「八方ふさがり」に陥るトルコ中銀とリラ相場
第一生命経済研究所 主席エコノミスト / 西濵 徹
週刊金融財政事情 2021年4月27日号
トルコリラ相場はここ数年、下落傾向を強めてきた。その背景には、経常赤字と財政赤字という「双子の赤字」に加え、慢性的インフレという経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さがある。また、米国など諸外国との対立、そして中央銀行の政策運営に対するエルドアン大統領による「圧力」といった問題も重なった。さらに、昨年は新型コロナウイルス蔓延による国際金融市場の動揺や世界経済の減速を受け、リラ相場は一時最安値を更新するなど、調整圧力を一段と強めた。
こうしたなか、昨年11月に中銀総裁に就任したアーバル氏は大幅利上げを実施した。一転して金融引き締めにかじを切ったことで、その後のリラ相場は底入れする動きが見られた(図表)。アーバル氏は今年3月の定例会合でも追加利上げを実施するなど、物価と通貨の安定を目指して敢然と引き締め姿勢を示す動きを見せた。しかし、「高金利は高インフレを招く」という「トンデモ理論」を唱えるエルドアン大統領との対立から、追加利上げ直後に突如更迭され、中銀の独立性に再び暗雲が立ち込める事態となった。
市場は、後任として総裁に就任したカブジュオール氏の姿勢を図りかねている。同氏はもともと大統領のトンデモ理論を信奉する姿勢を見せていたため、総裁交代後にリラ安が進むなど当初、市場では不安が広がった。ただ、その後は物価安定には金融引き締めが必要との認識を示すなど「変心」した姿勢も見せ、市場は幾分落ち着きを取り戻した。
しかし、4月15日に開催されたカブジュオール新総裁下で初となる定例会合では、政策金利を据え置いた。加えてアーバル前総裁の任期中に示された「必要に応じて一段の引き締めを行う」とのタカ派姿勢を取り下げた。このため、市場では中銀が先行き利下げに動くとの見方が出ている。仮に利下げに動けば、中銀およびリラは金融市場から見放されるリスクが高まる。一方、金融引き締めを実施すればカブジュオール総裁がエルドアン大統領と対立し、更迭される可能性も高まる。八方ふさがり状態に陥ったカブジュオール総裁の「本心」は見えない。
トルコでは足元、感染力の強い変異株によって新型コロナの感染が再拡大している。死亡者数も拡大傾向を強め、状況は厳しい。政府は夏季休暇の時期の行動制限を課すなど感染対策に動いているが、状況いかんではさらなる厳しい措置の発動を余儀なくされ、底入れが進んだ景気への悪影響は必至だ。近年のエルドアン政権の強権姿勢には国内でも不満がくすぶっており、新型コロナ対応の行方は政権を揺るがす事態に発展する恐れもある。
(提供:きんざいOnlineより)