コロナショックによって低迷が続いていたアメリカ国債の長期金利が、2021年の初め頃から上昇を続けています。すでに「コロナ後」の景気回復を見すえた動きであるといった論調も散見されますが、金利の上昇はインフレや財政赤字などが理由になっていることもあるため、楽観ばかりもしていられません。特にコロナショックによる経済へのダメージを下支えするために世界各国は大規模な金融緩和を続けており、通貨供給量の増大がインフレを誘発する懸念もくすぶっています。

これまで日本は超低金利であることが半ば当たり前になってきたため、定期預金の金利は限りなくゼロに近い状態が続いてきました。その一方でローンの金利もきわめて低かったため、「今が借り時」と不動産を購入した人は多いと思います。

しかしこのアメリカの長期金利上昇が、これまで長らく続いてきた「超低金利が当たり前」の時代に変化をもたらすかもしれません。金利が上昇する何が起きるのか、それに備えるにはどうすればよいのかという疑問にお答えします。

アメリカの金利上昇で起きていること

ローン,金利上昇
(画像=freshidea/stock.adobe.com)

2020年のコロナショックでは1%を下回る水準だったアメリカ国債10年ものの長期金利が、2021年になってから回復傾向を見せており、3月になると1.7%を超える推移となっています。コロナショックでは安全資産への資金逃避が進み、安全資産の象徴でもあるアメリカ長期国債に買いが集まったことから金利が低下したのですが、その逆にコロナショックから経済が立ち直る観測が強まってくると金利が上昇するフェイズに入っています。

国債の長期金利は「経済の体温計」ともいわれており、少なくともアメリカの景気が今後上向いていくことが示唆されています。今後さらに景気の拡大局面になっていることが確認されると長期金利のさらなる上昇が予測されるため、行き過ぎた金利の上昇への警戒感が広がっています。

この流れが日本にも及ぶと、長らく超低金利、ひいてはマイナス金利状態になっていた日本の金利も上昇局面に入るかもしれません。

住宅ローンの変動金利型にはリスク発生も

日本における金利の上昇は、可能性こそ指摘されていたものの現実味はあまりありませんでした。そのため、住宅ローンや事業性の不動産投資ローンなど不動産の購入にローンを利用する際のコストも低く、このことは購買意欲の促進につながっていた側面があります。

こうした不動産購入のためのローンには、変動金利型と固定金利型があります。変動金利型はその時の金利情勢によって返済期間中に金利が変動するため、金利が上昇しなければメリットが大きくなるタイプです。もう一方の固定金利型は金利上昇のリスクがないものの変動金利型よりも金利が高くなるため、金利が上昇しなければオトク感は薄れます。

超低金利が長く続きすぎたせいか、日本では金利が上昇する可能性を唱える声が少なく、「金利上昇はまずない」という安心感から変動金利型を選択する人が多い傾向があります。しかし、その「まずない」と思われてきた金利上昇がもしかすると現実になるかもしれません。

これからは、この「まずない」という先入観を改め、金利は上昇することがあるという前提を考慮する必要があるのです。

金利が上昇すると返済額はどうなる?

アメリカ国債のように金利が1%以上高くなると、ローン返済はどうなるのでしょうか。あくまでも単純な計算ですが、3,000万円の融資を受けて金利が1%上昇すると、年間の返済額は30万円増えることになります。もっとも、実際には返済中に元本が減り続けるため、これはあくまでも単純計算です。

住宅ローンの場合、金利の見直しは半年ごとに行われますが、それが返済額に反映されるのは5年ごとです。しかも返済額の増加は1.25倍が上限というルールがあるため、金利上昇分がそのまますべて返済額に転嫁されるわけではありません。

とはいえ、返済額増加の上限である1.25倍というのは25%増なので、長期的な資金計画に狂いが出ることは不可避です。資産運用をしている人にとっての金利上昇は追い風となる部分がありますが、ローンを利用している人にとっては金利の上昇がリスクであることを十分理解しておくべきでしょう。

金利上昇に備えるマネー学

金利上昇に備えるマネー学として、3つの立場の人が押さえておくべきポイントを整理してみましょう。

これからローンを利用する人は、融資利用額を減らしておくことが金利上昇リスクへの備えになります。不動産投資では手持ち資金の全額を自己資金として投じるのではなく、できるだけ融資を活用したほうが投資効率を高めるとされています。しかし金利が上昇する可能性があるのであれば、それは逆になります。金利上昇によってコストが増大するのを防ぐために、可能な限り自己資金を多めに入れて融資額を減らすのが有効です。

次に、すでにローンを返済中の人についてはどうでしょうか。ローン返済期間には金利のタイプを切り替えられる機会があります。今後さらにインフレが進み金利が上昇すると思われるのであれば、変動金利型から固定金利型に切り替えるのも1つの手です。もちろん固定金利型といっても融資を借り入れた時より金利が高くなっていると思いますが、その後さらに金利が上昇するリスクを回避することができます。

資金に余裕があるのであれば繰り上げ返済を検討する価値もありますが、手持ちの資金に余裕がなくなるほどの返済をするのはリスクが付きまといます。そこで検討したいのが、資産運用です。金利上昇局面では資産運用の利回りもよくなるので、その有利な状況を味方につけるのもよいでしょう。

ローンの借り入れ予定がなく、返済中でもない人にとっての金利上昇は、運用によって資産を増やすチャンスです。いえ、むしろインフレが進行して現金の価値が低下するような局面になるのであれば、預金以外の方法で資産を保有することで資産防衛をする観点も必要になります。

インフレに備えるなら不動産の強みを味方につけよう

不動産は、インフレに強い資産として古くから知られています。かつて1980年代に起きたバブル経済でも不動産に投資が集中したのは、不動産がインフレに強い資産であることも大いに関係していました。

当時の日本には「土地神話」と呼ばれる投資の常識があったことをご存じでしょうか?日本は土地が少ない国で有限の資産である土地は無限に価値が上昇していくというもので、それが不動産バブルをさらに大きくすることにつながったのです。

この土地神話はすでに過去のものとなりましたが、インフレや金利上昇の局面では現金資産の価値が目減りしてしまうため、そのリスクヘッジの意味でも不動産を所有することは有効です。さらにその不動産から収益を得る不動産投資は、インフレになったとしても家賃相場も同様に上昇するため実質的な収入減とはなりにくく、景気変動に強いのも魅力です。

金利上昇が考えられる局面では融資を利用する際の金利に注意が必要ですが、固定金利型を選択することや自己資金を多めに投じるなど、そのリスクを抑える方法が確立されているのはすでに解説したとおりです。

金利上昇がいつまで続くのか、どこまで上昇するのかはわかりませんが、これまであまり考えられてこなかったリスクを認識するいい機会だと思います。金利が上昇すると何が起きるのか、どう行動するべきなのかということは常に考えておくことがマネーリテラシーの向上につながるのです。(提供:Incomepress


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