特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
オールハウスは1976年創業。広島県を中心として賃貸や売買仲介を主軸とし、注文住宅事業にも参入したことで成長してきた。2019年6月期の売上高は20億円。近年では保険事業などの多角化を進めている。地域の情報を発信するオウンドメディアを活用したマーケティングや、クラウドシステムを使ったペーパーレス化など、生産性を高めるための仕組みづくりをいち早く導入している。
(取材・執筆・構成=不破聡)
大学卒業後、1996年にオールハウス入社。2015年に代表取締役就任。現在6つの既存事業部と経営戦略部に加え、保険事業の「MILIFEPLUS株式会社」、職人事業「クラステック株式会社」を設立。さらに、住まいに関するWebメディア「オルラボ」や「廣島スタイロ」などをリリースした。
保険事業進出で提案力を強化
――財務管理のコンサルティングをしていた会社から建築へと軸足を移しました。
私が入社した当時は社員数が3名ほどの会社でした。コンサルティングから賃貸、個人住宅の建築・販売、リフォーム、不動産管理へと少しずつ事業を多角化しました。現在、社員は53名で売上は20億円を超える規模にまで成長しました。3年後に売上30億円を目標としています。
――2018年に保険を扱う子会社MILIFEPLUSを設立しています。
建築や不動産業は提案力で顧客満足度を上げることが重要です。その幅を広げる必要がありました。賃貸住宅のオーナーは不動産そのものよりも、資産形成に対して興味関心を持っています。投資型の保険商品を提案することによって、本質的なニーズにタッチできます。
幸いにも政府も高齢化社会に向けた優遇制度を設けています。iDeCo、NISAなどがその顕著な例です。こうした制度によって提案できる幅が広がっていると感じています。
――職人を直接雇用する子会社クラステックで働きやすさも追及しています。
現在3名の職人が在籍しています。大工などの職人は、若者離れが加速しています。背景には社会的な補償が薄く、休暇が少ないなどの労働条件の問題があります。こうした不安を払拭するために直接雇用する形をとりました。
また、外部に委託するよりも、自社の方が融通が利くという面もあります。今後は当社が建てた物件に限らず、住まいの補修や修理などを行いたいと考えています。例えば水漏れは水道管だけの問題ではなく、床などの建材にも傷みが発生しているケースが多い。建築物をトータルで見られる職人を派遣することによって、総合的な判断、提案、補修ができるというわけです。
――新型コロナウイルス感染拡大の影響は?
売上や内部体制に大きな変化はありませんでした。当社はもともとデジタルの活用による生産性向上に力を入れていました。経費の精算などは社員のスマートフォンでできるようにしていましたし、取引業者との支払いもクラウド上で完結できます。ペーパーレス化はコロナ前に済んでおり、大きな混乱はありませんでした。ITスキルの高い社員が多いため、テレワークもすぐに導入できました。
顧客に対しては、訪問する必要のないオンライン内見会を実施しました。反応は上々です。オンライン上で物事が進行するのは、コロナによって“当たり前”という消費者意識ができました。直接見るのとオンラインで見る内容のギャップをなくすことが、今後は重要になると考えています。
コンテンツマーケティングで情報発信にも注力
――2018年に住宅情報のメディア「オルラボ」と広島の情報を発信する「廣島スタイロ」をリリースしました。
当社の認知を得るためのコンテンツマーケティングの一環です。「オルラボ」は住宅を建てる上での素朴な疑問や、リフォームする際の注意点など、読者の不安を解消する読み物をメインとしています。会社の宣伝記事だけではありません。有益な情報をそろえ、疑問に真摯に答える記事を提供することで、読者が当社に興味を持ってくれます。
「廣島スタイロ」は広島で活躍する人にスポットを当てたメディアです。広島の魅力や地域に根差した情報を発信することで、街の活性化が進むと考えています。また、コロナによって都市部に集中する暮らし方からの転換が起こりました。そのような中で広島に興味を持ってもらうことは、当社にとってもメリットが高いです。
――こうしたメディアは志半ばで終わってしまうケースが多いです。
経営者にどれだけ理解があるかだと思っています。採算性だけを取り出して計算してしまえば、無駄という判断になってしまうかもしれません。しかし、地域文化の発信と社会貢献で会社の信用度は増しますし、人や企業とのつながりが増えるなどのメリットも多くあります。それを総合的に見て判断することが重要です。
――昨年11月にはかばんの老舗「べっぴん店」とのコラボレーション商品が生まれました。
広島で活躍するグラフィックデザイナー・新谷裕太氏を起用したエコバッグを販売しました。べっぴん店は創業127年を迎える歴史ある会社です。メディアの運用を通して新たなビジネスが生まれ、地域密着型の商品開発として形になるのも醍醐味の一つですね。
生産性をさらに引き上げて目標30億円を狙う
――福山エリアに新たな単独展示場を設けました。
事業を多角化するのと同時に営業拠点も広げています。そうしたときに、デジタルをどれだけ活用できるかがポイントになります。エリア拡大に伴って事務所を構え、事務員を雇い入れていたら時間と費用がかかります。経費や勤怠、収益管理などをすべてクラウド上で行えば、営業マンだけで済んでしまいます。
――全国的に賃貸住宅は建物の老朽化が進んでいます。管理業務の伸びしろもありそうですね?
引き合いは強いです。多くのオーナーは、建物が古くなると家賃を下げなければと反射的に考えてしまいます。できるだけ多くの入居者を集めたいですから、そう思うのも当然です。しかし、私は必ずしも値下げが必要だとは考えていません。リフォームによって不動産価値を上げるという選択があります。 今の消費者は、お金をかけるところとかけないところの差がはっきりしています。興味のあるものにはお金をかけ、それ以外のものには極力お金をかけたくないというものです。新型コロナウイルスの感染拡大により、家で過ごす時間が増えました。テレワークで自宅を他の人の目にさらしたり、SNSで身近な空間を発信する機会が増えたりしています。
賃貸住宅のリフォームによって、雰囲気をガラリと変えることは可能です。気に入った部屋であれば、多少家賃が高くても部屋を借りる人は多いです。こうした提案ができるのも当社の強みです。
――建物を一括で借り上げてマンスリーマンションとして提供する事業も行っています。
ビジネスシーンでは、人が集まりやすいホテルよりもウィークリー、マンスリーマンションを選択するケースが増えました。当社は広島市内を中心に4拠点の相談窓口を持っており、部屋探しをする人との接点を多く持っています。
また、賃貸情報に特化したポータルサイトの運営も行っています。Webによって広島以外の人にリーチできるようにもなっています。