特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
株式会社アキュラホームの完全子会社である株式会社オカザキホームは、三河エリアを中心に注文住宅の建築販売を行っており、年間90棟を手がける。2020年3月には、アキュラホーム浜松支店、名古屋支店の経営をV字回復させた前原康宏氏が社長に就任。コロナ禍という難しい状況の中で、さまざまな手を打って会社を浮上させ、売上前年比130%と黒字化へと導いた。
(取材・執筆・構成=不破聡)
1966年大阪府生まれ。広島大学卒。
大手外食サービス企業に入社するも、改めてマーケティングや経営学を学ぶため、大手コンサルティング会社に転職。その後、「現場」での実践経営を学ぶため、また高齢化社会を見据えて、病院・福祉施設のサービス・経営マネジメント会社に勤務した。さらにアメリカ留学で学んだ「コミュニティベースドヘルスケア」(地域包括ヘルスケア)の考え方をもとに起業するが、地域密着のサービスで「住まい」を変革することの必要性を感じ、アキュラホームに入社。全国の工務店ネットワーク「ジャーブネット」の責任者となり、工務店の経営改革、急成長を支援、さらにアキュラホーム浜松支店、名古屋支店の経営をV字回復させ、現職に至る。
コロナ禍で受注30%増を記録できた要因
――新型コロナウイルス感染拡大の影響があったにもかかわらず、受注が前期比130%と好調でした。
私が代表取締役社長に就任したのが2020年3月です。新型コロナウイルスのニュースがかけ巡り、翌月には前代未聞の緊急事態宣言が発令され、就任早々から前途多難な船出となりました。4月の集客は前期比90%減と見たこともない数字でしたが、6月から段階的に回復させていくことができました。
――どのような対策をしたのでしょうか?
アキュラホームグループ全体でも取り組んでいますが、オカザキホーム単独でもオンラインセミナーなど非接触型のビジネスを推進しました。オンラインセミナーでは、購入プランや資金計画などお客様の個別のご相談を中心に、コロナ禍で来店が難しいお客様ともZoomを通じて積極的にコミュニケーションを取らせていただきました。
またWebとチラシのメディアミックス戦略も良い結果につながりました。昨年4月の緊急事態宣言発令によって人の移動が急激に減りました。これを受けてWebでの集客に大きくシフトしようとも考えたのですが、力を入れてもすぐに成果が出るわけではないので、ホームページの動線を変えるなどリニューアルを進めながら、同時にチラシによる集客も進めました。
2020年は、お客様がリアルに生活を感じられる「まちかどモデルハウス」を10棟以上建て、集客するためのチラシにQRコードをつけました。すると、来場予約が2019年と比較して30倍に増えたのです。その上、予約の際にアンケートを記入していただくので、そのお客様の属性にマッチする、ご要望に応えられる営業マンをアサインすることができ、契約率も上がりました。コロナ禍で生まれたこの新しい営業の形を習得できたのは大きかったです。
――昨年の緊急事態宣言下では、受注以外の影響などはなかったのでしょうか?
4月頃は全くお客様がいらっしゃらなかったので、気持ちが沈んでしまう社員もいました。そこは難しいところでしたね。そうした中でいかに成果を上げていくか、そのためにどうしていくべきかを考え、幹部たちとしっかり話し合い、具体的な行動に落としこんでいきました。そして全員のベクトルを一致させ、道筋を示して社員のモチベーションを上げ、ようやく6月頃から、先ほどお話したような取り組みから結果も出始め、最終的には受注を前年比130%まで伸ばすことができました。
――オカザキホームは、女性スタッフが中心になってつくった「ママ・クチュール」などモデルハウスが強みの一つとなっています。
私自身、40歳を過ぎてこの業界に入ったのですが、率直に古い体質が残っているなと感じました。外資があまり入っていないですし、大きなお金が動くこともあって慎重なところもあり、他の業界からは遅れているなと。それは商品開発にも表れていました。
現在は共働きの家庭が増えています。にもかかわらず、働く女性を応援するような住宅がなくて、あっても男性が設計した家だったりするんです。実際働きながら家事もするママ、子育てをするママと子どもたちのことを考えていないのではと感じて、まずは女性スタッフや社員の奥様などのご家族たちから自由なアイデアをたくさんいただきました。そして、それらをもとに女性スタッフを中心にママ・クチュールをつくりました。
――オカザキホームは不動産にも積極的に投資しています。
各営業所に不動産課があり、宅地を保有しながら開発も行っています。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって開発案件がストップしてしまいました。もともと一定の売上がありコロナ禍の影響で下がったわけですが、10%以上下がったことにより新型コロナウイルス感染症特別貸付を受けられることになりました。そこで、将来的に着工数を増やしていくことを見据えて積極的に投資を行い、それがさっそく実り受注増につながっています。
年間受注300棟まで引き上げ、三河エリアナンバーワンに
――順調に売上を伸ばす中、この先はどんな戦略を描いているのでしょうか?
弊社は一般のご家庭から年収800万を超える高所得の方々まで幅広い層のお客様に住宅をご購入していただいています。そこで、現在の中間層にあたる方々向けの価格帯だけでなく、お手頃な価格のブランドと、アッパー層向けのブランドの2つを秋頃から展開しようと考えており、それによってエリア内のシェアを広げていければと。ブランド数が増えれば、対象のお客様も増えるので、売上増にもつながっていくと思います。
また今後もメディアミックス戦略を推進しながら、リニューアルしたWebサイトでの集客をさらに強化していきます。IT化については集客だけでなく、建築現場にも採り入れており、専用のソフトも導入しています。例えば、現場監督がスマホなどをとおして遠隔で現場に指示を出したり、資材の発注などをしたり、効率化を図りながら、また品質向上にもつなげています。
――事業拡大のためには採用や育成の強化も必要になります。
未経験者も含めて採用は積極的に進めています。これまで住宅業界は営業マンそれぞれの個人戦のような営業スタイルでした。しかし、これから規模を大きくしていくにはチームで目標を立て、組織営業で取り組んでいくことが大事だと考えています。それぞれが持っている特徴を育てながらも、個人のスキルだけに依存することなくチーム全体で結果を出す。そうした視点で採用、育成を進めていきます。
――オカザキホームはアキュラホームグループの工務店ネットワーク「ジャーブネット」の先導役となるSABM(スマート・アライアンス・ビルダー・メンバー)第1号に選ばれたそうですね。
現在は10数社ですが、今後3年ぐらいかけて各都道府県に1社以上、全国計50〜70社まで増えていく予定です。この業界が大きな転換期などを迎えた時に1社単体で生き残るのが難しくなりますが、こうしたネットワークで連携しておけばどんな状況にも対応できるはずです。SABM各社は競合する部分もありますが、「永代家守り」というアキュラホームグループの想いを共有する同志であり、情報交換やお互いの学びという面で大きなメリットがあります。
――SABMというポジションにいる中でどんな企業に成長させていきたいですか?
「コミュニティベースド」(地域密着型)のビジネスモデルで成長させていきたいと考えています。お客様に愛され、地域の方々が誇れる企業になる。そうなれば、事業も成長していきますし、社員が物心ともに豊かになり、関わるすべての人がハッピーになっていきます。具体的な目標として、現在の年間受注数90棟を2025年に300棟まで引き上げ、三河エリアナンバーワンとなり、社員の報酬も大幅に上げていければなと。
オカザキホームには注文住宅建築や集客などに加えて、不動産仲介や土地開発といった強みもあります。こうした特長を最大限に活かしながら、地域密着型企業としてほかのビルダー様の模範となれるように、オカザキホームを起点として「コミュニティベースド」ビジネスモデルを全国展開できればと考えています。