「雇用調整助成金」とは、国が休業手当を助成するものだ。コロナ禍において企業の雇用を守る制度の1つだが、不適切とみられる申請・受給をある企業が行っていたことが報じられた。西武ホールディングス傘下の西武ハイヤーだ。問題点を整理して考えてみよう。

雇用調整助成金とは?国が休業手当を助成する制度

西武HD傘下企業が休業手当1.6億を不正利用?コロナ禍で多発する不正受給問題を大暴露
(画像=キャプテンフック/stock.adobe.com)

この西武ハイヤーの件を最初に報じたのは読売新聞だ。その後、ほかのメディアも「コロナ×カネ」の切り口で取材・報道しており、世間に波紋を広げた。では具体的には、どのように不適切とみられる申請・受給が行われたのか。

そのことを理解するために、まず「雇用調整助成金」がどのようなものかを理解しておく必要がある。雇用調整助成金はそもそも、自然災害や不景気などによって事業縮小を余儀なくされた企業が従業員を休業させるなどした際、従業員に対する休業手当の一部を国が拠出する制度だ。

新型コロナウイルスの感染拡大で企業が従業員の解雇も検討する中、休業手当を国が支援してくれれば、企業はその従業員を「解雇」ではなく「休業」にさせやすい。

そして国は現在、コロナ禍における雇用調整助成金の特別措置として、従業員1人当たり1日1万5,000円を上限に休業手当の最大100%を助成する枠組みで企業を支援している。

受給した雇用調整助成金の一部が残る形になり…

コロナ禍によるタクシー利用者の激減で、西武ハイヤーは業績が著しく悪化していた。そのような状況の中、同社はこのコロナ禍における雇用調整助成金の特別措置の制度を活用し、助成金を申請・受給していた。

この雇用調整助成金の仕組みを活用したこと自体には問題はないが、報道などで問題として指摘されている点は、受給を受けた4億1,500万円のうち、実際に従業員に支払った金額は受給額の約60%に相当する2億5,200万円に過ぎなかったという点だ。

では、残り約40%の1億6,300万円はどこに消えたのか。報道によれば「特別利益」として処理されていたようだ。西武ハイヤー側は不正受給の認識が無かったとしている。しかし、そもそも「4億1,500万円」という受給額はどのようにして算出されたのか。

西武ハイヤーは休業させた従業員1人につき「平均賃金の100%」の助成を国に申請した。その合計額が4億1,500万円だ。しかし、西武ハイヤーが従業員に実際に支払った休業手当の多くは「基本給の100%」の金額だった。平均賃金と基本給では基本給の方が低いため、結果的に国から受給した雇用助成調整金の一部が支給されずに残ることになった。この残った金額を西武ハイヤーは特別利益として計上したわけだ。

「コロナ×カネ」をめぐるさまざまな不正・問題

西武ハイヤーに不正の意図があったにせよなかったにせよ、今回の件は「コロナ×カネ」の切り口で大いに注目を集めた。これまでにも国の助成金や支援事業に関する問題が多発していたからだ。

「持続化給付金」の不正受給問題

最も世間に波紋を広げた問題としては、「持続化給付金」の不正受給だろう。持続化給付金は、売上が落ち込んだ中小企業や個人事業主を支援するため、国が個人事業主に対しては最大で100万円、中小企業に対しては最大で200万円を支給するというものだ。

この持続化給付金に関して、申請書類として必要となる確定申告書を偽造するなどして不正受給をする人が続出した。大人数に対して不正の手口を指南したケースも目立っている。

この持続化給付金の申請受付は終了しているが、NHKの報道によれば、今年2月10日までに全国で500人以上が摘発された。その後も北海道札幌市の会社経営者ら11人が一斉逮捕されるなど、逮捕者の数は増え続けている状況だ。

「Go To事業」における架空請求問題

2020年12月には、「Go Toイート」事業の枠組みを悪用した飲食店側の架空請求問題が報じられた。

Go Toイートでは、客がオンライン予約すると後日ポイントが付与される仕組みとなっている。報道によれば、飲食店側の関係者が客として予約を入れたように装い、それによって不正にポイントを取得しようとしていたようだ。

2021年4月には、「Go Toトラベル」事業で逮捕者が出た。宿泊施設を運営している女性が、架空の宿泊実績をつくり、国から給付金を詐取しようとしたとして、広島中央署に逮捕されている。

制度の「穴」があったとしても、悪用は許されない

雇用調整助成金も持続化給付金も、そしてGo To事業も、いずれも企業や国民を守るための制度だ。短い期間で制度設計をしたため、不正につながるような制度の「穴」があることは否めないが、だからといってその穴を悪用して不正受給を行っていいことにはならない。今後もこのようなケースでの逮捕は、ある程度続くものとみられる。助成金や支援事業の原資は税金であり、国もいまの状況を厳しく受け止めている。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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