中古住宅の郊外シフトは急速には進まず?
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中古住宅の郊外シフトは急速には進まず

都市未来総合研究所 主席研究員 / 湯目 健一郎
週刊金融財政事情 2021年3月8日号

 図表は、東京圏1都3県における中古住宅(中古マンションおよび中古戸建て住宅)の成約件数の対前年同期比増減率の推移である。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年第1四半期から20年第1四半期は、おおむね都心周辺エリアの同増減率は東京圏全体平均を上回り、郊外エリアは下回る傾向が見られた。しかし、緊急事態宣言が発出された20年第2四半期以降はその傾向が逆転し、都心周辺より郊外の中古住宅売買が活発化した。

 背景には、景気先行き不透明感から都心周辺の高額物件の購入ニーズが減退したことや、テレワークの進展が挙げられる。後者に関しては、オフィスワーカーを中心に通勤頻度が低下して都心周辺に住む利点が弱まり、また、都心周辺では自宅でテレワークのスペースを確保できず、住宅価格の安い郊外に広い住宅を求めるニーズが生じている。住宅ポータルサイトの購入物件探しの閲覧・問い合わせ件数ランキングでも、昨年から順位を上げた郊外の駅は多い。

 今後は、コロナ収束により景気が回復に向かえば、中古住宅については都心周辺の高額物件の購入ニーズが回復し、その分、郊外での購入ニーズが弱まる反動が生じる可能性がある。一方で、デベロッパー各社は郊外需要を見据えて郊外での新築住宅販売に注力し始めており、新築と中古の競合が強まるケースもあろう。

 コロナ収束後の住宅の立地選好は、テレワークが継続するか否かによるところが大きいと考えられる。感染拡大の本格化以降、ウェブ会議システムの導入やオンライン研修体制の構築などは進んだが、テレワークにおける作業効率や労務管理上の課題を挙げる人は少なくないとの調査結果も見られる(注)。

 テレワーク導入の本来の目的は単なるオフィスコスト削減や通勤負担軽減などではなく、働く場所の多様化による生産性や従業員エンゲージメントの維持・向上にあると考えると、前述の課題解消が進まなければ、テレワークが継続するかは不透明である。以上から、中古住宅需要の郊外シフトが今後も進むかどうかは企業の人事制度や組織文化の変革に関わる事柄であり、急速に進む蓋然性は低いと考える。

中古住宅の郊外シフトは急速には進まず?
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(提供:きんざいOnlineより)