「リモートセンシング(遠隔測定)技術で、3K(きつい、汚い、危険)と呼ばれる業界をかっこよくて儲かるものにしたい」
そう話すのは、株式会社スカイマティクス 代表取締役社長 渡邉善太郎氏。ドローンで空撮した画像データをAIで解析・分析・予測する技術力がスカイマティクスの心臓部だ。例えば農業分野では、ドローンを飛ばして自動的にキャベツの大きさを判定。収穫時期の予測を立てることができ、これまでの作業時間を大幅に短縮できるようになった。
活用事例は農業だけに留まらず、建設測量や防災関連にまで及ぶ。現場に人が入りにくい状況となったコロナ禍を追い風に、引き合いは絶えないという。
どの業界でも共通して重要なのが「地図データにひも付けて知見を蓄積すること」。これまで無形財産だった暗黙知を形式知化することでノウハウが貯まり、後進への教育時間やコストの圧縮にもつながるのだ。
ただ、「AI」「ドローン」を活用するとは言え、「自動化」の仕組みを構築するまでは人手を総動員する。初期データを読み込ませ、AIに学習させるために、現場へ赴き地道に検証する泥臭い積み重ねが必要だ。
「空からの地図データ」が起こす革命のインパクトはいったいどれほどのものなのか。業界にもたらす持続可能性や今後の展望について、渡邉氏に話を伺った。
キャベツ2万個をドローン空撮とAIで一瞬にして判定
スカイマティクスの技術の真髄はドローンではなく、裏側で走るデータ解析技術にこそある。これまでの農業では、収穫時期の予測を立て生育状況を把握するため、農地を見回る作業をの1日がかりで行っていた。そうやって農家の方が目視で行っていた作業を、ドローンでの撮影ならたったの15分、データ解析の時間はデータアップロード後最短10秒から長くて1日ほどで終わる。その間すべて自動で行われるため現場に張り付く必要がなく、農業者は別の作業が可能だ。渡邉氏は一連の作業を、簡単に操作でき、効率化できると強調する。
「ドローンに撮影させる畑の範囲は、スマホやタブレットで簡単に入力できます。その後、ドローンに空撮させた画像を当社のサービスサイトにアップロードするだけで、農地の高低差が分かったり、雑草の生えている位置が分かったり、キャベツの生育状態が分かったりする。これまで人力で行っていた測定作業をすべて自動で行えます」
スカイマティクスの葉色解析サービス『いろは』
一方、人が行っていなかったことも数値化できる。キャベツは一般的に1ヘクタール当たり約2万個が育つ。しかし実際、農家の方がキャベツの数を正確に数えることは難しいそれらをすべて数量化・見える化して現状を把握できるわけだ。
また、農地ごとの地図データを年々蓄積していけるため、知見やノウハウの継承が容易になる点も見逃せない。キャベツの育成計測や地形の情報などこれまでのデータをすべてデータベースに蓄積できる。教育が容易になり、知見を引き継げることで、事業承継にも役立てる。
日本初、世界初の技術力で最大90%の工程削減が可能に
渡邉氏は「ドローンの価値と、画像診断やAIの価値はまったく別物なんです」と力を込める。
「ドローンで撮影できるようになり、現場仕事の効率が格段に上がりました。しかし、せっかくドローンで何千枚と撮影された画像を手作業で一枚ずつ確認していては、従来の仕事と所要時間があまり変わりません。私たちはAIや画像診断技術によって、データ分析の時間を70〜90%削減することに成功しました」
スカイマティクスの技術は「はやぶさ2」の資料回収時に採用されたほど、確かなものだ。2020年12月に小惑星探査から地球へ帰還した「はやぶさ2」の中には、小惑星から回収した貴重な資料がカプセル内に納められていた。地球上の広大な落下地点でそれを回収する必要がある。
だが、帰還時の落下地点を精度高く予測することはできないので、実際は無人航空機を飛ばして探し出すのだ。撮影された航空データをスカイマティクスのAIで解析し、みごとに発見された。スカイマティクスの画像解析技術はお墨付きなのだ。
コア技術は主に、デジタル画像処理解析とAI、空間演算処理 Web GIS(インターネット上で利用できる地理情報システム)から構成されている。画像処理技術と位置を特定する技術を組み合わせてデータを作り出し、それをスマホやタブレット、PCで直感的かつ容易に操作、視聴が可能だ。
初期バージョンは農業分野から始まったスカイマティクスのサービスだが、評判が評判を呼び、現在は他業界からも相談を受けるようになった。これらの技術はすでに、建設業界での測量や防災、インフラ点検などで横展開されている。ほとんどが日本初、世界初のサービスだというから驚きだ。
「本来、業界ごとに必要な地図やUI・UXは異なるはずなんです。だから、業界ごとに最適化された地図の情報をサービスとして届けていきたい」
ビジネスモデルは月額課金のサブスクリプションモデル。価値の源泉である画像データを自社で押さえているのがミソだ。
永遠に続く、AIに学習させるための泥臭い実地検証
AI=人工知能というネーミングから「なんでも自動でやってくれるイメージ」があるかもしれない。しかし実態は、どう画像データを解析させて判断させるか、大量のデータを人力で取得し、判断の方法を学習させる必要がある。
「サービス開始前、私たちは開発段階でまずキャベツ農家さんに課題を伺いました。それからキャベツの画像をひたすらドローンで撮影し、その画像からキャベツの大きさの育成具合を示す規格=L玉M玉S玉を画像で見分け、個数を数えるアルゴリズムを制作。その後、判定が正しいかどうか判断するために農地まで赴き、2万個あるキャベツを人手で数えたりしました」
最先端のテクノロジーとは言え、立ち上げ時の作業は極めて泥臭い。
「現場に密着し、アルゴリズムの正しさの検証を繰り返して精度を上げていく。サービスをリリースするまで1年半もそれを繰り返し、その後も検証作業を続けています」
初期型では「生育診断の機能」「土地の高低差を測定する機能」「雑草診断」など3〜4程度の機能を実装してリリース。機能を絞り込んだ。
「農家の方にAIとかリモートセンシングとか伝えるよりも、どんなベネフィットが得られるかをまずは体験いただきたかった。そのため、初期版は多少、機能に劣ってもまずは使ってもらいたかったんです。
初期版のリリース時は40〜50台のドローンを無料で提供して、全国の農家さんや自治体、JA(農協)に自由に使っていただきました。すると、画像をどんどんアップしてくれて、データが溜まった。また『害虫がいち早く見つかると嬉しい』『雑草を見つけたい』などさまざまなお困りごとを教えてくれました。課題の解決策を反映させ、機能をどんどんブラッシュアップさせていったんです」
改良は永遠に行うという。
「人はものやサービスを使うほどに、もっと高い要望や課題を言いたくなるもの。それに応え続けるのが私たちテクノロジー企業の使命だと考えています」
永遠に完成品はできない。不屈の精神で挑んでいます、と渡邉氏は笑顔を見せた。
本当に困っている人たちが空のデータを使えるようにする
渡邉氏はもともと三菱商事で宇宙事業に携わっていた。衛星を打ち上げて、衛星写真を解析したり販売したりする事業だ。ところが、宇宙ビジネスは当時、現在以上に莫大な資金を必要とした。
「18年前ほどは1基の価格が500〜800億円ほど。しかもほしい画像を要望してから撮影されるまで1カ月もかかり、1枚撮影するのに100万円ほどかかる。時間もお金もかかるのでは、誰も使いません」
困っている多くの人たちの役に立つサービスにならないと、宇宙からのデータ活用は普及しないと考えた渡邉氏。そんなときに出会ったのがドローンだった。
「当社の設立は2016年ですが、さらに2年前の2014年に中国製のドローンに出会いました。とても衝撃を受けたんです。普通の人でも買える程度の普及が可能な価格。これで空へのアクセスを圧倒的に容易にできるようになる、と直感しました」
当時はまだドローンという言葉すらなく、無人航空機などと呼ばれていた時代。渡邉氏は、みんながドローンを開発・販売するほうへ進むと考えた。いずれ、撮影されたデータ、画像処理解析の技術が求められ、将来はプラットフォームを作る側の価値が高まるのではないかーーそうして、スカイマティクスを設立した。
一方、データを使ってもらう際に重要になるのは、当然「使い勝手」。開発当初から「グルメアプリ」をイメージしていたという。飲食店を検索する際には必ず地図情報、Google Mapを使うからだ。
店を予約する、場所を選ぶ、店に行く……必ず地図情報を観る。これと同じことがドローンやリモートセンシングの現場でも起こるだろう。つまり、裏側で心地よく画像処理解析してくれるもの、使い勝手のいいもの、スマホ感覚で気軽に触れるもの。このGoogle Mapのポジションを作るプラットフォームを起業時から意識していたのだという。
3Kを4Kに変えてかっこよく稼げる業界にしたい
もうひとつ、渡邉氏が起業時から意識していたのは、業界そのものの持続可能性だ。「きつい、汚い、危険」の3Kと呼ばれる業界、仕事が現実に存在する。食品業界への就職希望者はいても、農業をやりたがる人は極めて少ない。建設業でも、大手不動産デベロッパーへの就職希望者は多いが、現場の測量士になりたい人は少ない。
「しかし、社会のインフラを支えている人たちは3Kの業界であることが多い。これらを4K、『快適、効率的、かっこいい、稼げる』にするのが私たちの仕事です。かっこいいと思ってくれる人が増え、生産性も上がれば業界がもっとサステナブルになり、持続可能性が高まると考えています」
それらの課題を解決するには先述の通り、これまで「暗黙知」で行われていた業界の知見を「形式知」に変えていくことがひとつのポイントだと渡邉氏は言う。
「農業は大きなくくりで言えば製造業ですが、設計図や図面がありません。農業で図面にあたるのが、地図上に集めた知見やノウハウです。これらのオリジナル地図データは、周辺の産業、例えば食品産業や流通業、産直を運営しているサイトなどと連携して活用できる。そうすればバリューチェーン全体をより効率化できる。そんなプラットフォームにしていくのが私たちの夢です」
今後は海外へ展開し、「3K」を「4K」にアップデートしていく青写真を描いている。
「私たちはRemote Sensing as a Service=RaaS(ラース)と独自に呼んでいます。空からの無限の情報を届け、あらゆる産業の課題をリモートセンシングで課題解決することが私たちのミッション。RaaSを世界で標準化させることが目標です」
RaaSによって作られた各産業に最適化された進化の地図で世界を変えるため、今日もどこかでスカイマティクスのドローンが青い空を飛んでいる。
<会社情報>
会社名:株式会社スカイマティクス
所在地:〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町4-2-16 Daiwa日本橋本石町ビル6階
URL:https://skymatix.co.jp/
(提供:THE OWNER)