林 隆弘代表取締役 CEO
(画像=林 隆弘代表取締役 CEO)

日本最大級の将棋アプリ「将棋ウォーズ」を運営するHEROZ(4382)。近年は将棋AIで培った技術を応用し、建築や金融、エンタメといった企業向けサービスの開発に勤しんでいる。2020年4月期には、BtoBサービスの売上が初めてBtoCサービスを超えた。

林 隆弘代表取締役 CEO
Profile◉はやし・たかひろ
1976年、静岡県生まれ。早稲田大学卒業。99年日本電気(NEC)入社、IT戦略部、経営企画部に在籍。2009年HEROZ設立、代表取締役CEO(現任)。将棋の腕前はアマ六段。アマチュア一般棋戦など、個人での全国優勝は7回経験。 羽生九段との席上対局実績もあり。

登録者数600万人超の
日本最大級将棋アプリ

 2018年の東証マザーズ上場時は、公募価格4500円に対し10倍の初値をつけ大きな注目を集めたHEROZ。当時、同社の主事業となっていたのが「将棋ウォーズ」をはじめとするオンライン対戦型の頭脳ゲームを個人に提供するBtoCサービスだ。「将棋ウォーズ」は、日本将棋連盟が公認する日本最大級の将棋アプリ。将棋ファンで知らない人はいないほど地名度が高く、12年のリリースから会員数は増え続け現在は600万人を超える。将棋ウォーズではアプリ上で他の会員と対戦できる他、オフラインでAIと対戦することも可能。対局数は1日25万局以上、1秒間で3局以上の対戦が繰り広げられている。

 収益モデルは、月額課金とアイテム課金の2つ。月額プランは、プレミアム500円〜とスーパープレミアム960円。アイテム課金は、自分の代わりに将棋AIが5手指してくれる「棋神」が120円。1局2000円のプロ棋士による指導対局も人気を集めている。

 同アプリ人気の一因が、この「棋神」だ。棋神は名人にも勝利した将棋AIが代わりに指してくれるため、神の一手として将棋ファンの心を掴んでいる。また、同じレベルの対局相手を自動的にマッチングしてくれるため、初心者からプロ級までどのレベルでも飽きがこない仕組みになっている。

▼将棋ウォーズの画面。派手な演出やグラフィックも人気の一因

HEROZ【4382・東1】

企業向けAIサービス
「HEROZ Kishin」

 元々BtoCでスタートした同社だが、現在成長の柱として育てているのが、将棋AI技術を応用したBtoBサービスだ。20年4月期の売上高15億4400万円の内訳は、BtoCが7億2700万円、BtoBが8億1700万円。BtoBが前期比48.9%増となり、初めてBtoCを上回った。

 BtoBサービスでは「HEROZ Kishin」という自社のAIサービスを展開している。HEROZ Kishinは、将棋ウォーズなどの開発を通じて蓄積したAI手法などを標準化したサービス。予測、分類、画像認識など10の機能別エンジンをカスタマイズや組み合わせることで、各分野に特化したAIプロダクトを開発する。将棋の棋譜データの代わりに、企業が持つデータをHEROZ Kishinに学習させることで、業務効率化や将来予測などを実現し企業をサポートしている。

 収益モデルは、初期設定フィーと継続フィーの2つ。AI開発の時点で初期設定フィーが発生し、検証を経てサービスに組み込まれてから毎月の継続フィーが発生する。

「人間を助けてくれるのがAIで、強力な味方であり勉強にもなります。それは将棋に限ったことではなく、社会の縮図。その世界観を広めようと思ったのがBtoBのきっかけです」(林隆弘CEO)

建設、金融、エンタメの
3つの重点領域

 現在BtoBの重点領域として注力しているのが、建設、金融、エンターテインメントの3つ。建設では、竹中工務店の構造設計業務において、自動設計やシミュレーションの自動化などに活用されている。また、建物の運転状況を最適化し省エネルギー・省人化を実現する空間制御システム「アーキフィリアエンジン」を同社と共同開発。エネルギーマネージメントの実証実験も行っている。

「例えば建設業界は、25年に約11万人の建設従事者が不足するというレポートがあり高齢化も進んでいます。そこで、我々のAIが重要な役割を果たすのではと注力しています」(同氏)

 金融では、SMBC日興証券と「AIポートフォリオ診断」を共同開発。これは1カ月後の株価を予測して顧客に応じた銘柄を提案し、より効率的な株運用が期待できるサービス。提供開始から9カ月間の運用成績では、インデックスに対して11%以上のアウトパフォームが実証されている。

 エンタメでは、ゲームのレベルデザイン(例えば、ゲームのレベル24と25のどちらが難しいかを正しく判断する作業)やデバッグテスト(バグを取り除く作業)、対戦相手の生成などに活用。バンダイナムコエンターテインメントなどの大手ゲーム会社を取引先に持つ。

40億円を先行投資
BtoBを成長の柱に

 今後全世界では15〜64歳の労働人口が増加する一方、日本では減少が見込まれる。そのため労働生産性向上の点から、AIニーズは高まり市場は拡大すると予測される。

21年4月期の業績予想は、売上高は前期比10・1%増の17億円。利益面では、19年に調達した約40億円の資金を人材・サーバ設備などに22年までを目処に先行投資する。そのため、当面の間収益性は低下するが、その後は回復を見込んでいるという。

 売上高のうち、成長の柱としているBtoBは、前期比20%増以上の成長を予想している。20年10月には、生活用品製造販売大手・アイリスオーヤマのグローバルSCM(サプライチェーン・マネジメント)に関わる販売予測AIの運用を開始した。

「アイリスオーヤマ社は非常に伸びている会社。我々も販売予測AIで支えていくので、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速していくのではないかと思います。こういった世界で戦う企業と、一緒に世界で戦えるようなDXをしていく。その中で、HEROZという会社がどれだけ企業の競争力に貢献できるかだと思います」(同氏)

(提供=青潮出版株式会社