近年、厚生労働省を中心に「働き方改革」が積極的に推し進められています。その一環として実施された「パートタイム労働者・有期雇用労働者を守る法改正」は歯科医院にも深く関係しているので、きちんと把握しておかなければなりません。

そこで今回は、歯科医院におけるパートタイム労働法改正のポイントや働き方改革への対応、スタッフの待遇改善のために活用できるキャリアアップ助成金の概要などを解説します。

パートタイム労働法とは?法改正の3つのポイント

【2021年4月から】歯科医院におけるパートタイム労働法改正のポイント
(画像=ponta1414/stock.adobe.com)

働き方改革関連法の成立によって、従来のパートタイム労働法は「パートタイム・有期雇用労働法」に改正されました。多くの歯科医院を含む中小企業においては2021年4月から施行されます。そこで、法改正で特に押さえるべき3つのポイントをまとめました。

パートタイム労働法改正のポイント1:同一労働・同一賃金

同一労働・同一賃金を実現させるため、今後は正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間で、以下のような不合理な待遇差を設けることが禁止されます。

  • 正社員とパートの基本給に差をつけている
  • パートに対して賞与や通勤手当を支給していない
  • パートの福利厚生が正社員ほど充実していない

要するに「パートだから」「非正規雇用だから」といった理由だけで、給与や福利厚生に関して正当な理由なく差をつけてはならないということです。どのような待遇差が不合理となるのかについては、厚生労働省が策定したガイドライン(指針)に基づいて判断されます。

主な判断基準は業務内容や責任の程度、職務内容と配置の変更範囲などです。例えば、歯科衛生士の場合、経験年数が同程度であれば正社員もパートも任せる業務は変わらないケースが多いため、これだけで待遇差をつけるのは不合理と見なされる可能性があります。

このような法改正は、従業員労働者にとっては非常に重要なことなので、ほとんどのスタッフがよく学んでいると思ってください。必要に応じて社会保険労務士など専門家の手も借りながら、現状の制度で問題がないか見直してみましょう。

パートタイム労働法改正のポイント2:待遇に関する説明義務の強化

今回の法改正により、パートタイム労働者・有期雇用労働者は、事業主に対して「正社員との待遇差に関する説明」を要求できるようになります。

例えば、パートの歯科衛生士から「同じ仕事をしているのに、なぜ正社員の歯科衛生士より賃金が低いのか」などといった質問が来たら、合理的かつ具体的な理由をもって回答しなければならないということです。また、医院側は説明を求めてきたスタッフに対して、解雇などの不利益な取り扱いをすることも禁止されています。

説明の形式などは特に定められていませんが、口頭だけでは細かい内容まで伝わらない可能性があるので、何か質問された際には説明用の資料も用意しておきましょう。厚生労働省のホームページでは、説明書のモデル様式が公開されているため、こちらも要チェックです

パートタイム労働法改正のポイント3:行政による指導や紛争解決手続きの整備

パートタイム労働者・有期雇用労働者が安心して働けるよう、事業主に対する行政の助言や指導、行政ADR(裁判外紛争解決手続き)が整備されたことも、今回の法改正における重要ポイントです。行政ADRとは、事業主と労働者との間で起こった争いごとについて、裁判を行うことなく解決する手続きのことを指します。

これまでも各都道府県の労働局において、非公開かつ無料で紛争解決の支援は行われていましたが、法改正後は「均衡待遇」と「待遇差の内容・理由に関する説明」も行政ADRで対応できるようになります。労働者の選択肢が広がったといえるでしょう。

歯科医院においては、こうした指導や紛争が起こらないことはもちろん、「スタッッフの働き方に注意を払ってくれている」という安心感を与えるためにも速やかに体制整備を進めることが大切です。

他にもある!歯科医院で確認したい働き方改革への対応

働き方改革にともない、歯科医院が取り組むべき対応は他にもあります。

年次有給休暇取得の義務化

雇い入れから6か月以上勤務していて、なおかつ全労働日の8割以上出勤している場合、パートタイム労働者・有期雇用労働者も含めて「年次有給休暇」を付与する必要があります。心身のリフレッシュを目的とする年次有給休暇ですが、日本における有給休暇取得率は世界でも最下位レベルなのが実情です。

そこで、誰もがきちんと休めるよう、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、毎年5日以上は時季を指定して有給休暇を取得させる与えなければならないことが“義務化”されました。これはパートタイム労働者・有期雇用労働者も対象に含まれており、違反した事業主には労働者1人につき30万円以下の罰金が科せられます。

また、労働時間が週30時間未満もしくは年216日以下となる労働者の場合、所定労働日数に比例した日数の年次有給休暇が付与されることも覚えておきましょう。

時間外労働時間の上限規制

有給休暇取得率の低さと並んで、もう一つ日本で問題視されていることが「時間外労働」です。過労による精神疾患や自殺が増えたこともあり、多くの企業が残業削減に取り組んでいますが、それでも時間外労働の割合はまだまだ高いといえます。

このような問題を解消するために、働き方改革関連法で「時間外労働の上限規制」が設けられました。原則として時間外労働の上限は月45時間、年360時間です。これに違反した場合、事業主には6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されることとなります。

医師は今のところ上限規制の対象外となっていますが、歯科医師は対象に含まれているので注意しておきましょう。

歯科医院における時間外労働を減らすためには、労働時間や日数をきちんと管理することはもちろん、適正人員や生産性、診療スタイルなどを根本から見直すことも大切です。

歯科医院における労務管理のポイント

働き方改革への理解を深めるとともに、労務管理のポイントもしっかり押さえておきましょう。

労働時間や日数を正確に把握・記録する

歯科医院での労務トラブルを防ぐためには、まず各スタッフの労働状況をきちんと把握しなければなりません。タイムカードや勤怠管理ツールなどを使えば、始業・休憩・終業時間を正確かつスムーズに記録できます。さらに、各スタッフの労働時間や日数、時間外労働時間などを賃金台帳に記入して保管しておくことが大切です。

また、スタッフの自己申告制によって記録せざるを得ない場合でも、報告内容と実際の労働状況に大きな差異がないか、報告のない時間外労働が発生していないかなど、しっかり確認する必要があります。

なお、診療開始前の朝礼や医院指定の制服への着替えの時間、昼休憩での電話番なども労働時間に含まれるため、忘れずにカウントしましょう。

就業規則を作成する

歯科医院のスタッフが10人未満の場合、就業規則の作成義務は生じません。しかし、労務トラブル予防の観点から考えれば、10人未満でも就業規則をきちんと作成して、管轄の労働基準監督署へ届け出ることが望ましいといえます。

就業規則には、労働時間・休日・残業といった労務管理に直結する事項はもちろん、服装や身だしなみのルール、人事評価や賞罰に関する制度なども盛り込みましょう。また、就業規則を作成するだけだと効力を発揮しないため、スタッフに周知徹底することも大切です。

就業規則は歯科医院を労務トラブルから守ってくれる重要な武器なので、きちんと作成・届出しておきましょう。

スタッフの待遇改善への取り組みに活用できるキャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は「非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するための制度」です。パートタイム労働者や有期雇用労働者に対して、正社員化・待遇改善・人材育成といった取り組みを行った場合、事業主は助成金を受け取ることができます。

キャリアアップ助成金には以下のような複数のコースが設けられており、それぞれ目的や金額が異なっています。

  • 正社員化コース
    ⇒パートの雇用形態を非正規から正社員に転換したときなど
  • 諸手当制度等共通化コース
    ⇒パートに正社員と同じ諸手当制度を適用したとき
  • 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
    ⇒パートの社会保険加入の見直しや基本給増額を行ったとき

スタッフの待遇改善に取り組みたいと考えているなら、キャリアアップ助成金を積極的に活用しましょう。

まとめ

歯科業界は深刻な人手不足による売り手市場なので、求職者が給与や福利厚生といった待遇面に求めるレベルも高くなっています。そのため、働き方改革に関する法改正にきちんと対応することはもちろん、優秀な人材確保に向けてスタッフが働きやすい環境づくりに尽力することが大切です。

現状、正社員とパートのスタッフで待遇差が見受けられるなら、それが不合理でないか改めて確認し、早めに見直し・改善を図りましょう。

引用元:

厚生労働省 パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために

内閣府 働き方の変化と働き方改革 参照労働時間分布の国際比較

厚生労働省 キャリアアップ助成金 参照キャリアアップ助成金が令和3年度から変わります~ 令和3年4月1日以降変更点の概要~

(提供:あきばれ歯科経営 online