今回、本稿を執筆するにあたって改めてネット証券のWebページを使って最近の投資信託の「資産複合(バランス)」というカテゴリーについて、その市場動向を調べてみた。ネット証券が最も「つみたてNISA」や「iDeCo」対応分も含めて取扱い投資信託の種類が多いこと、その殆どが種々のスクリーニングやソーティング(ランキング)機能を提供していて便利だからだ。また気になった投資信託については目論見書や運用報告書、そして運用レポートも自由に読むことが出来るからでもある。
正直に感想を申し上げると筆者はその結果に残念ながら愕然とした。それはもし若い世代のクライアントが身近に居たとして「将来の資産形成の為に積立てをしようと思うのだけど、お薦めの投資信託はありますか?」と相談された時に、「そうね、これなんか良いんじゃない」と(立場上からも)責任をもってピックアップ出来るものが無いということ。そしてランキング上位で「きっと人気なんだろうな」と推察出来るものの殆どが「こんなんで商品化されているんだ」と、元投信会社の社長を務めた身としては驚きを禁じ得ないものばかりだったからだ。
運用現場でアセット・アロケーションの重要性を否定する人は恐らく一人もいない
別に筆者は業界関係者に喧嘩を売ろうとしている訳でも、ましてや変わったことを言って耳目を集めようなどとは露ほども思っていない。批判をすることは勇気がいることでもある。だがそれでも『賢い「投資信託」との付き合い方』という主題の連載である以上、指摘すべき点は古参の業界関係者として言っておかなければならないと思った。
投資信託には昔からその時々に「旬なテーマ」というのがある。差し詰め今なら「ESG投信」(本来、ESG投資は投信のテーマとして取り上げられるような単純なものではないのだが……)とでもなるのかも知れないが、ちょっと時間を遡れば、本稿で取り上げる「資産複合(バランス)」というカテゴリーの投資信託、すなわち「バランス型」が「旬な投信のテーマ」となっていた時があった。
その頃からだったと思うが、投資理論の中でよく使われる教えである「アセット・アロケーションがパフォーマンスの約8割(9割というものもある)を決める」という古くからのセオリーが積極的に流布された。そして「だからこそ、これからは国際分散投資がお薦めです」と投信販売の現場ではよくセールストークとして話されていた。