特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

昭和26年富山県で創業。当初は家具製造販売が中心であったが、現在は建築全般を幅広く手がける株式会社トミソー。その業務内容は、内装工事から住宅新築、店舗設計施工、不動産売買やマンションのリフォームまで多岐にわたる。祖父の創業から約70年、地元富山で着実な事業展開を続けてこられたのは「最高の技術と心を持ってお客様の夢の実現と、従業員の幸福を追求すると共に地域社会の未来に価値ある物を創造し続ける」という企業理念があったからこそ。コロナ禍で事業環境は予断を許さない状況ではあるが、トップは顧客と従業員、そして富山のため、次の100年に向けて発展し続ける決意を語ってくれた。

(取材・執筆・構成=長田 小猛)

株式会社トミソー https://tomisou.co.jp/
(画像=株式会社トミソー https://tomisou.co.jp/)
木村 嘉秀(きむら・よしひで)
株式会社トミソー 代表取締役社長
1975年富山県生まれ。北陸職業能力開発短期大学インテリア科卒。
大学卒業後、東京に本社がある大手店舗設計会社「株式会社スペース」名古屋本部に入社し 9年間勤務。同社で店舗設計施工、デザイン、営業などの経験を積む。2005年、祖父が社長を務める株式会社トミソーに入社。専務取締役を経て、2012年代表取締役社長に就任。

家具の製造から内装工事、住宅建築へと着実に業務を拡大

――創業時は家具製造販売を手がけておられましたが、内装工事、住宅建築、宅地分譲へと着実に業務を拡大されてきています。

創業は昭和26年(1951年)。祖父で現会長の島田一三が、個人で家具の製造販売を始めました。カーテンやイスなどの製造販売をしていたのですが、業務拡大に伴って昭和29年に株式会社に改組、昭和38年(1963年)に称号を現在の株式会社トミソーに変更しました。この頃は総合内装建材家具業が事業の中心でしたが、昭和57年には不動産事業部を設置して不動産の取り扱いを始めました。その後も事業の拡大を進め、平成14年(2002年)には本格的に住宅新築、リフォーム事業をスタートさせています。私の入社がその3年後の2005年で、その頃には今の事業の形がほぼ揃っていたことになります。

――現在では、店舗設計施工、賃貸、仲介まで、かなり事業を拡大されていますね。

現在は内装工事、建築一式工事、住宅新築、増築、リフォーム工事、店舗設計施工、店舗兼住宅、改築、造作工事、不動産売買、賃貸、仲介などが業務内容となります。お客様にとってお役に立てることをしたい。さらにその上を目指し、お客様に感動していただける仕事ができる会社をつくろうとしてきた結果です。新築住宅では、間取りは完全な自由設計でも定額予算で家をつくる「IROHA.IE」、最高品質の天然木を使いながらコストを抑えた「郷の家」、子育て世代に向けた安心、健康がテーマの無垢材の規格住宅「tsumiki」などを展開しています。

郷の家
最高品質の天然木を使いながらコストを抑えた「郷の家」(画像=株式会社トミソー)

また私たちは土地も扱っていますから、お客様のご要望に応えるためにファイナンシャルプランナーを講師に招いて「失敗しない土地選びセミナー」なども開催しています。富山は持ち家率が高いですからね。家づくりだけでなく、総合的なご支援が必要なんです。

人材は「人財」。優秀な人材を育て強固な事業基盤をつくる

――事業の拡大はもちろんですが、社長に就任されてからは社員の意識改革にも力を入れていると伺いました。

ここ3・4年は毎年新卒の採用を行い、人材の確保に努めています。これは既存の社員にも刺激を与えると思うので、意識改革にもつながっているでしょうね。採用と併行して、給与テーブルや昇給システムの改革も行っています。具体的には四半期ごとに目標を立て、達成率でポイントを出す評価方法を導入して、半年に1回の昇給制度としました。行動目標と数値目標は最初に設定しますが、評価は個人の成績にあまりこだわらず、会社の売上と部門の売上で評価していきます。

また、将来を見据えて業務内容ごとの事業部制に移行し、現在4事業部を作ったところです。不動産事業部、建築事業部、店舗事業部とリノベーション事業部。いずれはまだ建築事業部に所属する住宅部門を独立させて5事業部にしていく予定です。これは事業部での成績評価に必要なこともあるのですが、常にチームで仕事をして欲しいという思いの表れでもあります。チームを作ればリーダーが育ちます。まずはリーダーが管理できる事業部を先に作り、リーダーの候補生を育てたい。事業部制は、リーダー意識とチーム(仲間)意識を作るためのもので、やがては強固な事業基盤となります。

あとはフェイルセーフの観点。バブルの時代、ゼネコンの下請けとして建築部門の売上が全体の9割を占めていたことがありました。1本だけの柱が無くなると売上の落ち込みが激し過ぎるので、他の事業部の売上で補完できるようにしていくのが目標です。

ニッチではあるがブルーオーシャンの店舗併用住宅に注力する

――不動産事業部、建築事業部、店舗事業部、リノベーション事業部と業務の内容別に事業部をお作りになりましたが、特に注力されている事業は?

当社の強みは、店舗事業部で行っている店舗併用住宅(店舗兼住宅)の開発なのです。富山では年間3,000戸の新築が建ちますが、店舗併用住宅は40〜50戸。市場は小さいのですが、この分野には注力していて当社はシェアトップです。店舗と言ってもチェーン店や東京資本の店舗は手がけず、個人開業のお客様に特化しています。

実は店舗部門は10年間、私自ら培ってきた事業なのです。他の事業部よりも店舗事業部は収益性が高い傾向にあります。その理由は競争相手が少ないから。隣の石川県でも、このような事業を行っている企業は少ないと聞いています。現在は状況を見て、近隣へ進出することも視野に入れています。

hair hale
店舗の施工例「hair hale」(画像=株式会社トミソー)

――コロナ禍で飲食店をはじめとする店舗は経営に苦しんでいるようにも思えますが、その点はいかがなのでしょうか?

もちろんコロナ禍で経営に苦しんでいるお客様もいるのですが、ここで肝心なのが当社は個人開業のお客様に特化している点です。たとえば通常事業ローンは、担保があっても15年までしか組めません。店舗の場合、普通は最大7年です。ところが店舗併用住宅であれば、35年までローンを組むことができるのです。もちろん返済の期間は長くなるのですが、月々の支払いを考えればこの固定費の差は大きい。店舗併用住宅は、コロナを含め不況に強いのです。

もちろんすべての金融機関で可能なわけではないので、このノウハウを2020年7月から実施している「店舗開業セミナー」で紹介しています。コロナ禍なので4組限定にしていますが、毎回満席となるご好評をいただいています。当社はコロナに負けず、このような状況を事業のチャンスに変換していきたいと考えています。

――今後はどのように事業を発展させていきたいと考えていますか?

1つ目は、各事業部においてブルーオーシャンで戦うための努力を続けていくこと。お客様に感謝されるニッチな仕事をすることですね。そして事業部を横断する横展開。たとえば店舗でいい仕事をすると、店舗から大家さんへ、大家さんがお持ちの他のビルの修繕へ、そして住宅へと横のつながりが出てきます。当たり前のようですが、お客様に感謝されることが大事です。

2つ目は規模の拡大。定期採用を進め、少しずつ人数を増やしながら100人までは拡大していきたいと考えています。先ほどの店舗併用住宅でも、人がいれば他県でも仕事を広げていけるでしょう。

最後は三方よし。当社ばかりがブルーオーシャンを狙うのではなく、お客様、社員、地域社会を三方よしにすることです。