➤パワハラやセクハラなどハラスメント防止の法整備が進んでいますが、企業では貴重な人材の採用・定着・育成のためにこそ、ハラスメントが起きにくい組織風土創りが求められます。
➤多くの上司層は悪気がないにも関わらずハラスメント・リスクを冒しがちです。またハラスメント・リスクを恐れて部下とのコミュニケーションが希薄になる職場も増えつつあります。
➤こうした背景を踏まえて、本連載では管理職や経営者など上司層に向けてハラスメントを予防する上司力について解説します。

目次

  1. 上司のアンコンシャス・バイアスがハラスメントの温床になる
  2. 傾聴の姿勢を欠かさない

上司のアンコンシャス・バイアスがハラスメントの温床になる

コロナ禍の下でこそ、ハラスメント予防と社員エンゲージメント強化を
(画像=Rido/stock.adobe.com)

法律によるパワハラの三要件は、上司の部下に対する「優越的な関係を背景とした」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」「労働者の就業環境が害される」言動だとされています。しかし、明らかな暴力や暴言を除けば、パワハラか否かの線引きの基準は明瞭とは言えません。

上司にとっては日常の声掛けや、良かれと思った行動でも、部下がパワハラの三要件に当てはまると感じれば、訴えられる可能性もあります。愛情をもって育てようと熱心に接したつもりが、パワハラと指摘されてはたまりません。そう考える上司が、部下とのコミュニケーションを回避したい気持ちもわかります。悩ましいのは、「上司の正義」と「部下の正義」が対立する事態です。

人は一人ひとり違う価値観や感性を持つ生きものであり、環境や状況によっても変わります。百人百様同士のコミュニケーションの問題を法律で細かくすべて規定することは不可能ですし、万一規定できたとしてもすべての人がそれを暗記するのは現実的ではありません。つまり、法整備だけでパワハラの根絶は困難なのです。

多くの企業で人材育成を支援する中で感じるのは、上司側にアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見、固定観念)が強い場合や、上司と部下とのコミュニケーションが希薄な職場で、ハラスメントが生じやすいことです。上司の「仕事には多少の困難や不条理はつきものだ」、「部下は上司の指示命令に従うべきだ」といった固定観念が強い場合は、要注意です。上司の思い込みで一方的に評価したり、叱責しがちで、部下を傷つける言葉を発してしまう可能性が高いからです。

異性の部下に対しても、良かれと思ったコミュニケーションが、相手に不快な思いをさせる場合もあります。若い世代ほど、不条理なことを我慢し強要されることはおかしいという意識に変わってきています。まず、相手への理解に努めることが大切です。

傾聴の姿勢を欠かさない

上司がいつも忙しそうにしていたり、不機嫌そうにしていたりすれば、部下は上司に話しかけにくいものです。また、ハラスメントのリスクを恐れて、部下とのコミュニケーションを避けてしまっては逆効果です。職場でお互いに気持ちよく仕事ができる環境をつくるためには、上司からコミュニケーションしやすい環境をつくることです。ハラスメントを予防する職場づくりのために、次の二点を提案します。

第一は、上司が部下に対する傾聴の姿勢と方法を身につけることです。ミーティングや面談で沈黙に耐えられず、自分から発言し指示しがちな上司も多いでしょう。しかし、沈黙を受けいれることもコミュニケーションです。部下の意見や気持ちを丁寧に聴き、ありのままに共感的に受け止めるのです。そして、部下がなぜそうした考えや気持ちを持っているのか、正確に理解するように努めます。そのうえで、相談やアドバイスをすることです。

第二は、双方向のコミュニケーションを心がけることです。厳しい経営のなか、これまで以上の高い業績目標を掲げる必要があるとします。あるいは、本部など上層部から非常に高い目標を指示されたとします。ありがちなのは、組織命令なのでやむなしとし、そのまま部下に割り振るトップダウンです。しかし、現場の部下の実状に配慮せず目標を強いることは、「過大な仕事の要求」となるリスクがあります。まず、現状の仕事の負担感をよく聴く必要がります。

また、お客様のニーズに接し、仕事の改善や創意工夫ができるのも現場の部下たちです。そこで、お客様の要望に応えながら、よりよい仕事をするためにはどうすべきか、部下と一緒に知恵を絞るのです。そして、経営上有効な情報に整理して目標を再設定、あるいは上層部に調整を上申しましょう。これは現場と経営を繋ぐ不可欠なコミュニケーションであり、管理者の重要な仕事です。

傾聴の姿勢と双方向のコミュニケーションを重視する上司の姿勢が、ハラスメントを予防する職場環境をつくり、よりよい仕事の創造にもなるのです。

次回からは、具体的なケーススタディを交えて、「ハラスメントが起きにくい職場を創る」経営者・上司の心得と対応のポイントを解説していきます。

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本物の「上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)及び『本物の「上司力」』(大和出版)

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(提供:THE OWNER