2018年7月に、『空飛ぶクルマ』と『無人ドローン』の開発・製造・販売および運行サービスを行うために設立された、株式会社SkyDrive。代表取締役CEOの福澤 知浩氏の趣味が高じて立ち上げたこの会社は、スタートアップとして資金調達も順調で、協賛する企業も多数集まっている。今回は会社立ち上げの経緯や経営における苦労、今後の展望などについて、福澤社長に話を聞いた。

趣味の『空飛ぶクルマ』開発が事業へ成長

人も運べる『空飛ぶクルマ』_ドローンの開発で社会のインフラを変えるSkyDrive
(画像=株式会社SkyDriveが開発中の『空飛ぶクルマ』)

――最初に、会社を設立するまでの経緯を教えてください。

大学までは理系でロボットについて研究していました。モノづくりを経験するため就職でトヨタ自動車へ入社し、調達部へ配属となって、製造業の現場および経営的な観点について学びました。経営的な観点に携わるようになってから、起業に関心を持つようになったタイミングでトヨタ自動車を辞め、自分で会社を作ってコンサルを始めたんです。

『空飛ぶクルマ』についてはトヨタ時代から3~4年にわたって趣味として取り組んできました。続けるうちにだんだん大型な、実用に耐え得るものができてきたんです。そこで「これはちゃんと事業としてやるのがいいんじゃないか」と2018年に考えまして、株式会社 SkyDriveを設立した次第です。

『空飛ぶクルマ』に興味を持ったきっかけは、幼いころから乗り物が好きだったこと、ふとモビリティって全然発展しないなと気付いたことです。空を飛べたら渋滞も信号も無いのではやく移動できますし、何より楽しいだろうなという純粋な気持ちで開発をスタートしました。ただ、『空飛ぶクルマ』の開発はあくまでも趣味でしたので、元々はそれを事業にするという発想はありませんでした。しかし、製品の性能が向上するとともに「これは事業としてありえるんじゃないか」と思うようになりました。また、自分自身もさまざまなモノづくりにコンサルタントとして関わりながら、「どう考えても『空飛ぶクルマ』がいちばん楽しい」と思っていたこともあります。

そこで「資金が集まったら事業化しよう」と考え、知人や投資家に呼びかけたところ実際に資金が集まったので創業しました。

――エアモビリティビジネスを取り巻く環境と、そのなかで御社がどのような展開をされているのか教えてください。

エアモビリティ、つまり空を介した移動を取り巻く環境は、遊びで使う「ホビードローン」については、この5年くらいで一般に浸透してきたと思います。それが現在では、産業やビジネスでドローンをどう使えるのかが問われる時期になっています。

これはちょうど、インターネットの黎明期にブログが登場し、単なる日記や遊びとして使われていたものが、ビジネスのサービス紹介などに使われるようになっていったことと近いものと思います。メーカーの参入が続き、法規制も整備され、ようやくここから「本格的に市場が大きくなるな」と感じています。

弊社の物を運ぶ無人ドローンが入り込める市場ニーズを探っていくと、山間部などではいまだにアスファルトの道路がないために車両が入れず、人が物を背負って運ぶケースが多いことがわかりました。そこで30kg程度の重量物を運べる、比較的コンパクトなドローンをまず製品化することになりました。2021年度から10kg以上の物を運べるドローンとしては世界初の量産が開始されます。

有人機である『空飛ぶクルマ』に関しては、人を乗せて安全に飛ばすのが容易ではないため、開発例は世界でもまだ10例ほどしかありません。また、手軽に使用するためには飛行場が不要となるよう、機体のサイズがコンパクトでなければなりません。当社でも、コンパクトなものに焦点を絞って開発を進めています。

――『空飛ぶクルマ』開発で困難なのはどのような点ですか?

『空飛ぶクルマ』は航空機に該当するのですが、この開発について困難な点は、日本でこれまで民間航空機が開発・製造されたが実績あまりないため、ノウハウの蓄積がないことです。エアバスやボーイングの開発・製造に日本の企業も関わってはいますが、基本的に機体の構造に関するもので、電気的な部分は一切行われてきていません。したがって、モーターや電池、プロペラなどについての知識は、日本では乏しいのが現状です。それを乗り越えていかなくてはならないのが、技術開発が困難な第一のポイントです。

また、民間航空機が開発されてきていないため、一般の人を乗せて運ぶ際に必要な認証のスキームも、国土交通省にも民間企業にもありません。その認証スキームを戦後としては初めて確立しなければならないのも難易度が高い点です。認証スキームは業界内でもさまざまな意見があるため、それをまとめて1つの方向へ持っていかなくてはならないからです。

さらには、法規制の壁もあります。有人飛行の際には搭乗人数や飛行距離、積載重量などに応じて飛行許可が必要で、その手続きに習熟しなくてはなりません。また、2022年からは無人ドローンについても法規制が強化される見込みとなっており、その規制をクリアできる性能を備えるのは容易ではありません。

――『空飛ぶクルマ』が製品化されるまで何年くらいかかるとお考えですか?

2023年度中のサービス開始を目指しています。したがって「あと3年」です。

また、無人ドローンに関しては、免許はこれまでは不要でしたが、これからは必要になってくると思います。

――ドローンについて、通常時の輸送以外の用途をお考えですか?

無人ドローンは基本的に、物を運ぶための専用ドローンです。ただし、通常の輸送以外にも、たとえば災害時にも使用できると思います。また、高層建築の建設現場で上部に物を運ぶ際、ドローンはリフトを設置するより安価かつ早期に利用できます。

――『空飛ぶクルマ』が普及することにより生活自体はどのように変わりますか?

目的により忠実に生活できるようになる人が増えると思いますね。たとえば現在、通勤のために駅の近くに住む人は多いでしょう。ところが『空飛ぶクルマ』で通勤できれば、駅の近くに住む必要はありません。住む場所、いる場所の自由度が圧倒的に広がると思います。これが『空飛ぶクルマ』の面白いところです。

多様性を認め合い、チームビルディングができるのが理想の組織

――会社経営で苦労したことを教えてください。

色々ありますが、最も多いのは「自分がボトルネックになるパターン」だと思っています。

たとえば、ある人から「君からはお金の臭いがしない。お金の臭いがするようになると、会社経営は成功する」といわれ、なるほどと思いました。試行錯誤してファイナンスに関する知識をつけたり、売上や利益などをしっかり見ていくようにしたりした結果、現在では多少なりとも財務分野に関しては成長したと思っています。実際に資金調達も成功しました。

また、あるときは社員から「もうちょっと経営者っぽく振る舞ってくれ」と言われました。そこでそれから、「経営とは何か」について深く勉強するようにもなっています。ベンチャーの経営者は、経営は初心者なことが多いため、自分がボトルネックになっていることを素直に認め、成長しなければ失敗するケースも多いと思います。

――経営について意識しているのはどのような点ですか?

最も意識しているのは「リソースをどこにつぎ込むか」ということです。技術開発も課題は多数あるので優先順位が必要です。自社内でやることと外注に出すことも切り分けしないといけません。この問題に関しては正解がありませんので、日々迷いながらもやっています。

あとはチームビルドも重視しているポイントです。メンバーが増えるとさまざまな人が入ってくるため、状況の変化につれてどうしても不安になる人も出てきます。皆の意識が同じ方向を向くためにはどうしたらよいかを常に考えています。

――チームワークやコミュニケーションで気をつけているポイントを教えてください。

社員はみな、出身は異なりますし、携わる業務内容も違うため、価値観はさまざまです。その「さまざまなのが普通だ」というところから出発しなくてはと思っています。さまざまなのが普通であるのを認識せずに「これ以外はありえない」と考えてしまえば、「あいつはわかっとらん」とか「この人はダメだ」とかになってしまい、話が進まなくなったり空気が悪くなったりしがちです。意見が異なるのはそれぞれの背景が異なるからだと認識できれば、「そのうえでどう進めるか」を話し合うことができます。まずは自分がそうしたいと思っていますし、そのうえで社員の皆もそうできる仕組みを作っていきたいと思っています。

――経営者ではなく、一歩引いた立場で技術開発に専念したいと思ったことはありますか?

経営にもさまざまな役割がありますので、チーム連携やファイナンスなどについて、誰かがやってくれたらと思うことはあります。誰でも不得意分野はありますので、経営者の不得意分野を補完できる組織体制を作る必要はあると思っています。ただし、私は事業開発や渉外も好きなので、技術開発に専念したいと思ったことはありませんね。

『空飛ぶクルマ』をインフラにしていくことがサステナブルへつながる

――サステナブルについてお考えのことはありますか?

持続可能性を高めるためにはインフラが重要だと思っています。たとえば、電話は電話線が、車両での物流は道路がなければできません。インターネットも、双方向でオンデマンドなやり取りを可能としています。同様に、『空飛ぶクルマ』が実現すれば、場所によらず移動が容易になるために、時間をより自分のために使うなどが可能になるのではないでしょうか。始めるのも変化するのも簡単で、好きなときに好きなだけ利用できるこの移動手段は、サステナブルに大きく寄与できると思っています。

――今後の展望を教えてください。

今後については、まず前述した山間部での無人ドローン量産を進めていこうと思っています。山間部では山小屋など、人が物を背負って運ぶケースがいまだに多くあります。そこでドローンが使用できれば、労働力不足の解消にも貢献できると考えています。また、そこで得られたノウハウを有人機にも活かしていくつもりです。

『空飛ぶクルマ』の開発は、難易度が高いです。そもそも、日本ではモノづくりのスタートアップはそう多くはありません。これまではお金も人も集まらなかったことが、モノづくりのスタートアップが日本で発展できなかった理由の1つだと思っています。

しかし、近年ではスタートアップへの投資も増えてきています。また、大企業がスタートアップに協力する例も出始めました。そのような状況下、ぜひ『空飛ぶクルマ』を成功させ、日本のモノづくりスタートアップの発展にもつなげたいと思っています。

壮大なビジョンを思い描きながら今後を歩む福澤社長

今回のインタビューにも、肩肘を張ることなく飄々とした風情で受け答えをする福澤社長。ご自身がやりたいことを思う存分やっている様子が伝わってくるようだ。しかし、福澤社長が思い描く今後のビジョンは壮大だ。単に『空飛ぶクルマ』の商品開発にとどまらず、モノづくりスタートアップの発展も視野に入れている。移動手段に革命を起こす可能性のあるこの『空飛ぶクルマ』に、今後も目を離せそうにない。(提供:THE OWNER