特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

株式会社ハウスジャパンは1983年創業。愛知県高浜市を地盤とし、地域に根ざした土地開発や住宅販売を行ってきた。2020年の受注棟数は75棟。新型コロナウイルス感染拡大の影響はあったが、受注数は前年より微増だった。土地探しからトータルでお客様をサポートできる提案力を活かして2021年は100棟を目標に設定。さらなる成長を目指す。

(取材・執筆・構成=不破聡)

株式会社ハウスジャパン
(画像=株式会社ハウスジャパン)
田村孝志(たむら・たかし)
株式会社ハウスジャパン 代表取締役社長
1971年千葉県生まれ。刈谷高校卒。
父親の転勤で3歳から愛知県知立市で育つ。大学卒業後はフリーターとして職を転々としながら世界、日本全国を旅して回る。阪神淡路大震災で被災した神戸でボランティア活動にも力を入れていた。27歳で教職に就いた後、33歳でハウスジャパンに入社。5年後に代表取締役社長に就任した。現在はMBA取得のため経営大学院に通学中。

目標は300棟受注とそれを支える人材の育成

――株式会社ハウスジャパンでは10年後に300棟の受注を目標としているそうですね。

今年(2021年)の目標が100棟です。これを3倍に引き上げるには、それを支える人材の育成が喫緊の課題です。私が実現したい組織形態はフレデリック・ラルー氏が提唱する「ティール組織」です。組織に明確な目的、ビジョンが設定されており、それに共鳴したメンバーが自発的に行動するというものです。

当社の強みは、不動産開発から住宅販売、建設を行えるトータルサポートメーカーであることで、街をつくるという大きな喜びが得られます。そして我々には、人々に豊かで心地よい暮らしを提供し、縁ある人を幸せにしたいというビジョンがあります。このビジョンに共鳴したスタッフを集めて育て、成長を促します。最終的には、メンバー同士がお互いを認め合い、自発的に行動できるようにしたいですね。

――社員教育に力を入れる理由は?

もともと教育に携わっていた人間なので、そこに喜びを感じる部分もあります。何かをやり遂げて自信を深め、自己実現をして成長する。それを仲間が一喜一憂しながら見守る。その場を提供することが、経営の目的の一つでもあります。社員の成長が翻って顧客満足度に跳ね返り、優れた商品となって世の中に広まることは間違いないからです。まずは人材に厚みをつけ、次のステップとしてその組織が自走する仕組みづくりが必要になると考えています。

――教員から畑違いの業界に飛びこむことに戸惑いはありませんでしたか?

教師をしていた頃から、事業を立ちあげたいと考えるようになっていました。戸惑いよりも、この事業を成し遂げたいという想いが勝っていました。

――社長に就任して苦労したポイントは?

苦労や失敗はたくさんありますが、若手をうまく育てられなかった、というのが一番大きいかもしれません。自身がプレーヤーであったため、若手とじっくりコミュニケーションが取れず、会社のビジョンや理念、目的などをうまく伝えられていなかったのだと思います。何のために仕事をしているのかが不明確で、枝葉の議論に終始してしまう。その結果メンバーにはやらされ感が出てしまい、その上、高いハードルを設定し続ければ心は折れてしまいます。それが離職につながっていたのだと思います。

採用してもそのサイクルの繰り返しとなり、採用する側もストレスが溜まる状態でした。ただそれからは、伝え方を工夫してその悪循環から抜け出し、「何のために自分が経営をしているのか」を自問自答しました。最近では信じて任せられる人材が育ってくれ、今では会社のビジョンに共鳴したメンバーが自然と入社するようになっています。

ハウスジャパンが手がけた住宅の一例
ハウスジャパンが手がけた住宅の一例(画像=株式会社ハウスジャパン)

土地探しからのトータル提案ができる会社が強くなる

――新型コロナウイルスの感染拡大によって都市部一極集中型の住環境が見直されてきました

当社のように、トータルで提案できる会社の強みが発揮できる時代になったと考えています。都市部のマンションに住んでいた人が、郊外に一戸建ての家を買いたい。こうしたニーズが顕在化するためです。住宅販売会社の場合、家だけを売りたいと考えがちです。不動産売買は手続きや法規制で面倒なことが多く、手を出しにくい領域だからです。これは不動産販売会社が住宅の提案を行う場合も同様です。

当社であれば、マンションの売却、土地探し、注文住宅の提案、建築まですべてを一貫して行えます。顧客から見ると、一連のステップを切り分けて考えるのは面倒で大変です。例えば、マンションがいくらで売れて、金融機関からどれくらいお金が借りられるのか。引っ越し先の土地の相場はどれくらいなのか。それを把握している人はほとんどいません。そして、それは不安でしかありません。その不安感を安心に変えられるのは当社ならではの強みです。

――コロナで消費者の意識はどのように変化しましたか?

「おうち時間を大切に」と考えている人が多いです。カフェスペースを設けて家族で一緒にいる時間を長くしようとするのが、その一例です。また、家の中で気軽に運動ができるようヨガスペースを設けたいという声もありました。これも家の中での生活を健やかにしたいという表れです。

新型コロナウイルスによって、家という空間が見直されました。これまでは、食事をする、眠る、休日を家族で過ごすという軸で見ている人が多かった。そこにデスクワークやテレビ会議、運動、平日昼間の家族の過ごし方といった、別の視点が生まれました。この変化に機敏に対応できるのは、注文住宅ならではだと考えています。顧客から要望を引き出すヒアリング力と、それを実現するための提案力がこれまで以上に試される時代になるでしょう。

――会社での働き方も変わりましたか?

もちろんです。特にデジタルの導入が進みました。不動産、建築業界は比較的ITに疎いと言われていた業界です。それがコロナで一息に進みましたね。4月にはすぐにテレワークを導入し、出社しなくても働ける状態を作りました。マーケティングでも動画やSNSの活用が進みました。

当社のエリアでは、コロナで住宅販売数が2割ほど落ち込みました。相談にやってくる人そのものが減少したのです。他の郊外エリアは増加していると聞いていますが、ここでは真逆の現象が起こったのです。原因ははっきりとはわかっていませんが、大企業を中心に外出を控えるよう通達が出たのかもしれません。

いずれにしろ、相談に来るのを待つだけの営業に限界を感じました。情報を発信して当社を見つけてもらい、興味関心を引いて問い合わせにつなげる必要があります。SNSは認知を得るきっかけとなり、動画は興味を引きます。デジタルの活用は当社に限らず、業界全体で進むでしょう。

――これからはどのようなことに力を入れようと考えていますか?

新しい事業を立ちあげるというよりも、引き続きメンバーの教育を重点的に行います。スキルやノウハウを教えるのではなく、当社のメンバーとしてのマインドを育てたい。これはこの会社だけで通用するものではなく、社会で活躍するためのものです。その活躍を裏で支える組織にしたいと考えています。

私は100年後の世界を良くしたいと考えていますが、それはいい組織があってこそのものです。家族のように思いやりがあり、エゴを捨てて仲間の成長をともに喜び合える組織が理想ですね。