「歯科衛生士は転職が多い」といわれており、それに悩んでいる医院長も多くいらっしゃることと思いますが、本記事ではまず歯科衛生士の転職の実態について解説します。次に歯科衛生士が転職する3つの理由に触れた後、自院の歯科衛生士の離職を防ぐポイントを説明していきます。
歯科衛生士の転職の実態とは
歯科衛生士の転職の実態について、次の順で解説します。
- 転職率
- 転職の意思
- 勤務先別の転職事情
まずは転職の実態を知ることで、離職を防止するポイントを押さえましょう。
歯科衛生士の転職率
日本歯科衛生士会「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」(2020年3月)によると、歯科衛生士全体のうち転職経験がないのは22.2%で、およそ8割が「転職経験がある」と回答しています。就業形態別の転職回数と割合は以下の通りです。
【常勤】
- 勤務先を変わったことがない:33.1%
- 1回ある:21.0%
- 2回ある:14.7%
- 3回ある:14.0%
- 4回以上ある:16.5%
【非常勤】
- 勤務先を変わったことがない:7.3%
- 1回ある:21.8%
- 2回ある:22.2%
- 3回ある:22.6%
- 4回以上ある:24.7%
このデータを見る限り、特に非常勤では転職経験者の割合が高いことが分かります。
歯科衛生士の転職意思
前掲の調査報告書によると、「転職または現在の勤務先を替えたいと考えたことがない」と回答した歯科衛生士は全体の35.3%、「現在考えている」は17.3%、「考えたことがある」は45.9%でした。
つまり、全体の6割を超える歯科衛生士が、勤めながら「転職を考えている、または考えたことがある」と回答していることになります。
勤務先別のデータとしては、診療所で常勤として働く歯科衛生士の約3割が転職を考えたことがなく、この数字は非常勤を含む全体の比率よりもやや低くなっています。
勤務先別の転職事情
前掲の調査報告書で勤務先の変更経験(常勤)を見ると、勤務先を変わったことがない歯科衛生士の職場別の割合は以下の通りでした。
- 歯科健診・保健活動機関:53.1%
- 病院・大学病院:40.0%
- 診療所:35.3%
- 障害者歯科診療所等:34.9%
- 行政:34.3%
歯科健診・保健活動機関は、転職経験のある歯科衛生士の比率が比較的少ないことがわかります。診療所に関しては、病院よりも転職経験者は多いものの、障害者歯科診療所や行政よりは若干少ないといえるでしょう。
歯科衛生士が転職をする理由
歯科衛生士が転職する主な理由として次のものが挙げられます。
- 家庭の事情
- 職場環境・待遇
- キャリアアップ
前掲の「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」を元に詳しく見ていきます。
家庭の事情
転職経験がある歯科衛生士の転職理由として最も多かったのは、「結婚」(29.3%)や「出産・育児」(28.7%)といった家庭の事情です。転職経験者の約6割が、これらの理由で勤務先を変更しています。
歯科衛生士のうち99%以上が女性なので、結婚や出産といった家庭の事情に影響されやすい面があるようです。
働く環境・待遇
転職経験がある歯科衛生士の転職理由として次に多かったのは、以下のような職場要因です。
- 院長との人間関係:29.0%
- 給与・待遇の面:22.3%
- 仕事内容:22.0%
歯科衛生士はどの歯科医院でも人手不足で負担が大きく、それが士気の低下やギスギスした雰囲気につながることがあります。
人間関係の問題として具体的に挙がっているのは、同僚などの女性同士の人間関係ではなく「医院長との関係」であるところに注目です。経営者との関係が良くないと転職にもつながりやすいようです。
キャリアアップ
転職経験がある歯科衛生士の理由として他に挙げられていたのは、「仕事内容のレベルアップのため」といったキャリア要因です。
歯科衛生士の対応範囲は広く覚えることはたくさんあり、活躍の選択肢も多いので、成長を目指す歯科衛生士にとっては「成長できる職場かどうか」が仕事を選ぶ際の重要なポイントになります。スタッフの成長には、外部の専門家を招いての勉強会や、院内の先輩から後輩へレクチャーする機会を設けることも有効です。
歯科衛生士の離職を抑えるポイント
歯科衛生士の離職を抑えるには、3つのポイントがあります。
- 家庭と両立しやすい環境作り
- 職場風土の改善
- 人への投資
前掲の「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」を参考に、それぞれ具体的に見ていきましょう。
家庭と両立しやすい環境を作る
歯科衛生士は女性が多く、家庭との両立という課題を抱えている人も多いです。時短・フレックス制度といった家庭との両立をしやすい仕組みを作ったり、いったん離職しても研修制度を充実させて復職しやすくしたりして、転職・離職を防ぎましょう。
一般的に歯科衛生士は、20代後半~30歳までに結婚や出産といった家庭の事情で離職し、35~40歳以降で復帰を考える傾向があるので、スムーズに復職できる環境の整備は大切です。
職場風土を改善する
現在、非就業の歯科衛生士が、最後に働いていた職場に対して最も改善して欲しかったことは「院長等、職場の人間関係」(14.8%)という結果でした。人間関係の悩みを減らすことは歯科衛生士の転職を抑えるために欠かせません。
職場風土を改善するには、院長自身がコミュニケーションの重要性を自覚し、歯科衛生士らスタッフの意見や質問に対してしっかり傾聴することを意識するとよいでしょう。
なお、「歯科経営情報レポート」によると経営が良好な歯科医院はコミュニケーションが活発とされており、職場風土を整えるのは経営の健全化のためにも大切といえます。
キャッリアップ環境構築のため積極的に人へ投資する
退職理由として「待遇や福利厚生への不満」も多く、給与・賞与や福利厚生の充実は歯科衛生士の引き止めに重要です。社会保険完備も当たり前なので、個人経営の歯科医院でもスタッフを雇用する際は整備しましょう。
また、歯科衛生士の成長機会を確保するためには、外部の専門家を招いての勉強会や、院内の先輩から後輩へレクチャーする場を設けることも有効です。
実際、「歯科経営情報レポート」によると、売上が1億円を超える歯科医院は人件費率が高く、人に投資をしている傾向があります。
まとめ
歯科衛生士の転職の実態として、全体の約8割が転職を経験していることを紹介しました。転職理由で多いのは、「結婚」や「出産・育児」といった家庭の事情ですが、働く環境や待遇を理由に転職する歯科衛生士もいます。
自院の歯科衛生士の離職を抑えるには、積極的なコミュニケーションで職場風土を改善し、待遇や福利厚生を充実させ、復帰しやすい仕組み作りを整備することがポイントとなるでしょう。
《情報収集で参考にしたサイト》
引用元:日本ビズアップ株式会社 2019年決算データからみる歯科診療所経営実績分析 参照2019年経営実績とその傾向
(提供:あきばれ歯科経営 online)