特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

千葉で創業し、建設工事および設計・施工について「安心して任せられる技術力をもつプロ集団」としての評価を確立している株式会社奥山 一級建築士事務所。中国へも進出し多数の大規模建設プロジェクトに参加するなど、大きな実績をあげている。また2010年には、個人住宅向けのリフォーム事業にも進出。新型コロナウイルス感染拡大により不透明感が増すなか、採用と教育による人材のレベルアップに着手している。

(取材・執筆・構成=高野俊一)

株式会社奥山 一級建築士事務所
(画像=株式会社奥山 一級建築士事務所)
奥山 栄臣(おくやま・しげおみ)
株式会社 奥山代表取締役社長
1975年千葉県生まれ。明治大学卒。
初代社長である父親の奥山泰弘氏が2004年に逝去、奥様の絵美氏が2代目社長を務めていたが、2015年に3代目として社長に就任した。

中国への事業進出で大きな実績

――最初に株式会社奥山の、設立から現在までの経緯を教えてください。

株式会社奥山は1974年に、父と母が二人ではじめた会社です。不動産会社の営業をしていた父が独立し、最初は株式会社奥山不動産として不動産会社を立ち上げました。しかし、当初事業の中心だった建て売り物件の販売がなかなか利益を出せませんでした。そこで、建築材料の販売もはじめることになりました。すると、美装工事の施工も一緒にできないかという相談があったのです。美装工事とは、物件の引き渡し前に行う養生、およびクリーニングのことで、これが現在当社の主力事業の一つになっています。

その後、株式会社奥山に社名変更し、設計部を立ち上げることになります。その当時、中国はまだ発展途上国でした。初代社長はその発展に目をつけ、中国で事業を行うことになりました。中国の留学生を呼び寄せ、日本式の図面作成を覚えて帰ってもらうなどしています。中国が外資の力を入れて発展しようとしていた時代だったため、日系企業も多く進出していました。当社は日系のゼネコンと連携し、施工図を書いたり内装工事を行ったりしてマンションや工場、ビルなどの建設に数多く関わりました。仕事が増えてきたため、1995年には中国に現地法人も設立しました。

日本はバブルが弾けるなどして厳しい状況もあったものの、2000年には自社で設計・施工のビルを建設するなど、設計・施工の仕事も徐々に手掛けるようになっています。そして2015年、創立40周年記念式典と同時に私が3代目社長に就任いたしました。

――御社の事業内容をお聞かせください。

当社の事業は大きく分ければ、工事系の仕事と設計・施工系の仕事になります。工事系は前述の美装工事です。設計・施工系では、設計図面をもとに施工図面を作成します。この2つが大きな柱になっており、そのほかに注文住宅やリフォームなども、限られたお客様に対してではありますが手掛けています。派遣事業は、施工図面作成の技術者を派遣しています。

株式会社奥山 一級建築士事務所
(画像=株式会社奥山 一級建築士事務所)

――中国での事業について詳しく教えてください。

中国に進出するきっかけは、まず初代社長の奥山泰弘に、これからの発展を見込んで「どうしても中国でビジネスをしたい」との強い思いがあったことです。また、ゼネコンの社員でお付き合いがあった方が、中国へ異動して仕事をするというタイミングも重なりました。ならば、一緒に中国へ行き、何かビジネスができないかを考えよう、ということになったわけです。

中国での事業は、苦労は多くあったようです。特に、「人づてでないとビジネスが進みにくい」という中国の習慣には悩まされたと聞きました。人間関係を作るため中国から学生を呼び寄せるも、「この人なら大丈夫だろう」と聞いていてもうまくマッチングしなかったり、紹介してくれるはずの人を紹介してもらえなかったり、などのことは多数あったようです。そのような苦労をしながらも多くの人に当たるうちに、徐々に人間関係ができ、物事が進むようになったそうです。

中国では大規模な建物の建設に多数関わっています。千葉を中心とした日本での仕事は中規模の建物が中心で、大規模なものはそれほどありませんでした。ところが中国の仕事はケタが違い、非常に大きなプロジェクトが多数あります。そのようなプロジェクトに日系ゼネコンの監理下で、内装工事などで参加しています。

――中国で事業展開される際のセールスポイントはどのようなものになるのでしょうか。

当社のホームページにも書いているとおり「中国国内並みの低コストで、日本国内並みの高品質な仕上がりを提供」することです。ただし近年では、中国でも地場の業者のレベルが上がってきています。そのため、品質での違いを生み出すのは難しくなりつつあります。

中国進出をした当時は、品質の違いは大きかったです。日本式の建物を建てる際には工事に高い精度を求められるわけですが、中国の業者はまだまだそれができませんでした。内装工事を例にあげれば、壁のクロスはクロス同士が重ならないように貼っていくのが日本では普通ですが、中国の業者は平気で重ねて貼ってしまいます。そのような違いがありましたので、日本式の管理を行い、日本人を常駐もさせたうえで中国人ワーカーを使う当社は、低コストかつ高品質を実現することができました。

株式会社奥山 一級建築士事務所
(画像=株式会社奥山 一級建築士事務所)

「安心して任せられる技術力をもつプロ集団」のブランドを浸透

――千葉県にも建設業者は多数あるかと思います。そのなかでの御社の強みや特長はどのようなことになりますか?

まず、養生・クリーニングを行う美装工事は、千葉県内では当社が草分けであることです。また、長年にわたって事業を行い、千葉幕張新都心の半分を手掛けた工事実績により取引先のゼネコンなどから高い信頼を得ていることも強みです。施工図技術者派遣については、多くのゼネコンからスキルのレベルの高さと、丁寧な仕事を行うことで評価を頂いております。

――2010年にはリフォーム事業「いい家倶楽部」をスタートしました。この事業について詳しく教えてください。

当社はこれまで、大手5社をはじめとするゼネコンなどと取引を行うBtoBが中心でした。前述のとおり当社のBtoB事業は、工事系と設計・施工系が2本柱となっています。しかし、これからは個人のお客様にたいするBtoC事業も強化していきたいと考え、当社がこれまでBtoB事業で培った技術を活かせるリフォーム事業に進出しました。

――BtoBとBtoCでは、営業手法一つとっても違いが大きいと思います。苦労された点などはありますか?

BtoBでの仕事は、信頼を得た取引先からくり返し受注する、あるいは紹介によって受注するなどのことがあります。しかし、BtoCでの仕事は、何もない真っさらなところから受注につなげなければなりません。その点に一番苦労しています。

――昨年発生した新型コロナウイルス感染拡大の御社にたいする影響や対策などはどのようなものがありますか?

建設業界ですので、工期が決まった仕事はその工期までに仕事を終えなくてはなりません。そのため、一部ゼネコンが自主的に工事を止めたなどのことはあったものの、すでに受注している仕事については大きな影響はありません。

――最後に、今後の目標や展望を教えてください。

今後については、オリンピック後も東京では、新しい再開発プロジェクトなどがまだまだあるため、2022年~2023年はまた忙しくなると見ています。ただ、テレワークの普及などがオフィスビルの需要に影響を与えるかもしれません。その後については不透明だと思っています。

当社は「人」が重要な財産だと思っています。したがって、今後も人材採用を継続するとともに、教育をレベルアップさせていきたいと思っています。将来的に仕事が少なくなり、叩き合いなどでコストが厳しくなった場合も、何事にも誠実に、一期一会の精神を社員一同共有して、社員のレベルアップにより生き残れるようにしていきたいです。

また、ブランド戦略にも力を入れたいと思っています。「安心して任せられる技術力をもつプロ集団」としての企業価値をもつ奥山ブランドを、千葉県内はもとより、東京も含めた広いエリアに浸透させていきたいと考えています。