特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
1957年に北海道の十勝で創業した、木造住宅建築を主な事業とする紺野建設株式会社。住宅の環境性能を重視し、他社の倍以上の断熱材を使用するなどの取り組みを行う。また、低コストかつ高品質な設計力、および顧客の期待を超える建築を提供する技術力も重視している。「十勝で一番なら世界一」の確信を深める創業家2代目社長の紺野 宏氏は、北海道木造建築業界のリーディングカンパニーをめざすとともに、関東圏・本州各地への進出も視野に入れている。
(取材=ZUU編集部、執筆・構成=高野俊一)
設計事務所監理の工事受注が一つの転機に
――紺野建設株式会社設立から現在までの経緯を聞かせてください。
1957年に私の父親が個人事業者として創業しました。私が入ったのは1987年、30年経ってからです。大工だった父親は大工工事を中心とした仕事をしていましたが、私が入ったときには「どん底」ともいえるほど、あまり良くない状態でした。バブル絶頂期なのに仕事がない状況に、「仕事を辞めて戻ってきたのは失敗だったか」と悔やんだほどです。しかし、その後バブルが崩壊すると、逆に「ここから自分の時代を作るのかな」との期待感が生まれました。
そのころ、たまたま友人の紹介で、名古屋の設計事務所が監理する住宅建築工事を十勝地区でやらないか、と声をかけてももらいました。その設計事務所は、自分がそれ以前に知っていた設計事務所とは大きく異なる「濃い仕事」をしていたため、工事を地道に続けることで自分の自信にもなり、また今後の方針についても明確になりました。
その一方、業態が住宅建築のみでは変化に対応できないと考えました。そこで大手企業に営業をかけ、除雪・除草などの後方支援的な業務を、十勝地区全域について受注するようになりました。そのほかに公共工事も、小さな町のため順調に受注でき、紺野建設の大きな柱となっています。住宅・大手企業・および公共工事の3本柱のうちの1本でもうまく回れば、会社が潰れることはないだろうと考えています。また現在、モデルハウスの札幌地区での建築を計画中です。
当社の特長は、当社レベルの規模ならば木造建築しかできないのが一般的であるところ、大型物件も建設できる技術力があることです。また、木造建築については「すごいね」と一目置かれる会社になりたいと思っています。
環境と設計の両立および技術力の向上に注力
――モデルハウスに「ちきゅう思いの小さな家3」というネーミングのものがあります。このモデルハウスのこだわりや特長は?
このモデルハウスは国産材(地域材)100%で、輸入材は一切使っていません。このモデルハウスに限らず、当社は環境問題に力を入れています。20年くらい前、ホルムアルデヒドが原因の一つとなるシックハウス症候群 が問題になりました。「ちきゅう思いの」のサブタイトルも、「環境に良い」ということを意識しています。環境問題の取り組みにおける当社の特長は、換気や断熱材への十分な配慮を通して、住宅内部の空気を良好なものにすることです。
断熱材は「異常」ともいえる厚さにしています。昨年十勝で建てたモデルハウスは壁の断熱厚さが40cm、天井は70cm以上です。この厚さは、日本一のレベルだと思っています。以前、建築業者はこぞって壁の断熱を厚くしていたことがありました。国の指針もあり、現在では一般の建築業者の壁の厚さは20cm程度です。しかし、当社は現在でも、指針を大幅に超える極厚断熱材の使用を続けています。当社のモデルハウスは、厳寒の十勝で1ヵ月間ストーブも焚かずに放置したとしても、水道の水は凍りません。室内の気温は+4℃~5℃あります。
――北海道にも多数の建築業者があるわけですが、御社の強みや特長はどんなところにありますか?
まず、断熱と気密の技術についてはかなりの高いレベルを維持しているということです。また、換気についてもかなりの配慮をしています。一般の建築業者は換気設備を設置しておしまいです。しかし、当社は設備のメンテナンス方法についての詳細な説明し、引き渡し後の確認にも重点を置いています。
次に、設計力です。当社は設計事務所が監理する工事を長く受注していたため、設計事務所の仕事のやり方は知っています。しかし、設計事務所がこれからも、今までのように高コストによる施主の負担増、あるいはデザイン過多による工事の難易度増などを招くやり方を続けていては、顧客から敬遠されるのではと危惧しています。そこで当社は、低コストで高品質なデザインを行う設計力を武器にしたいと思っています。
――ホームページを拝見すると、建築工事の現場レポートやお客様の声がふんだんに掲載されていますね。
以前は、我が家の料理を紹介するブログ記事を掲載するなど、いわば「田舎臭い」感じのホームページを作っていました。お客様はけっこう見てくれてはいたものの、「小企業」のイメージが強くなるのは問題と考え、現在ではやっていません。会社の人間味を顧客に伝えることは重要だと思いますので、そのための洗練された方法を引き続き検討したいと思っています。
――昨年から発生した新型コロナウイルス感染拡大は、影響はありましたか?
資材の納期の遅延、他に、お客様の中で計画を一時中断された方もいらっしゃいましたが、現在はそれも解消されました。
「世界」を意識しながら変化に対応
――最後に、これからの目標や展望をお聞かせください。
北海道の十勝地区は人口30万人程度です。5年前には札幌へ進出しました。当社の強みはデザイン性と環境性の両立、およびお客様の期待を超える建築を作ることができる技術力です。「建築を通じて社会の役に立つ」ことを意識し、北海道木造建築業界のリーディングカンパニーをめざしたいと思っています。また、この方向と技術をもとに、関東圏や本州各地へ進出もしたいと思っています。
さらには「世界」も意識しています。札幌に建てるモデルハウスは、環境性能は「日本一」のレベルです。また、知り合いの大学教授などから「日本の住宅の環境性能は、現在ではドイツやカナダなどを抜き、世界一だよ」とも聞いています。したがって、十勝や北海道で一番になり、その延長に日本一になることは、「世界一」になることでもあるでしょう。モデルハウスにも「世界一プロジェクト」の名称をつけたりもしています。
時代は刻一刻と、急速に変化しています。そのような状況下で厳しい競争に勝ち残れるのは、「変化に対応できる会社」ではないでしょうか。1年後に今回と同じインタビューを受けたとしたら、私の言うことは時代の変化に対応し、全く変わっているかも知れません。お客様や社会のためになるという基本理念を大切にし、また当社の強みを磨いていきながら、日々努力したいと思っています。