本記事では、まず歯科医院(歯科診療所)がキャッシュフロー経営を意識する重要性について解説します。その後に具体的なキャッシュフローの計算方法やキャッシュフローの改善で意識したいポイントについても詳しく説明していきます。

歯科医院がキャッシュフローを意識する重要性

歯科医院がキャッシュフロー経営を行う重要性と計算方法・改善法
(画像=Sebastian Duda/stock.adobe.com)

歯科医院の経営はキャッシュフローを意識することが重要といえます。なぜなら、財務会計上は利益が出ていても、手元に残るキャッシュが少ない場合があり、医院経営が継続できなくなるケースもあるからです。

例えば、売掛金が多くて入金時期が遅れる、かつ仕入れや設備のリース料金といった支払い費用は毎月決まった時期に支払わなければならない、といったケースがあります。このような場合は手元に残るキャッシュが少なくなりがちでしょう。

特に歯科医院は、開業時に設備投資などで多額の支出があり、その後もリース料、材料費、テナント料やスタッフの人件費といった変動費・固定費が発生しますし、経費に含まれない支出として、10万円以上の資産の購入(減価償却対象のもの)、借入金の返済、税金の支払い、個人の生活費もあります。

経営を安定させるには、キャッシュの流れを健全化するキャッシュフロー経営が重要です。キャッシュフローを意識していれば資金繰りが楽になるので、必要な時に思い切った投資もできるでしょう。

歯科医院がキャッシュフローを計算する方法

歯科医院のキャッシュフローの計算方法は、キャッシュフロー項目の洗い出しを行った後、営業、投資、財務のジャンルに分けて算出し、最後に合計額を計算します。それぞれ見ていきましょう。

キャッシュフロー項目の洗い出し

まずはキャッシュフロー項目を洗い出します。キャッシュフロー項目とは会計上の処理とは異なり、「キャッシュの動きが発生した項目」を指し、歯科医院のお金の実態を表す重要な項目です。

例えば借入金が増えると手元にキャッシュが増えるのでキャッシュフロー項目に計上しますが、会計上の損益計算書には記載しません。また損益計算書上は赤字でも、手元にキャッシュが残っている場合もあります。

このような損益計算書では把握が難しい「お金の流れ」の記録を行うのがキャッシュフロー計算書です。つまり、通常の財務会計ではなく、あくまでもキャッシュの動きを追うという点がキャッシュフロー計算書のポイントといえます。

営業キャッシュフローの計算

営業キャッシュフローとは、歯科治療などの本業によるお金の動きを表します。設備などの「減価償却費」は会計上、経費になりますが、実際に現金を支出しているわけではないので、キャッシュフロー計算の際は足し戻す必要があります。

「売上債権」の増加は売上が発生していることを示すので会計上は好ましいことのように見えますが、実際には入金が遅れてやってくるので、現金の流出と同様に考えます。投資キャッシュフロー・財務キャッシュフローに含まれないお金の流れも営業キャッシュフローに分類され、法人税の支払いなども含まれます。

また、個人立の歯科医院の場合、個人の所得税・生活費も実質的な支出として計算してみてもよいでしょう。

投資キャッシュフローの計算

投資キャッシュフローとは、医療機器や歯科医院の設備、建物などの資産に関するお金の動きを表します。例えば高額な医療機器を購入した場合、会計上は減価償却費として数年にわたり分割計上しますが、実際には購入時に多額の支出が発生しています。

積極的に医療機器などに投資している歯科医院の場合、投資キャッシュフローの数字がマイナスになることもありますが、将来的な医業収益のために必要な支出であれば悪い支出とは限りません。

こういった設備投資などのキャッシュフローの流れを把握することで、自院に残る手元現金が分かりやすくなります。

なお、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いた最終的に手元に残るお金のことを「フリーキャッシュフロー」と呼び、これが多ければキャッシュが創出できている状態です。

財務キャッシュフローの計算

財務キャッシュフローには、一般的な企業であれば投資家からの出資も含まれますが、歯科医院の経営においては主に借入金関係を表します。短期的な借入、長期的な借入ともに財務キャッシュフローに計上します。

大規模な医療機器を購入する場合の借入、開業・リフォーム工事を行う場合の借入などは、会計上は損益計算書には計上しませんが、実際には多額の入金が発生しているので、財務キャッシュフローに含みます。

また、元本返済する際も、会計上は損益計算書には計上しませんが、実際には支出が発生しているので、財務キャッシュフローとして計上します。

最終的な財務キャッシュフローがプラスになれば、借入金が返済額よりも多い状態です。

期間内の合計キャッシュフローの計算

営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローを一通り洗い出した後、一定の期間分をまとめて合計キャッシュフローを算出します。

その結果、合計キャッシュフローがプラスなら問題ありませんが、プラスマイナスゼロ、もしくはマイナスの場合は支出過多に陥る危険があるので注意が必要です。

このように損益計算書や貸借対照表では把握できない「お金の動き」を把握できるのがキャッシュフロー計算書を作成するメリットといえるでしょう。

歯科医院がキャッシュフロー改善で意識したいポイント

歯科医院のキャッシュフロー改善のポイントとして、以下の3つがあります。

  • 入出金サイクルの改善
  • 在庫・資産の見直し
  • 資金計画の作成

入出金サイクルを整える

キャッシュフローを改善するには、「入金は早く、支出は遅く」が原則です。例えば、クレジットカードなどの決済サービスを導入しており、入金が遅い状態なら入出金サイクルを工夫する必要があるでしょう。

他にも、材料費などを仕入れるための支出を遅くできれば、入出金サイクルの改善につながります。しかし取引先との信頼関係を損なうリスクがあるので、あくまでも可能な範囲で考えることが大切です。

在庫・資産を見直す

在庫が増えている場合は仕入れサイクルを見直したり、遊休資産があるなら売却を検討します。

在庫管理は整理、整頓、清掃、清潔、躾の「5S」が基本です。場合によっては在庫管理システムの導入も検討します。

また、稼働していない事務用設備(旧型のパソコンなど)があれば、遊休資産として売却することで、キャッシュフローが改善される可能性があります。

資金計画を立てる

歯科医院を経営するうえで資金計画は大切です。開業直後の借入計画だけでなく、開業後の資金繰りや収支計画も考えなければなりません。

会計上の損益計算書や貸借対照表だけではキャッシュフローの流れが追いにくいため、キャッシュフローをベースに、長期的な資金計画を立てましょう。

まとめ

歯科医院にとってキャッシュフローの意識は大切です。会計上は利益が出ていても、手元に残るキャッシュが少ない場合は何らかの改善が必要でしょう。

キャッシュフローの計算方法として、キャッシュフロー項目を洗い出した後、営業・投資・財務項目ごとにそれぞれ計算して、最後に期間内の合計を計算します。

キャッシュフローの改善ポイントは「入出金サイクル」と「在庫・遊休資産の見直し」です。その後に長期的な資金計画を立てるとよいでしょう。

《情報収集で参考にしたサイト》

引用元:日新税理士事務所 歯科医院の経営改善 在庫管理の見直し

(提供:あきばれ歯科経営 online