不足している所得を補うだけではなく、経済大国の経済構造そのものを見直す時期が訪れているのではないだろうか。(提供:THE OWNER)
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)