米金利上昇と警戒論のはざまでドル円は年内105~111円に
みずほ銀行 チーフマーケットエコノミスト / 唐鎌 大輔
週刊金融財政事情 2021年3月8日号
2020年の為替市場は「金利のない世界」の中で、需給の強弱が方向感を左右した。具体的に数字を見ると、20年のドル相場は名目実効為替ベースで4.1%下落したが、そのうち1.6%ポイントは人民元、1.5%ポイントがユーロ、0.4%ポイントが円だった。この三つは世界三大経常黒字国の通貨であり、人民元とユーロは世界二大貿易黒字国の通貨である。昨年は金利がテーマにならない中で、実需に恵まれた通貨が買われる傾向が素直に表れた年だった。
21年は「金利のある世界」になる。確かに、米連邦準備制度理事会(FRB)が示唆する「23年末までゼロ金利政策は継続」という方向性に大きな変更があるとは思わない。しかし、21年が20年の「悲観の極み」からの反発を基軸とする年になることは間違いない。中央銀行が政策金利を引き上げなくても、実体経済の現状や展望が明るければ市中金利は当然上昇する。追加経済対策、ワクチン接種と集団免疫の獲得、前年比で見た指標の改善等、金利が上昇する材料はそこかしこにある。
年初からの米金利の動きは21年を象徴しよう。本稿執筆時点(2月下旬)でも米10年国債利回りの騰勢は強く、多くの市場参加者が21年の上限とみていた1.5%を優に突破した。ある程度のラグはあろうが、「唯一金利の付く主要通貨」としてドルが評価されるというのが21年の為替市場の基本的な視座になるはずである。なお、20年はユーロ高・ドル安が話題になったが、欧州中央銀行(ECB)はこれを米国の実質金利動向に沿ったものと明言していた(図表)。
ただ、いずれは潜在成長率との相対関係、株式と比べた投資妙味(イールドスプレッド)、イールドカーブの形状などに照らして、断続的に金利上昇警戒論は浮上し、その都度、株安・米金利低下・ドル安という地合いが到来するはずである。FRBは明示的に株安を懸念するそぶりは見せないだろうが、家計金融資産の30%以上が株式という米国経済の構造を踏まえれば、それを放置することもできまい。米10年国債利回りが1.5~2%のレンジを形成したところで、FRBがハト派色を強めて金利上昇は止まり、ドル高も小康状態となると予想する。ドル円相場で言えば、6月末までに105~110円のレンジを想定するが、12月末まで見てもそれが105~111円になるくらいの差しかないのではないか。
なお、22年は再び「金利のない世界」に戻るだろう。「悲観の極み」からの反発が弱まり、再び経常黒字など実需に恵まれた通貨が評価される可能性がある。その意味で今年前半の円安・ドル高トレンドは1年後には続いていないと予想している。
(提供:きんざいOnlineより)