中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

コマーシャルペーパーとは、企業による約束手形のことで、信頼性の高い企業による短期の資金調達手段の1つである。コマーシャルペーパーを活用して、どのような手順で資金調達を行えばよいか関心のある経営者も多いだろう。この記事では、コマーシャルペーパーの特徴や社債との違い、発行手順や会計処理について解説する。

コマーシャルペーパーとは

コロナで増加? 企業の約束手形「コマーシャルペーパー」を解説
(画像=fizkes/stock.adobe.com)

「コマーシャルペーパー(Commercial Paper:CP)」とは、企業が発行する約束手形であり、短期の資金調達手段に利用される。返済期間は1年未満とするルールであるが、ほとんどが1ヵ月以内で発行される。

コマーシャルペーパーの特徴

コマーシャルペーパーの発行形式は、「割引発行」である。「割引発行」とは、額面よりも低い金額で発行し、期限がきたらその額面を返還する方法であり、発行時との差額が買い手への利息となる。つまり、発行価額が低いほど売り手が損をし、買い手の利益になる。

しかし、コマーシャルペーパーの利息は、プライムレートより低いものになることが多い。コマーシャルペーパーは基本的には無担保であり、企業の信頼性をもって投資家に買い入れてもらい、利息も企業の格付等によって決まる。したがって、信頼性の高い企業であることが示せなければ、コマーシャルペーパーを資金調達手段とすることは難しい。

コマーシャルペーパーによって資金調達に成功するのは、自ずと優良企業になるため、その利息も低く企業にとっては低コストで資金調達ができるというメリットがある。

コマーシャルペーパーは「有価証券」

コマーシャルペーパーは、金融商品取引法上の「有価証券」に該当するため、募集などの行為は同法の規制対象となる。有価証券の募集をするときは、投資家保護の観点からその情報を発行時や発行後も随時開示しなければならないことが、金融商品取引法で定められている。

このことから、コマーシャルペーパーを発行する際は、法律上の募集にあたらない「私募」によることが多い。「私募」とは、限られた人やプロ向けに有価証券の募集をすることであり、金融商品取引法上の募集に該当しないことから、情報の随時開示義務がないというメリットがある。

私募には、次の三種類がある。(金融商品取引法第2条第3項)

私募の種類内容
少人数私募50人未満を対象とする
特定投資家私募一定の要件のもと、特定の投資家のみを対象とする
プロ私募適格機関投資家を対象とする

コマーシャルペーパーの金融商品取引法上の定義は、「法人が事業に必要な資金を調達するために発行する約束手形」のうち、法人の委任によって支払いを行う金融機関が交付した「CP」と印字された用紙を用いて発行するものである。(金融商品取引法第2条第1項第15号、同法第2条に規程する定義に関する内閣府令第2条)

「約束手形」とは、企業が数ヵ月の短期間決済を相手に約束して発行するものである。コマーシャルペーパーの本質は、この約束手形である。

コマーシャルペーパーの電子化

2003年にコマーシャルペーパーは電子化されており、現在、企業が発行するコマーシャルペーパーのほとんどは電子化されたCP(電子CP)である。

電子CPの法律上の根拠は「社債、株式等の振替に関する法律」(旧「短期社債等の振替に関する法律(電子CP法)」)であるが、この法律では、コマーシャルペーパーは「短期社債」と位置づけられている。

同法による短期社債(電子CP)の主な要件は、以下のとおりである。(同法第66条)

<電子CPの要件>

発行金額1億円以上
償還期間1年未満
その他・分割払いの定めがない
・利息の支払期間が元本の償還期限と同じ
・担保付社債信託法による担保が付されるものでない

なお、電子CPではなく手形としてのコマーシャルペーパーを発行することは、現在も可能である。

コマーシャルペーパーと社債の違い

法律的観点からすると、コマーシャルペーパーが約束手形なのか社債なのかよくわからなくなるが、電子CPも本質的には約束手形と変わらない。

ただし、コマーシャルペーパーは、通常の約束手形のように銀行同士が手形市場(インターバンク)で資金をやり取りするのではなく、公開市場において投資家に買い入れてもらう「直接金融」という点で社債と共通する。

では、コマーシャルペーパーと社債の違いは何かというと、償還期間(返済期間)にある。コマーシャルペーパーの償還期限は1年未満(ほとんどが1ヵ月未満)であるため、社債に比べて非常に短い。

また、コマーシャルペーパーは、会社法上の社債のルール適用を受けるが、受けないものもある。社債原簿の作成は必要ではなく、社債権者集会の規定の適用もない。(社債、株式等の振替に関する法律第83条)

コマーシャルペーパーの発行形態

コマーシャルペーパーには、以下の発行形態がある。

ダイレクトペーパー企業が投資家に直接発行するCP
ディーラーペーパー企業が業者(ディーラー)を通じて発行するCP

ダイレクトペーパーの方が、コスト面で安価にコマーシャルペーパーを発行できるが、その分だけ高い信用力が求められる。

コマーシャルペーパーを発行する方法

コマーシャルペーパー(電子CP)は、証券保管振替機構(通称:ほふり)の電子CP口座を通じて発行し、買い入れの決済は、買い手の銀行等から電子CP口座に日本銀行を介して行われる。

コマーシャルペーパーを発行したい企業は、買い手との約定を行った後、証券保管振替機構に発行申請する。その後は、買い手が銀行等を通じて、日本銀行から資金決済を行う。

決済が終了したら、日本銀行から発行企業の銀行等を通じて、発行企業に決済通知が届く。

資産担保コマーシャル・ペーパー

コマーシャルペーパーは基本的には無担保であるが、売掛債権などを担保に発行する資産担保コマーシャルペーパーもある。これを、「ABCP:アセットバックド・コマーシャルペーパー・プログラム)と呼ぶ。

コマーシャルペーパーの歴史

1987年日本での取引開始
(当初はディーラーペーパーのみ)
1993年証券取引法が金融商品取引法となり、同法の「有価証券」となる
1998年ダイレクトペーパーや銀行等の発行解禁など、規制が緩和される
2002年電子CP法施行により、ペーパーレス化される
翌年、証券保管振替機構によって電子CPの取り扱い開始
2006年会社法改正

コマーシャルペーパーが日本で取引されるようになったのは、1987年11月である。

アメリカでは、コマーシャルペーパーの市場が既に拡大していたが、日本では導入当時の規制が厳しかったため、なかなか広まらなかった。その後、ペーパーレス化や法改正によって、コマーシャルペーパーの活用が広がり始めた。

なお、電子CPを管理する証券保管振替機構では、株式のペーパーレス化も行われたが、日本初はコマーシャルペーパーとなる。

2006年の会社法改正では、社債の発行手続きが緩和され、コマーシャルペーパーが発行しやすくなっている。

コマーシャルペーパーと日本銀行の買いオペ

コマーシャルペーパーは、日本銀行による公開市場操作である「買いオペレーション(買いオペ)」の対象となることもある。

買いオペとは

買いオペは、日本銀行が市場から国債等の債券や手形を買い入れることで、市場に通貨を供給することを目的としている。通貨を供給し、市場にお金が流通すると銀行の金利が下がり、投資や消費の増加が期待できる。

日本銀行では、どういったコマーシャルペーパーを買い入れるかの基準を、「コマーシャル・ペーパーおよび社債等買入基本要領」で定めており、ホームページで公開している。

いくつかの基準があるが、そのうちの一つに、コマーシャルペーパーが、適格格付機関から「a-2格」相当の格付けを取得しているというものがある。なお、資産担保コマーシャルペーパーと不動産投資法人コマーシャルペーパーは「a-1格」相当である。

格付機関には「R&I」や「JCR」があり、企業名と格付けの一覧表を公開しているので、コマーシャルペーパーの発行を検討している企業は、他企業の格付けを確認してみるとよいだろう。

新型コロナウイルス感染症における買いオペの増加

証券保管振替機構の統計情報によると、2020年中の短期社債の口座残高は、前年より高い値で推移しており、2020年12月の額面金額は、約23兆5,654億円である。(前年12月は約20兆4,735億円)

(参考)証券保管振替機構HP:統計情報

これは、新型コロナウイルス感染症の影響による企業の資金繰り対策と、日本銀行の買い入れ強化が影響し、コマーシャルペーパーの発行が増加しているものと考えられる。

日本銀行では、新型コロナウイルス感染症の経済対策として、コマーシャルペーパーや社債等の買い入れを、2021年9月30日まで強化することを発表している。

具体的には、コマーシャルペーパーの一発行体あたりの買い入れ上限が、通常時は1,000億円であるところを5,000億円に緩和している。社債等についても、通常時の1,000億円から3,000億円を上限としている。

コマーシャルペーパーの会計処理

コマーシャルペーパーの会計処理を行う際には、発行側は、貸借対照表上に「短期社債」や「コマーシャルペーパー」といった負債科目で表示する。コマーシャルペーパーの買い手側は、「有価証券」として計上する。

価額は、償却原価法によって算定した価額となる。償却原価法とは、社債に用いられる会計処理でもあり、社債の価額と発行金額との差額を、社債勘定に一定の方法で計上するもので、計上の方法には、利息法と定額法がある。

コマーシャルペーパーの支払い利息については、短期社債利息、コマーシャルペーパー利息等とする。割引発行による差額を前払費用で計上した場合には、償還期限まで定額法で償却する。

コマーシャルペーパーを利用してみよう

この記事では、コマーシャルペーパーについて、その特徴や社債との違い、発行手順や会計処理について解説した。

コマーシャルペーパーの発行を検討している経営者や、コマーシャルペーパーの購入を検討している投資家の参考になれば幸いである。(提供:THE OWNER

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)