新型コロナの感染拡大を背景に、「夢の国」に大きな試練が訪れている。東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランド(OLC)の見通しによると、同社の2021年3月期の連結最終損益は511億円の赤字に転じる。同社が通期で最終赤字となるのは、25年ぶりだ。

一方、ウォルト・ディズニー・カンパニーも、北米のディズニーストアの閉鎖や大量リストラの実施など苦戦が続いているものの、動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」の躍進が強力な追い風となり、2021年度第1四半期は赤字予想額を大幅に下回った。

オリエンタルランド、存続を賭けた大幅削減と増収戦略

オリエンタルランド、通期511億円赤字予想 北米ディズニーストア閉店 「夢の国」にコロナの試練
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OLCは2020年2月末から4ヵ月にわたり、主要施設を臨時閉鎖した。7月の再開以降は、入園者数をコロナ以前の4割程度(1日約3万人台)に制限している。2021年下期は段階を追って5割前後に高める方針だが、収益構造を変更せずに黒字に転じるためには、6割程度に引き上げる必要があるという。

同社はイベント関連および広告費や人件費の大幅な削減を打ち出し、過酷な事業環境に挑んでいるが、回復への道のりは平坦ではない。2020年9月には正社員・嘱託社員約4,000人の2020年冬の賞与7割減、1,000億円の社債発行を発表した。第3四半期には前期から500億円相当の固定費・諸経費を削減し、役員報酬の減額幅を拡大した。契約社員のダンサー・出演者など約1,000人に、園内の他の業務に移動するか、あるいは手当付きの退職、契約期間の満了を選択するよう求めるなど、さまざまな対策を講じている。

さらに、チケット価格を需要(繁盛記・閑散期など)により変動させるシステム「ダイナミック・プライシング」の導入や、「ファストパス」の有料化で増収を図る。また、新規投資により客足を伸ばす意図で、24年3月期に完成予定の東京ディズニーリゾート(TDR)の拡張工事は継続する。

ウォルト・ディズニー・カンパニー、2020年は初の2四半期連続の損失

「夢の国」の大元であるウォルト・ディズニー・カンパニーも、コロナ苦境に立たされている。同社の2020年第4四半期(10月3日まで)の営業利益損失は7億1,000万ドル(約769億6,499万円)と、2四半期連続の損失を記録した。通年では総額74億ドル(約8,021億7,037万円)に達しており、そのうち69億ドル(約7,479億6,169万円)がテーマパークなどのエクスペリエンス部門の客足減によるものだ。また、コロナ禍で、テーマパークとクルーズラインの閉鎖のみならず、映画やテレビ番組の撮影中止・延期も余儀なくされている。

通年のGAAP純損失は、28億3,000万ドル(約3,067億2,408万円)だ。金融データ「ファクトセット」の記録をさかのぼる限り、ウォルト・ディズニー・カンパニーが2四半期連続の損失とGAAP純損失を報告したのは初めてのことである。

同社は対策として、2021年度上半期に3万2,000人のリストラを実施すると同時に、北米の60軒以上のディズニーストアを年内に閉鎖する意向を発表した。他の多くのビジネス同様、コロナ禍でオンラインストア「ショップ・ディズニー」の売上が好調であることから、今後はオンライン販売に注力する方針だ。

「巣ごもり消費」が救い?動画配信サービスの加入者激増

ウォルト・ディズニー・カンパニーにとって最大の救いとなったのは、巣ごもり消費で動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」の加入者数が大幅に伸びたことである。2021年度第1四半期(1月2日まで)の有料会員数は、1億4,600万人を突破した。サービス開始からわずか1年でESPN+(1,210万人)やHulu(3,940万人)といったライバルに大きく差をつけ、有料会員数2億人超えのNetflixを着実に追い上げている。

ストリーミング事業の躍進とテーマパークに徐々に回復の兆しが見えてきたことに支えられ、2021年度第1四半期の一部の項目を除く調整後の損益は、1株あたり20セント(約22円)の赤字、収益は前年同期比から46億2,700万ドル(約5,020億407万円)減の162億5,000万ドル(約1兆7,630億円)と、アナリストの赤字予想(71セント/約77円の赤字、159億ドル/約1兆7,250億円)を大幅に下回った。当期純利益も2,900万ドル(約31億4,623万円)と、営業利益損失2期連続のトラウマ脱出を果たした。

予想を上回るパフォーマンスから株価市場の期待感が高まり、2020年3月には80ドル(約8,769円)台まで落ち込んでいた株価は、2021年3月12日現在では、200ドル(約2万1,697円)近くまで高騰している。

「コロナ生き残り戦略」が明暗を分けるカギ?

世界各国でワクチン接種が進展しているとはいえ、経済がコロナ以前の水準に回復するには、まだまだ時間を要すると予想される。コロナ収束の切り札として期待されているワクチンだが、現時点における「希望の光」ではあるものの、「絶対的な解決策」と断言することはできない。

特に新規変異株の感染拡大が懸念されている現在、現行のワクチンは「入院や死亡といった重度の症状の抑制には非常に効果的である反面、変異株に関しては軽~中度の症状を抑制する効果が低下する」と、米学術誌サイエンスは警告している。また、たとえ集団免疫の獲得に成功しても、新規変異体に対する有効性に疑念を唱える声もある。米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の医長、アンソニー・ファウチ博士の言葉を借りると、「本当のところ、誰にもはっきりとは分からない」状況だ。

コロナウイルスとの戦いが依然として続く中、オリエンタルランド、ウォルトディズニーを含む多数の産業にとって、試練の終わりは当面先の話となるだろう。自社の存続を賭けた「コロナ生き残り戦略」が、明暗を分けるカギとなると推測される。(提供:THE OWNER

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)